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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月19日
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   8.アジサイ寺


 6月17日、私は香織と鎌倉へアジサイを観に出掛けた。
「晴れて残念だわ。」
空を見ながら彼女は云った。
「どうして?」
「アジサイ寺へ行くのなら、小雨が降ってた方が好いのよ。」
「午後からは曇るそうだぜ。」

 通称「アジサイ寺」と呼ばれる其の寺は、北鎌倉駅の近くに在った。
結構広い寺の中は坂が多く、路は階段になっていた。
「本当のアジサイの花は、どれだか知ってる?」
香織が云った。
「どれって、此れが全部そうだろ。」
私は、辺り一面に咲き乱れているアジサイを指した。
「近付いて、よく視てみ為さいよ。」
私は側のアジサイに顔を近付けた。
「其れは、花びらじゃ無いのよ。
其の小さな一つ一つが、アジサイの花なの。」
「へえ。
そう。
知らなかった。」
私は花びらの様なアジサイの花を視詰めた。
「あなたがアジサイの花だと思っていたのは、数え切れない程沢山の、花の集まりよ。
アジサイの花は、遠くでも鮮やかに眼に映える物では無くて、小さ過ぎて側へ寄らないと視えない物なの…。」

 空は少しずつ雲が拡がり、陽を隠して行った。
坂路を上り切った処で、絵馬を売っていた。
夥しく掛けられた絵馬を引っ繰り返して視ると、殆どが恋愛成就を祈ったもので、残りは合格祈願だった。
「此のお寺へ遣って来た男女は、必ず結ばれるって云われてるのよ。
知ってた?」
「勿論、知らなかった。」
雲が厚くなってきた。
彼女の強い希望で、我々も絵馬を買った。

 「何が有るんだろう?」
寺の入口から向かって右奥の山の斜面に接した、狭い広場に人が集まって居た。
斜面には二つの横穴が開いていた。
左側の穴は浅く、奥の壁に沢山の蝋燭が立てられていた。
どうやら、水子の霊が祭ってある様子だった。
右側の穴は可成深そうであった。
「面白そうだ。
行ってみよう。」
「私は厭よ。」
意外にも、彼女は怖いと云った。
「絵馬を買って挙げたじゃない。」
私は無理矢理彼女の手を引いて、中へ入った。
洞窟は入って少し行った処で、左へ直角に曲がっていた。
そして直ぐに、今度は右へ90度曲がった。
其処からは真っ暗で、何も視えなかった。
私はライターの火を点けた。
辺りは若いカップルで混雑していた。
暫く進むと洞窟は急に狭くなり、背中を屈めなくては歩けなくなった。
次第に人の数が疎らになり、やがて我々の他には人の気配がしなくなった。
彼女はもう引き返そうと云った。
どうせ直ぐ行き止まりになるだろうと思っていた私は、洞窟の長さに愕いていた。
と同時に、好奇心が込み上げて来た。
「こいつは凄いな。
もっと行ってみよう。」
帰りたいと云う彼女を引っ張って、私は進んだ。
洞窟は真っ直ぐに続いていた。

 「うわっ!」
私は足を滑らせた。
水溜まりが有るらしく、膝から下が濡れた。
洞窟は急に広くなった。
が、直ぐに又狭くなっていた。
地面にも起伏が有って、躓かない様注意しなければならなかった。
洞窟は、広くなったり狭くなったりを繰り返した。
非常に狭くて、服や頭を土の壁と接触させながら進まねばならぬ処も有った。
処々に大きな横穴や下穴が有った。
ライターは熱くて、もう点ける事が出来なかった。
香織は私の手を、確り握り締めていた。
「もう満足したでしょう? 
帰りましょ。」
彼女は哀願した。
「うん。
行き止まりになったら帰ろう。」
「急度何も無いわ。
唯の洞穴よ。」
「そうさ。
唯の洞穴だから、怖くなんか無い。
もう少し行ってみよう。」
「意地悪云わないで…、帰りましょ…。」
「どうしても帰りたいのなら、先に帰ってて好いよ。
俺はもう少し行ってみる。
折角来たんだから。」
「一人で帰れないわよ。
もう…、意地悪ね…。」
彼女は泣き出した。
何とか彼女を宥めて、更に進んだ。

 どれ程の時間其の中に居るのか、判らなくなっていた。
1時間以上歩き続けている様にも、先程から僅かしか経ってない様にも思えた。
香織は泣き止んだが、ずっと黙っていた。
進んでも進んでも、暗闇は何処までも続いていた。
(長過ぎる…。)
自分が前へ進んでいる事を、私は疑い始めた。
(若しかしたら、此の洞穴には果てが無いのではないだろうか…。)
そんな気がして来た。
其の時であった。
ずっと先の方で音がした様だった。
私は我に返り、体を緊張させた。
確かに音は聴こえた。
聴覚に神経を集めて聴くと、其れは水滴が水溜まりに落ちる音らしかった。
「水の音か…。」
私は声に出して云った。
「そう云えば、入る時水子が祭って有ったわね。」
香織が云った。
突然、私は恐怖を覚えた。
「疲れたな。
引き返そう。」
早口に云うと、私は急いで闇の中を帰り始めた。
私は怖くなっていた。
「待って。
そんなに急がないでよ。」
香織が云った。

 我々は洞窟を出た。
「二度と外には出れないかと思ったわ…。」
香織が云った。
「果てを突き止める事が出来なかったのは、残念だな。
よし、今度は中野ファミリーの皆を連れて行ってみよう。」
「又入る積もりなの? 
よくそんな勇気が有るわね。」
「勇気なんて無いさ。
好奇心が強いだけだよ。」
「私はもう御免だわ。」
雨はとうとう降らなかった。
我々はアジサイ寺を後にした。

 其の辺りは、他にも沢山の寺が建って居た。
遅い昼食を取ってから、ブラブラと寺巡りをした。
「一寸…、此処縁切り寺よ。」
香織は門の前で足を止めた。
路の途中に案内板が有ったので、私も知っていた。
「折角だから、入ってみよう。」
私は片方の靴を脱いで、門の中に投げ入れた。

 夜になって、我々が中野に帰って来た時、雨は降り始めた。
香織はフー子に逢う約束が有ると云い、二人で彼女のアパートに行く事になった。
前に柳沢が友人から聞いた通り、三栄荘から眼と鼻の先にフー子のアパートは在った。

 「鉄兵君、この前私のグラスに塩を入れたんだって?」
私の顔を視るなり、フー子が云った。
「カットの話は無しよ。」
彼女の部屋には、大きな鏡と、棚と言う棚に置かれた夥しい数の化粧品と、タンスに収まり切らず壁中に掛けられた洋服が有った。

 「鎌倉、行って来たの? 
アジサイなら、此の辺にも沢山咲いてるじゃない。」
「フー子ちゃん、今夜は御機嫌が悪いみたいだね。」
私は云った。
「別に…。」
スヌーピーの縫いぐるみを弄りながら、フー子は云った。
「群馬の彼と電話で喧嘩したのよ。」
香織が云った。
「あの事はもう好いの。」
フー子は云った。
「じゃあ、俺が塩入りウィスキー飲ませた事を、未だ怒ってるの?」
「何も怒ってなんかいないわ。」
「それじゃ、若しかして…、」
私は、笑いを堪えながら云った。
「…溜まってるんじゃない?」
スヌーピーが凄い勢いで、私の顔へ飛んで来た。


                            〈八、アジサイ寺〉

(※この作品はフィクションであり、登場する人物、団体などは全て架空のものです。)





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Last updated  2006年03月21日 22時47分00秒
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