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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月19日
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   9.赤石美容室


 後僅かの勇気さえ有れば、あの洞穴が何処に続いているのか解ったかも知れなかった。
私には、途中で引き返してしまった事への後悔と、新しい好奇心が残った。
「貴方達の事、未だ柳沢君には内緒なんでしょ?」
フー子が云った。
香織は私を視た。
「うん、まあね…。」
私は云った。
「頑張ってね。
私は貴方達の味方よ。」
「有り難う。
鎌倉へ行った事も、此処へ来た事も、彼の前では秘密よ。」
香織が云った。
「そっか…。
ちゃんと覚えて置かなくちゃね。
私、大丈夫かしら…?」
「あら、頼り無いわね。
確り振舞って貰わなくちゃ困るわ。」
「そんなに責任を被せないでよ。
でも、頑張るわ。」
「唯…、若しかしたら心配無くなるかもよ。
私達、今日縁切り寺にも行ったの。」
私は黙って、二人の会話を聴いていた。

 6月22日の夜、私と柳沢は銭湯から帰ると、1リットル入りのスプライトとお菓子を買って、フー子のアパートを訪れた。
「御免なさい。
一寸待ってて。」
部屋の中から彼女は云った。
暫くしてドアが開いた。
「御免ね。
パーマ掛けてた処なの。」
彼女はシャワー・キャップを被っていた。
「へえ。
自分でパーマを掛けるんだ。」
柳沢は、感心した様に云った。
「簡単よ。
液を着けて、巻いて、時間が来れば出来上がり。」
「でも大したものだ。」
「パーマは簡単だけど、カットは難しいのよ。」
彼女は私の首に大きなタオルを2枚巻き付けた。
「何度も云うけど、上手くいくかどうかは保証出来ませんからね。」
そう前置きをしてから、彼女は私の髪を切り始めた。
彼女は無駄口を一切云わず、一心に鋏を動かし続けた。
私は「動かないで」と何度も注意を受けた。
我々二人の髪を切り終えてから、「疲れた」と云って彼女は身体を倒した。
「なんだ。
ちゃんと普通に出来てるじゃない。」
私は鏡を覗いて云った。
「ありがと…。」
彼女は溜息を吐いた。

 「美容学校って、面白い?」
柳沢が訊いた。
「まあ面白いけど、厭な処も有るわ。」
市販飲料の中で一番好きだと云う、「スプライト」を飲みながら彼女は云った。
「先生がね、服装にまであれ此れ文句を付けるの。
前の日と同じ洋服を着てたりしたら、『貴方、外泊したんですか?』なんて皆の前で云うのよ。」
「其れにしても、凄い化粧品の数だね。」
「勉強で要る物なのよ。
ローンで買ったけど、支払いが大変…。」
私は金額を聴いて、女性用化粧品の高価な事に愕いた。
彼女はシャワー・キャップを取り、髪を留めていた無数のピンを外して、軽くブラシを掻けた。
「あ、そう云えば。
私、溜まってるのよね。」
鏡に向かった儘、彼女は云った。
私は彼女を視た。
ブラシを置いて此方を振り返ると、彼女は云った。
「洗濯物が…。」

 我々は3人でコイン・ランドリーへ行った。
「コイン・ランドリーって、凄く不潔なんですってね。」
お湯の出る200円の方の洗濯機に、洗濯物を入れながらフー子は云った。
「土方の連中が、汚れた作業服を洗いに来るらしいな。」
私は云った。
「俺、オッサンが靴洗ってるのを視た事有るぜ。」
柳沢が云った。
「やだあ。
本当? 
洗濯機が欲しいわ。」
「買おうか。
3人で。」
「そうだ。
3人で洗濯機を買って、共同で使おう。」
「好いわねえ。
買ってよ。」
「3人で買うんだよ。」
「ガチャン」と音がして、洗濯機は止まった。
彼女は洗濯物を乾燥機に入れ換えた。
乾燥機が勢い好く廻り始めた。
私はゆっくりと乾燥機の窓に顔を近付けた。
じっと見詰めていると、眼が廻りそうだった。
トレーナーやTシャツの間から時折、ショーツとブラジャーが見えた。
彼女は思い切り私の背中を叩いた。
可成痛かった。

 6月25日、広田みゆきから手紙が来た。
其れには、横浜駅で電車の窓に描いた「おやすみ」が、とても印象深かったと書かれていた。
又、良ければ電話してほしいとも書いてあった。
私が別れ間際に、曇りガラスに描いた「おやすみ」は、思わぬ効果を発揮したらしかった。

 「おやすみ」の効果は本当に素晴らしく、次の日、ダンス・パーティーで知り合ったもう一人の女、佳子からも手紙が届き、同じ様な事が書いてあった。
私は二人の女の顔を、よく思い出してみた。
みゆきは、声を掛ける前から、会場の中で私には気になっていた女だった。
佳子の方は派手な装いしか、思い出せなかった。

 6月27日には、フー子と柳沢と私の三人で金を出し合って買った、全自動洗濯機が三栄荘に届いた。
洗濯機は1階の共同炊事場の横に置かれた。
然し翌28日の朝、私と柳沢は管理人の声に起こされ、勝手に洗濯機を置いて貰っては困ると云い渡された。
洗濯機はフー子の部屋へ運ばれる事になった。

 6月29日、佳子から又手紙が来た。
( 前略
 今、何故か慌てながら此の手紙を書いています。
昨日学校で、貴方に手紙を出した事をみゆきに話すと、何と彼女も書いたと云うではありませんか。
二人で吃驚しました。
でも一番驚いたのは、貴方でしょうね。
パーティーの時にも話した通り、みゆきと私は高校時代からの親友なのだけれど、同じ人を好きになるなんて仲が好すぎると云うか…。
私が手紙に書いた事は、どうか忘れて下さい。
急度貴方は私の事など何とも思ってやしないのに、勝手な云い分を許して下さい。
身勝手の序でに御願いが有ります。
みゆきに、もう一度逢って遣って下さい。
実は、吃驚した後二人で話し合って、彼女も私も貴方には逢わないって約束をしたのです。
彼女は視ての通り音無しい性格で、自分から男性に気持ちを伝えるなんて事は今まで一度も有りませんでした。
私は、彼女が貴方に手紙を出したと言う事が、未だに信じられません。
唯、彼女は本当に人を好きになったのだと思います。
私は彼女をよく知っています。
貴方は、初めて彼女を変えた人なのです。
どうか彼女を宜しく…。
彼女の側で又逢えるのを楽しみにしています。

 本当に、勝手な事ばかりで御免なさい…。

                   かしこ

 追伸 みゆきが書いてるとは思いますが念の為、彼女の住所と電話番号を記しておきます。)
読み終えて私は、逆になってたら大変だったなと思った。

 「君には夢みたいなものが有るかい?」
私は訊いた。
「…有るわよ。」
「何だい?」
「笑われるから、いいわ。」
「笑わないから、云ってよ。」
「本当に笑わない?」
「ああ。」
「私、…俳優になりたいの。」
香織は恥かしそうに云った。
「笑わない約束でしょ。」
「笑って無いよ。」
「眼が笑ってるのよ。」
私は眼を閉じた。
然し今度は、口許が歪みそうになった。
「あなただって、シンガー・ソング・ライターが夢なんでしょ?」
「俺のは、約束された運命さ。」
「まあ? 
そうなの。
其れでレコード・デビューは何時頃の予定ですか?」
「そうだな…。
今年中にオーディションに受かるから、…まあ遅くとも来年の春には、アルバムが出るんじゃない?」
「自信が有るのね。」
「自信なんて無いさ。
単なる思い込みだよ。」
「私のは、女優になる思い込みすら哀しんでるわ。」
6月30日の午後、私と香織は銀座の舗道を歩いていた。
二人でリバイバル映画を観に行く途中であった。
東京に来て、私が心から良かったと思ったのは、映画とコンサートが飽きる程観れる事であった。
映画については、ロードショーが有る事だけで無く、二流館、所謂名画座が沢山有る事が嬉しかった。
中でも、高田馬場と銀座の二流館は、私の好きな映画を沢山上映して呉れた。

 「私、エキストラのバイトを時々やってるのよ。」
「へえ。どうして隠してたの?」
「隠してた積もりは無いわよ。
『国際プロ』って言うのが、代々木に在るの。」
「女優修行って理由か。」
「まあ…ね。
俳優を目指してる様な人間じゃないと、やってられないでしょうね。
アルバイト料は凄く安いし、時間が目茶苦茶なの。
朝6時頃から集合させといて出番が昼過ぎだったり、夜の11時を廻っても帰らせて貰えないなんて事はしょっちゅうよ。
それに女の子の扱いが酷くて、平気で裸になってとか云うのよ。」
「なったの? 
裸に…。」
「まさか。
でも水着で出演させられた事は有るわ。」
「裸になるエキストラの娘とか、実際に居るの?」
「裸は未だ視た事無いけど、下着姿なら、平気でなる娘が居るわ。」
「俺も其のバイトやろうかな。」
「やれば。
芸能人にも逢えてよ。」
映画を観終わって、我々は来たのと同じ路を歩き、地下鉄に乗った。


                            〈九、赤石美容室〉





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Last updated  2007年02月08日 00時36分13秒
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