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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月18日
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   6.三栄荘の刺激


 「ねえ、私って子供っぽいかしら?」
美穂が云った。
「どうかな…。
胸はまあ一人前だったけど…。」
5月最後の日曜日、私は美穂と吉祥寺の井の頭公園に居た。
「私が訊いてるのは精神的な事よ。」
「『吉祥寺クリニック』が近くに在るぜ。」
私はオールを漕ぐ手を止めた。
「鉄兵は脳天気ね。」
「そんな事は無い。
何時も、人は如何に生きる可きかを考えてる。」
「友達を視てるとね…、私よりずっと深い思考をしている様に思えるの。
神経質な娘なんかは急度、私の事何も考えて無い人間だと思ってるわ。
…鉄兵も案外神経質そうな感じね。」
「自分を神経質だと思わない人間なんて居ないよ。」
ボートを下りて公園の中をブラブラ歩いた。
「淳一、怒ってたぜ。」
「ああ。千絵ちゃんの事ね。」
「何か、彼女は変だったな。」
「私には何も云って呉れなかったわ。」
「躁鬱の気が有るんじゃないの?」
「違うと思う。
あんな事初めてよ。」

 西武池袋線の東長崎に在る彼女のアパートへ彼女を送って行った時、周りの家々には明りが灯っていた。
「珈琲煎れるから、上がって行って。」
私は云われる儘に、彼女の部屋へ入った。

 美穂と私はカーペットの上に並んで座り、ベッドに背中を縋らせていた。
テレビが点いていたが、彼女は其の内容に全く関心が無い様だった。
「鉄兵はキスした事有るの?」
「男とした事は無い。」
「…。」
「君は有るのかい?」
「どちらともした事無いわ。」
「『誰が為に鐘は鳴る』って言う映画を知ってる?」
「知らない。」
「映画の中でイングリッド・バーグマンがさ、男性と初めてキスをした後『鼻は邪魔にならないのね。』って云うんだ。
彼女はずっと、キスする時には鼻が邪魔になるだろうと思ってたのさ。」
「鉄兵も邪魔にならなかった?」
「外人は鼻が高いからな。
特にバーグマンは…。」
「私の場合は気にする必要無いって云いたいんでしょう。」
「男が右側に女が左側に居てキスする場合、男は女に対して右斜めに頭を傾けた方が好いんだ。」
「どうして?」
「普通男が女より背が高いから、其の方が絵が好いのさ。」
「ベテランなのね。
私にはよく解らないわ。」
「唇の重なった部分がよく視えて、舌が入ってるかどうか判る。」
「…。」
「ねえ、試しに実践してみようか?」
「キスの実践? 
…好いわよ。
でも舌は入れないでね。」
彼女は眼を閉じた。
彼女の唇は乾いていて、少しかさかさした。
キスした事が無いと云うのは、本当かも知れないと私は思った。
随分長い時間、二人は唇を重ね合わせていた。
やっと口付けを終えた時、彼女は小さな声で云った。
「…舌は入れないでって云ったのに…。」
彼女の頬は、其の唇と同じ色に染まっていた。

 暫く黙ってテレビを視てから、彼女は云った。
「もう一度実践をしてよ。」
「さっきのはNGかい?」
「いいえ。
とても上手だったわ…。」
二人は再び唇を重ねた。
そして彼女はゆっくり身体を倒していった。

 4人の女を連れて、私は中野駅北口の改札を出た。
我々はサンモール街を少し歩いて、左手の路地を入った。
「此処だよ。」
私は「クラシック」と描かれた看板を指した。
老舗である其の喫茶店は、本当にクラシックな店構えをしていた。
店の中は非常に暗く、入って暫くは何も視えない程だった。
入口で注文を云ってから、我々は手探りで階段を上がり、低い天井と足元に気を付けながら席に着いた。
直ぐに水が運ばれて来た。
水の入っているコップは「ワンカップ大関」の空き瓶であった。
「まあ、本当なのね。」
美穂は其のコップを手に取って笑った。
「一寸、凄い店ね…。」
千絵が云った。
私も改めて店内を眺めた。
屋根裏部屋の様な処に不規則に狭い間隔で、テーブルと椅子が設置されていた。
1階に有る恐ろしく大きなスピーカーからは、クラシック音楽だけがずっと流れていた。
「何か出そうじゃない…? 
私怖くて一人じゃ来れない。」
首を竦めて真美が云った。
やがて珈琲が運ばれて来た。
珈琲には別に変わった所は無かったが、ミルクの入れ物がマヨネーズの蓋であった。
此の店に来る客は、ベレー帽を被ったり画板を提げたりした、画家或いは美術学校の学生風の人間が多かった。
「和代ちゃんは、何のサークルに入ってるの?」
私は其の日初めて逢った、其の女に訊いた。
「『舞台装置研究会』。」
「へえ。
何するの?」
「コンサートなんかの舞台装置や演出を考えるのよ。」
「照明屋さんか。」
「そう。照明が主な仕事ね。」
「PAの操作は?」
「其れは真美の『アナウンス研究会』がやるの。」

 「クラシック」を出て、我々は三栄荘へ向かった。
早稲田通りを渡って、随分陽が長くなった夕暮れの舗道を歩いた。
「其れ、一体何が入ってるの?」
真美が持っている大きな紙袋に就いて、私は尋ねた。
「何だと思う?」
真美は笑いながら云った。
「ポテトチップスよ。」
美穂が云った。
「こんな大きなのが…? 
全部そうなのかい?」
「そうよ。ほら。」
真美は紙袋の一部分を破いて、中身を見せた。
「大学の近くの店で売ってるのよ。」
「恥かしいから、今日は買って行くの止め為さいって云ったのに、真美ったら…。」
千絵が云った。
「あら、此れ好いじゃない。
沢山入ってて…。
自分もよく買うくせに…。」
真美は其の紙袋を両手で胸の前に抱えて歩いた。

 6月に入って最初の金曜日、三栄荘では私の大学の知り合いの女と、柳沢の大学のクラスの男で、合コン風の宴会が催される事になっていた。
「未だなの…?」
美穂が歩き疲れた様子を示した。
三栄荘は沼袋駅からは歩いて五分程だったが、中野駅からは少し遠かった。
「さあ、着いたぜ。」
私は門を潜ったが、彼女達が付いて来ないので再び外へ出た。
女達は路の上にしゃがみ込んでいた。
「嘘でしょう? 
何? 
此れ!」
美穂が悲鳴を挙げた。
「凄まじいわね…。」
千絵が溜息を吐いた。
「鉄兵君、可哀相!」
真美が涙ぐんだ。
「好いアパートだろう? 
アンティークで…。」
私は仕方無く云った。
「クラシック」へ寄って、少しでも彼女達の眼を刺激に慣れさせようとした、私の作戦は功を奏さなかった。
「早く入れよ。」
彼女等のリアクションが余りに大きかったので、私はややショックを感じ強い口調で云った。
「腰が抜けたわ…。」

 「乾杯!」
全員でグラスを合わせて、何時もの様に宴会は始まった。
何時もの様に、柳沢は乾杯の瞬間自分のグラスを割った。
「アナウンス研究会なの? 
俺、将来は放送関係への就職を志望してるんだ。」
真美に向かって、横尾が云った。
彼が放送関係志望と言うのは、初耳だった。
「夜はそっちの方の専門学校へ行ってるんだ。」
「へえ…、大変ね。」
此れ以上聴いてると疲れそうなので、私は和代に話し掛けた。
「君も腰が抜ける程吃驚したかい?」
「ううん。
でも少し驚いたわ。」
彼女は、悲惨な大妻女子短大との合コンで逢ったヨーロピアンの女に、雰囲気が似ていた。
「この辺は綺麗な住宅やマンション許だから、此の建物は目立つのよ。」
横尾と真美は意気投合した様子で喋っていた。
「私は好きになれそうよ。
此のアパート…。」
「三月に入学の手続きで一度東京に来た時、時間が無くてさ、一応仮の住まいと言う事で、此処に決めたんだ。
4月中に好い処を捜して、引っ越す積もりだったんだけど…。」
「住めば都って理由ね。」
横奥は美穂が気に入ったらしかったが、彼女に水割を勧められて困っていた。
彼は全く酒の呑めない体質だった。
「私、此処の近くに住んでるのよ。」
和代は云った。
「えっ、本当? 
中野駅の辺かい?」
「ううん。
沼袋…。」
「そいつは素晴らしい。」
「線路の北側なの。」
「『赤いサクランボ』…。」
「帰りによく寄るわ。
彼処のケーキ美味しいのよ。」
自然、柳沢は千絵と会話をしていた。
和代はかなり呑めるらしく、水割を直ぐにお代りした。


                           〈六、三栄荘の刺激〉





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Last updated  2007年02月07日 01時03分48秒
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