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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月15日
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   2.手料理


 夕闇が迫る時刻に、私は中野駅北口に立って居た。
約束通り、香織は遣って来た。
「待った?」
「うん。」
「えっ…、どれ位…?」
彼女は、驚いた様に腕時計を見た。
「『久保田香織』と言う女を待った。」
「何? 其れ…。」

 「高月庵」へ行った時、私と彼女は池袋サンシャインへ夜景を見に行く約束をした。
新宿で山手線に乗り換え、池袋に着いた。
緩やかな坂路を歩いて、サンシャインに入り、結構高い入場料を払って最上階直通のエレベーターに乗った。
靄の無い晴れた夜で、景色は好く見えた。
道路上に無数に繋がった自動車のライトが、地上の「天の川」を想わせた。
「上から観ると、東京も綺麗ね…。」
と、彼女は云った。

 サンシャインを出ると、香織はやけにゆっくり歩いた。
「ねえ…。」
彼女は、前を向いたまま喋った。
「ねえ、鉄兵君…。」
「何?」
「もし、私が…あなたの事、…好きだって云ったら、どうする?」
少し驚くと同時に、私は「来たな…。」と思った。
初めて逢った時、彼女が私に対して少なからぬ好意を抱いた事は、感じていた。
柳沢の気持ちを知っている私としては、直ぐに断わろうと考えた。
私は黙っていた。
「あ、御免なさい。迷惑だわよね…。」
香織は慌てた口調で云って、苦笑いをした。
私は尚、黙って歩いた。

 香織はずっと下を向いた儘で、表情は判らなかった。
電車の中で、私は考えた。
彼女を傷つけぬ様に、「ノー」の返事をする事は簡単であった。
問題は、別に有った。
東京に来て未だ日の浅い私にとって、女の知り合いは貴重だった。
理想的なのは、柳沢と彼女が恋人として付き合い、彼女の女友達を私が物色して行く、と言う形であった。
然し彼女は、柳沢には全く恋愛感情を持ち合わせて無い様子だった。
(彼女をフッた場合、隣に俺が住んでいる以上、彼女は柳沢に逢う事を避けるだろう。
少なくとも、一時的に彼女と柳沢は、疎遠になるに違いない。
そうなれば、彼女の女友達と知り合える可能性は皆無になる。
柳沢は、一体…。)
私は結論した。

 二人共黙り込んだ儘、中野駅の改札を出た。
サンプラの前に差し掛かった時、香織が口を開いた。
「あなたには済まないけど…、はっきり返事を聴かせて呉れないかな? 
すっきりしたいの。」
「俺も、君が好きだ。」
香織は立ち止まった。
続いて私も足を止め、振り向いて彼女の眼を見詰めながら、もう一度云った。
「初めて逢った時に、君を好きになってた。」
我慢出来無くなった様に、彼女は泣き出した。

 「でも、随分意地悪なのね。ずっと黙ってるなんて…。」
カップの中のレモンをスプーンで取り出しながら、香織が云った。
「だってさ、東京に来て行き成り相思相愛になれるなんて、信じられなかったんだよ。
ラッキーチャンスを大事に思う余り、直ぐに言葉が出て来無くって…。
恰好良い台詞を一生懸命考えてたんだぜ。」
「恰好良かったわよ。」
笑いながら、彼女は云った。
「本当かい? 
怪しいな。」
「本当よ。
…本当に、嬉しかったわ。」

 5月2日から、私は大阪の友人の処へ遊びに行った。
予定より2日遅れて、7日に東京に戻った。
8日には、大学のサークルの新歓コンパがあった。

 9日は疲れと二日酔いで、昼過ぎまで寝ていた。
未だ頭痛がしたが、香織に逢う為私は部屋を出た。
彼女と池袋へ行った帰りに立ち寄った、「赤いランプ」と言う早稲田通りに在る喫茶店で待ち合わせていた。
香織は一番奥の席で紅茶を飲んでいた。
「ポートピアは楽しかった?」
「…痛い。」
「どうしたの?」
「…頭が…痛い。
昨日、コンパでさあ…。」
「何だ。
二日酔いか。」
「神戸は最低だった。
定期と学生証を落とすし…。」
「まあ、失くしちゃったの?」
「一応落とし物の届出は、して置いたけど…」
「学生証失くして、大丈夫なの?」
「さあ…? 
心も体もズタズタだ…。」
「酷く痛むのなら、薬飲んだ方が良いわよ。」
私は、水をお代りした。
「疲れてるみたいね。」
「否、先まで寝てたから…。」
「そう。
じゃ、御腹空いたでしょう?」
「うぅん…。
未だ食べたく無い。」
「あなた痩せてるから、確り食べなきゃ…。
毎日、ちゃんと食べてる?」
「俺、現代では貴重な栄養失調なんだ。」
「‥…。」
「外食ばかりで、而も碌な物食べて無いんだよね。」
「‥…。」
「今日は土曜日か…。
土曜の夜になると、想い出すんだよね。
オフクロの温かい手料理…。
手料理かぁ…、好いなあ…。」
「…其れで?」
「え? 
別に其れだけさ。」
「何か云いたいんでしょ?」
「どうして? 
でも、手料理は好いよね。」
「そうね。
お母さんに作り方を教えて貰っとけば好かったのにね。」
「‥…。」
「今からでも、手紙に作り方を書いて送って貰えば?」
「…君って案外、冷たい女だったんだね。」
「そうかしら?」
「ああ…、頭が痛い。
心も痛い…。」
「解った、解った。
作って挙げるから泣かないの。」
「本当?」
「でも、あなたのお母さんの様に美味しくは無いわよ。
急度…。」
「冗談じゃ無い。
オフクロの料理なんて食べたく無いよ。
君の手料理が食べたい。」
「最初から、素直にそう云えば好いのよ。」

 彼女が「コム・サ・デ・モード」の服を買うのに付き合った後、ブロードウェイの地下に在る「西友」へ行った。
「西友」のナイロン袋を下げて、彼女のアパートへ向かった。
飯野荘の階段を上がった処で、
「一寸此処で待ってて。」
と、彼女は云った。
彼女が鍵を開け「ただいま」と云いながら部屋に入ると、「お帰り為さい」と、微かな別の声が聴こえた。
暫くして、香織が出て来た。
「好いわよ。 どうぞ。」
私が部屋に入ると、
「いらっしゃい、鉄兵君。」
と、世樹子がにこやかに云った。
「どうも…。食べる物も無く路頭に迷ってた哀れな男です。」
香織は早速支度に取り掛かっていた。
「香織ちゃんは優しいわねぇ…。」
世樹子が云った。
「俺が無理矢理頼んだんだよ。」
「云っとくけど、味は保証しないわよ。」
台所で背中を向けた儘、香織が云った。
「食えれば文句は云いません。」
「あら、香織ちゃんとっても上手いのよ。
期待し為なさい。」
途中から世樹子も手伝い始めたので、私は煙草を吹かしながら一人でテレビを観ていた。
かなり時間が経った後、
「お待たせ…。」
と云って、鳥肉の唐揚げ、ロールキャベツ、サラダ等が運ばれて来た。
「時間掛かってしまって、御免なさいね。
私、手際が悪いから。」
香織が云った。
「嘘よ。
香織ちゃん、いつもは凄く手際良いのよ。
今日は特別なの…。」
世樹子が云った。
私は流石に空腹だったので、直ぐパクついた。
「駄目よ、鉄兵君。
もっとゆっくり、善く噛んで、…味わいながら食べなきゃ。
思い遣りを…。」
世樹子が窘めた。
「…うん、…美味しい。」
私は云った。
「本当?」
香織が不安そうに云った。
「当たり前よ。」
世樹子が云った。
本当に美味しかった。

 「鉄兵君、私、オジャマ虫でしょうけど許してね。
他に行く処が無いの。」
世樹子が云った。
「好いのよ。
此の人、今夜はちゃんと帰るんだから。」
「あら、泊まって行くんじゃないの?」
「まさか。
初めて来た女の部屋に、行き成り泊まってく男なんて居ないわよ。」
「別に良いんじゃない? 
私、何も見ないし、聞かないし、ちゃんと先に寝るから。」
「世樹子。 
あんたって娘は、何考えてるの…?」
食事が終わると、二人は私を玩具にして楽しみ始めた。
「勿論、俺、帰るから心配要らないよ。」
私は云った。
「泊まって行き為さいよ。
鉄兵君。
遠慮する事無いわ。
香織ちゃんもほら、何か云って挙げ為さい。」
「本人が帰るって云ってんだから、好いんじゃないの?」
「あら、其れは可哀相よ。
ねえ、鉄兵君。
私の事は気にしないで、置物か何かだと思って…、どうか泊まって行って頂戴。」

 深夜に近付いた頃、私は解り易い地図を書いて貰って、飯野荘を後にした。


                             〈二、手料理〉





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Last updated  2007年02月04日 23時19分36秒
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