640682 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

ゆうとの428

ゆうとの428

Recent Posts

Category

Favorite Blog

久しぶりに行きまし… New! ruccさん

D'Addarioダダリオの… hanewoさん

iTunes iPod 私的 iM… APPLEマニアさん
TOYO’S ART… DONYAさん
joker   (;… jokerさん
☆korekara☆ゆっくり… charizaさん
あみぷぅの日々是好… あみぷぅ♪さん
ママ優先の子育て日記 からりょんさん
あまなっぷるの長閑… あまなっぷるさん
公立、四年生まで塾… はりせんぼんaさん

Comments

分かります。@ Re:いつでもどきどきしてるんだ ~みんなのうた~(03/09) 私が中学生の頃だと思います。 途切れます…
すけきよ@ 懐かしい この曲って1978年放送の「長島監督ご…
トレロカモミロ@ Re:いつでもどきどきしてるんだ ~みんなのうた~(03/09) 知ってますよ。この歌もう一度聞きたくて…
みやっち@ Re:とうとう、高校3年生になりました。。(06/20) 初めて書き込みします。 最近こちらに出会…
書き散らして逃げですか?@ Re:中学受験終了!(02/01) 肝心の大学受験結果を報告してください。…
それで?@ Re:とうとう、高校3年生になりました。。(06/20) これだけ自信たっぷりに公衆にメッセージ…
ご報告を@ Re:中学受験終了!(02/01) その後附属からどちらの大学へ進学された…
責任を@ Re:あなたは・・、何て言ったの・・?(06/24) これだけのことを書いたのだから、息子さ…
実証?@ Re:子供を東大へ行かせる方法 11(12/14) 興味深く拝見しました。それでこのメソッ…
グッチ 折り財布@ ifxnugt@gmail.com 今日は~^^またブログ覗かせていただき…

Calendar

Archives

2024年10月
2024年09月
2024年08月
2024年07月
2024年06月
2024年05月
2024年04月
2024年03月
2024年02月
2024年01月

Keyword Search

▼キーワード検索

2005年10月19日
XML
   7.フェリス女学院ダンス・パーティー


 「柳沢。
和代ちゃん、沼袋に住んでるんだって。」
「本当? 
じゃあ、中野ファミリーの一員だ。」
「何? 
『中野ファミリー』って。」
千絵が訊いた。
「中野に住む若人の集いさ。」
「それに彼女は、三栄荘も好きになれそうだと云って呉れた。」
「嗚呼…。
君は我がアパートに舞い降りた天使だ。」
そう云って、柳沢は和代の手を握った。

 外は未だ宵の口だったが、宴会はその後早くも佳境に入った。
横尾は私のギターを抱えて弾き語りをやり、真美が其れを聴いていた。
彼女の持って来たポテトチップスはとても食べ切れないだろうと思われたが、既に無くなっていた。
横奥は理由の解らない踊りを踊り、柳沢は料理教室を始めた。
私は手鏡を持って来て和代に持たせ、彼女の長い髪を弄って色々な形に変えて見せた。
「私、耳が異常に大きいから出せないのよ。」
手鏡を置いて和代は云った。
「そんな事無いさ。
君はショート・カットの方が絶対似合う。
でも長い髪も素敵だ。」
「有り難う。
余り褒めて貰うと、美穂に悪いわね。」
「何を仰る和代さん。
君と比べたら美穂なんて…。」
途中で私は云うのを止めた。
美穂がグラスを持って、私の隣に座った。
視ると、横奥は潰されたらしく眠っていた。
「ほら、美穂が来たわよ。」
和代はニヤニヤしながら云った。
「あら。
私唯聴いてるから、二人で話を続けて…。」
美穂が云った。
私は間を埋める為に、水割をゆっくり呑んだ。
「和代ちゃんのアパートの場所、ちゃんと教えて貰った?」
美穂が訊いた。
「否、未だ詳しくは…。」
私はグラスに口を付けた儘云った。
「今度、美穂と二人で遊びに来てね。
場所は彼女が知ってるわ。」
和代が云った。

 三栄荘に於ける宴会では、時計の針が深夜を回りもう此れ以上酒が呑めないと言う頃になると、酔い醒ましと称して、男女のカップルで外へ散歩に出るのが慣習であった。
横尾と真美は一番に部屋を出て行った。
横奥が眼を覚ましそうに無いので、美穂と和代の二人を連れ立って、私は外へ出た。
柳沢と千絵は部屋に残った。
川沿いに歩いて、中野公園に出た。
ベンチの一つに、横尾と真美が腰掛けて居た。
「あの野郎…。」
私は繁みに隠れて、ベンチの二人を覗き視る姿勢を取った。
「鉄兵、何してるの?」
美穂が云った。
「彼奴は手の早い奴だから、真美ちゃんの為に此処で監視するのさ。」
「あの娘はあれでとても確りしてるから、何も起こらないと思うわよ。」
和代が云った。
「真美ちゃんはアナ研に好きな人が居るのよ。」
美穂が云った。
「そりゃあ、横尾も厳しいな。
只でピーピング・ルームの気分が味えると思ったのに、残念だ…。」
三人は又ブラブラ歩き始めた。
真夜中の公園には、我々の他誰も居なかった。
「あれは何?」
長く続く高いコンクリート屏を指して、美穂が云った。
「刑務所さ。」
「こんな近くに在るの? 
気味悪くない?」
「否、別に…。
スリルが有って、好いと思う。」
我々は、其の屏の下へ近付いた。
「和代ちゃんは知ってて沼袋にしたの?」
「そうよ。
でも交通刑務所らしいから、凶悪犯みたいなのは居ないんじゃないの?」
真っ暗な空に、コンクリート屏が冷たく聳え立って居た。
「あっ! 
誰か居る…!」
突然私は、屏を視て叫んだ。
そして同時に、来た路を駆け出した。
私より少し遅れ気味に、和代も走り出した。
「えっ…? 待って…!」
美穂が小さく叫んだ。

 「どうしたの?」
真美の声で、私と和代は走るのを止めた。
「どうしたんだ? 
鉄兵。」
横尾が云った。
和代は息を弾ませながら、笑っていた。
「美穂がさあ…、」
云いながら、私は息を整えた。
「美穂ちゃんが、どうかしたの?」
真美が訊いた。
「…あっちに居る。」
私は云った。
美穂は泣きながら此方へ歩いて来ていた。
「まあ! 
美穂ちゃん!」
真美が駆け寄った。
「どうしたの? 
美穂ちゃん。」
美穂は、顔に手を充て泣く許だった。
「鉄兵君!」
真美が私を視た。
「酷い事したんでしょ?」
「だって、和代ちゃんが乗るんだもの…。」
私は余り巧く行き過ぎて、少し驚いていた。
「御免ね、美穂…。」
和代が云った。
美穂が泣き止んでから、我々は三栄荘へ戻る為歩き出した。
「悪かったな…。」
女達より前を歩きながら、私は横尾に小声で云った。
「否、いいさ。
彼女のガードが固くて、全然駄目だった…。」

 6月13日、私と柳沢は午後4時過ぎから銭湯へ行き、部屋へ戻って支度を済ませると、フェリス女学院のダンス・パーティーに出席する為二人で出掛けた。

 渋谷駅で、東横線への乗り換えの改札を通り抜けようとした時、私は右腕を駅員に捕まれた。
「もう一度、定期を見せて。」
駅員は云った。
私の定期に渋谷は含まれて無かった。
「お前、指で駅名を隠しただろう。」
急に厳しい口調で駅員は云った。
私は鉄道公安室へ連れて行かれた。
係員に私を引き渡すと、駅員は持ち場に戻って行った。
「大学は何処?」
係員が尋ねた。
「法政大学です。」
私は椅子に座って答えながら、用紙に大学名と住所、氏名を書き込んだ。
「又法政かよ…。」
係員は笑いながら云った。
「其れを見てみな。」
私は、故意に不正乗車をした者の名前が書かれた用紙の束をパラパラ捲って見た。
成程、学生の殆どは法大生であった。
法大では、1年生は毎週1回、体育の為に東横線に乗らなければならなかった。
其れ故渋谷駅の改札で捕まるのは、法大生が多かった。
「もうこんな事するなよ。」
係員は真面目な顔になって云った。
私は謝罪の言葉を述べ、3倍の運賃を支払って公安室を出た。
柳沢は改札の向うで待っていた。
私の腕を掴んだ駅員は、未だ切符を切っていた。
私と柳沢は予定を随分遅れて、東横線の急行に乗った。
「間に合うかな?」
私は云った。
「限々どうかって処じゃない?」
「付いてねえよ。
急度、今夜は前途多難だぜ…。」
桜木町で根岸線に乗り換え、石川町で降り、山下公園を目指して我々は急ぎ足で歩いた。
会場の氷川丸に着いた時、既にダンス・パーティーは始まっていた。
私も柳沢も、フェリスに知り合いは居なかった。
フェリスの女と慶応の男と言うのが、一般的なパターンだった。

 「大学は何処?」
「佳子」と名乗った女の方が訊いた。
「俺は明治学院。」
柳沢が云った。
「飯田橋体育専門学校。」
私も答えた。
「あら、二人別々の大学なのね。」
「俺達アパートが一緒なんだ。」
柳沢が云った。
東横線での私の予言は外れ、我々が最初に声を掛けた女は運良くフリーの二人連れだった。
「飯田橋に体育専門学校なんて在るの? 
あ、御免なさい…。
聴いた事が無いものだから。」
「そう? 
名前だけは結構有名なんだぜ。」
私は云った。
彼女達はフェリスの1年生だった。
「ああ、解った。
法政でしょ?」
佳子の方はよく喋ったが、対照的に「広田みゆき」と名乗った方は非常に口数が少なかった。
装いも佳子の方が派手であった。
暫くして、佳子と柳沢は席を立ち、二人で踊りに行った。
クインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」が、何度も懸っていた。
「沢山煙草を吸うのね…。」
ぽつりと広田みゆきが云った。
私は慌てて、火を点けた許のセブンスターを消した。
「あ、違うの。
そう云う意味じゃ無いの。
唯、よく吸うんだなって思ったから…。
…御免なさい。
急に変な事云って…。」
「否。
此の煙草、フィルターの処が折れてたんだ。」

 みゆきの父親は個人病院の院長と言う事だった。
柳沢が彼の大学の友人に此のダン・パーのチケットを2枚売り付けられ、其の1枚を私が買わされたのだが、支払った金の見返りは充分であった。
所定の時間が来て、ダンス・パーティーは終わった。

 氷川丸を下りると、雨が激しく降っていた。
私と柳沢は傘を持って無かったので、彼女達の傘に入れて貰い、4人で関内駅の方向へ歩いた。
途中で喫茶店に寄り、暫く話をした。

 関内から電車で横浜へ行き、駅の近くのパブに入った。
水割を一杯呑み終えると、もう終電の時刻が近付いていた。
彼女達の帰りは鎌倉の方向だった。

 東京方面の最終がホームに入って来た。
私と柳沢は階段を駆け下りた。
未だ電車の来ない隣のホームで、佳子とみゆきが手を振っていた。
雨は未だ降り続いていた。
私は水滴で曇った電車のガラス窓に、指で「おやすみ」と描いた。
柳沢が笑った。
其の夜出逢った、2人の女の品定めをしながら、我々は最終電車を乗り継いで中野へ帰った。


                      〈七、フェリス女学院ダンス・パーティー〉





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007年02月09日 01時10分22秒
コメント(0) | コメントを書く
[小説「愛を抱いて」] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X