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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月14日
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   1.中野放浪事件


 1981年4月5日、私は東京に遣って来た。
其の夜は、一足先に上京していた水登のアパートに泊まった。

 翌日は、大学でガイダンスのある日だった。
大学では4月1日に入学式が行われたが、其の日、私は広島の街を女と歩いていた。

 ガイダンスの後、私は秋葉原へ行き、16型のカラーテレビとラジカセとクリーナーを買った。
高田馬場で西武新宿線に乗り換え、沼袋で降りた。
家具屋を見付けて、カーテンとカーペットとビニール・ロッカーと本棚を1つずつ買い、「西友」で毛布と掛け布団と敷布団を2つずつ買った。
最後に酒屋でオールドを1本買い、其れを持って自分のアパートへ向かった。

 三栄荘は、古色蒼然、旧態依然とした木造2階建ての建造物で、東京大空襲の中を焼け残ったと思われるアパートである。
サッシの窓の部分だけが、浮かび上がって見えた。
階段を上って、六畳一間の部屋へ入った。部屋は、張り替えられたばかりの畳の匂いがして、修繕された天井と壁が、外観が凄まじいだけに、結構小綺麗に見えた。
階段を挟んだ隣の部屋に人の居る気配がするので、私は先程買ったオールドを持って其の部屋のドアをノックした。
ドアが開き、銀縁の眼鏡を掛けた神経質そうな男が出て来た。
期待するのは間違っていたが、矢張り男だった。
「今度隣に越して来た者ですが、此れ、どうぞ…。」
「あ、どうも…。」
「柳沢」と名乗った其の男は、私と同じ大学生になったばかりの新入居者であった。
其の夜も、水登のアパートに泊まった。

 群馬では、公立高校は男子校と女子校に分かれていて、私立校が共学と言う、普通と逆の様子である。
柳沢は、伊勢崎東高校に通った。
そして、彼と中学が同じだった久保田香織は、伊勢崎女子高校に通っていた。
東高と伊女は同じ伊勢崎市内に在って、交流が盛んであったらしい。
柳沢には高校時代、太田女子高校に通う1つ年下の彼女が居たが、彼と久保田香織は、恋人では無いが友達以上の関係だった。
卒業後、彼女は東京の専門学校に進み、偶然彼と同じ中野に住む事になった。
新居が落ち着いてから、二人は久し振りに逢う約束をした。

 再会の夜、柳沢は彼女と三栄荘に寄り、私を一緒の食事に誘った。

 久保田香織は、カーリー・ヘアーをした色白の痩せた女だった。
踏切の側に在る「さだひろ」と言う店へ行き、三人で食事をした。
食事の後、珈琲を飲みながら喋っている間に遅い時間となり、柳沢は彼女をアパートまで送る意を述べた。
「でもあの辺って、路が迷路みたいなのよ。あなた方向音痴でしょ。」
「確かに、送ってから三栄荘まで一人で帰れる自信は無いな。じゃあ、鉄兵に一緒に行って貰うよ。」
「そんなの悪いわ。」
「良いだろ? 鉄兵。」
柳沢は、私の方を見てから続けた。
「君が、俺には送って欲しく無いと云うのなら、別だけど…。」
「そうじゃないわよ。」

 彼女のアパートは、「さだひろ」から歩いて15分位の所に在った。
話の通り、狭い路が非常に入り組んでいる場所だった。
彼女に「おやすみ」を告げて、私と柳沢は深夜に差し掛かろうとしている住宅街を、今歩いて来た路を思い出しながら三栄荘へ向かった。
「中々可愛い娘じゃない。」
歩きながら、私は云った。
「そうかい…? 
どうしても、彼女が気になるんだよね。彼女に何時も関わっていたいんだ。」
「付き合ってしまえば好いのさ。」
「うん、…。」
彼は、其れ以上話さなかった。

 路端に人影らしきものが見えた。近付くと、若い女がしゃがみ込んで泣いていた。
我々は黙って通り過ぎた。
暫く歩いてから、私は云った。
「矢張り、こんな真夜中に一人で泣いている女の子を見て、声を掛けないと言うのは間違っている。」
「そうだな。」
と柳沢が云い、我々は引き返そうとして振り返った。
然し、もう女の姿は無かった。

 どうやら道に迷った様であった。
久保田香織と別れてから、30分以上は歩いている。
住宅の屋根の上に見える、「中野サン・プラザ」を指して、私は云った。
「サン・プラがあっちに見えるって事は、北へ行けば良いのだから、此の方向へ歩いて行けば、西武新宿線に突き当たる筈だ。そしたら線路沿いに東へ歩いて、沼袋の駅へ出れば良い。」
我々は、北であると思う方向へ歩き続けた。
然し、路が真っ直ぐで無く、真北に向かっているなと思うと、直ぐカーブしてしまう。

 四つ角に出た。
「急度、こっちだ。」
私が云い、其の方へ歩いた。
少し行くと、路は右へ曲がっていた。
更に行くと、又右に曲がった。其の先で、もう一度右へ曲がり、先の四つ角に出た。

 我々は、深夜の街を歩き続けた。
何処まで歩いても、西武線には出れ無かった。疾うに、足は棒になっていた。
柳沢は座り込んでしまった。
「俺、もう疲れちゃったよ。このまま、此処で寝ちまおうぜ。」
「東京へ来た許で、其れは悲惨だよ。急度、もう直ぐ西武線に出れるさ。」

 我々は彷徨い続けた。意識が鈍って、自分が今歩いているのか止まっているのか判らなくなりかけた時、目前に高架橋が現れた。
「あれだ! あれは、きっと線路だ。」
私は叫んだ。
其の時、電車が遣って来た。
「やった!」
我々は、元気を取り戻した。
「未だ電車が走ってるって事は、そんなに長い時間迷ってた理由でも無いんだ。」
我々は、希望の電車を見送った。
「あれっ…?」
突然、柳沢が変な声を出した。
「今の電車、何色だった?」
「あっ…。」
私は、言葉を呑んだ。電車は、オレンジ色をしていた。
西武線の車輌は、確か黄色であった。
「うわあっ…!」
二人は、同時に叫び声を上げた。
何と、直ぐ前に、「中野サン・プラザ」が聳え建っていた。

 我々が見送ったのは、始発の国電であった。
何処をどう歩いたのか定かで無いが、我々は堂々巡りを繰り返しながら、少しずつ南へ歩いていたのだ。
中野駅へ出て、足を引き摺りながら三栄荘へ帰った。

 「この前、帰り道が解らなくなって、3時間も歩き廻ったんだって?」
ケラケラ笑いながら、香織が云った。
私は、蕎麦を口へ運びながら頷いた。
「だから云ったじゃないの、迷っても知らないよって。」
「俺は別に、送って行きたかった理由じゃないぜ。」
香織は、笑うのを止めた。
「御免なさい。私の所為だわね。」
「否、君が悪いんじゃない。あれは、中野に住む古ギツネの仕業さ。」
彼女は又笑った。
「本当に居るぜ。キツネは…。若い女に化けるのが上手いんだ。」
「まさか…。」
彼女は、体を折って笑った。
「香織ちゃん、勤務中ですわよ。」
白い三角巾をした、香織と同じアルバイトらしい女が声を掛けた。
「あ、紹介するわね。こちら、柳沢君の隣人の鉄兵君。こっちは、東世樹子さん。」
「どうも初めまして、東です。 …。」
其の女は、指で香織をつつきながら、小声で何か云った。
「もう! 一寸…。」
小さく叫ぶと、香織は彼女の腕を引っ張って、店の奥へ連れて行った。

 香織は、同じ高校出身の東世樹子と、アパートで共同生活をしていた。
二人は、同じ専門学校にも通っていた。
又、一緒にアルバイトをしようと捜したが、中野には余り良いのが無くて、仕方無く蕎麦屋の店員に決めたのだそうだ。
「高月庵」と言う名の其の蕎麦屋は、中野駅北口の直ぐ前に在った。
「柳沢君、群馬へ帰ったの?」
再び、香織が遣って来て云った。
「うん、昨日帰った。」
ゴールデン・ウィーク前に、柳沢は早々と帰省していた。
「どうして? もうホームシック…?」
「さあ…? 逢いたい『ひと』が、居るんじゃない?」
「ああ…、そっか…。」
狸蕎麦の汁を飲み干して、私は煙草を銜えた。ライターで火を点けてくれながら、彼女は云った。
「彼が帰ってしまって、淋しい?」
「うん、淋しい。
特に、夜になると辛い…。」
「私が慰めてあげようか?」
「うん、慰めてあげて…。」


                           〈一、中野放浪事件〉





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Last updated  2007年02月12日 22時20分00秒
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