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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月21日
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   11.赤い靴事件    ~柳沢泥酔事件~


 深夜になって、ディスコ大会はいつもの宴会に切り換わった。
「あなた達、最近よくフー子の部屋へ侵入してるんだって?」
香織が、私と柳沢に向かって云った。
「ゆうべなんて料理まで作らせたそうじゃない。」
「料理はフー子ちゃんの好意だぜ。
それにカットして貰ったり、洗濯させて貰ったり、理由が有って行ってるのさ。」
私は云った。フー子も頷いた。
「別に、君がとやかく云う事は無いだろう?」
突然、柳沢が強い口調で云った。
「私は… 」
香織は柳沢の調子に愕いた様だった。
「唯、女の子の部屋へ夜押し掛けるなんて、大胆だなって思って…。」
「俺達が三人で買った洗濯機が、彼女の処に有るだけの事さ。
そして君には関係の無い事だ。」
柳沢は口調を変えなかった。
初めは軽くからかう積もりで口を開いた香織は、柳沢の敵意を持った言葉に、少しムッとなった。
「関係有るわよ。
フー子は私の大事な友人だわ。」
「俺達が彼女に、何か悪い事でもするって云うのかい?」
柳沢と香織を除いた者は、「此れは拙いな…。」と感じながら、然し黙って居た。
「そんな事云ってやしないわ。
唯フー子が急度、迷惑してるって云ってるのよ。」
「彼女が迷惑だと云うのなら、勿論遠慮するさ。」
「彼女は人が好いから、面と向かっては云わないわよ。」
「フー子ちゃん、…俺達は迷惑かい?」
柳沢はフー子に訊いた。
フー子は、急に自分が喋らなくてはいけなくなって、少し困った顔をしたが、静かに答えた。
「…勿論、迷惑じゃ無いわ。」
「フー子、正直に云っといた方が好いわよ。
此の人達、直ぐ図に乗るから…。」
香織が云った。
「…本当に迷惑だなんて思って無いわ。
私、一人で居ると淋しくて仕方の無いたちだから…、部屋へ遊びに来て呉れたり…、みんなと、こうして居るのが愉しいの。」
フー子は自分のグラスに視線を置いて、真面目な顔で云った。
「若し、香織も世樹子も中野に住んでなくて、柳沢君や鉄兵君に逢う事もなくて、毎晩部屋へ帰ってからずっと一人で居る生活を、今頃してたら…、私急度、耐えられなかったと思う。
だから…、本当に…、みんなに感謝してるわ…。」
柳沢と香織は、もう云い争う事をしなかった。

 其の夜、柳沢は普段の何倍ものペースで、何倍もの量の酒を呑んだ。
「柳沢、顔が蒼いぞ。」
既に眼を据わらせて、ヒロシが云った。
いつもヒロシは、酔うと口調が乱暴に変わった。
「お前、何か荒れてるな…。」
そう云って身体を横にしたかと思うと、ヒロシは眠ってしまった。
彼が宴会の途中で眠るのも、いつもの事だった。
「柳沢君、もう止めた方が好いんじゃない?」
世樹子が心配そうに云った。
「そうだな…。」と云いながら柳沢は、氷だけになったグラスにウィスキーを注いだ。
「鉄兵、勝負しようぜ。」
不意に柳沢が云った。
フー子と一緒に、ヒロシの瞼にバンドエイドを貼っていた私は、「よし。」と云って柳沢の正面に坐った。
私と柳沢は乾杯をして、水割を一息に呑み干した。
「止め為さいよ。
柳沢君はもう酔ってるわ。」
世樹子が云った。
我々は2杯目の一気を終えた。
「止めてったら…!」
世樹子が叫んだ。
「呑みたいのなら、好きなだけ呑ませれば好いのよ。」
香織が云った。
我々が3度目の一気を終えてグラスを置いた時、世樹子は涙汲んでいた。
「次からはストレートで行こう。
其の方が勝負が早い。」
私は云った。
氷が僅かに残っているグラスにウィスキーだけを入れて、我々は乾杯した。
胃の中へ、熱いものが流れ落ちて行った。
柳沢は激しく咳き込むと、口を抑えた儘立ち上がった。
そして心許無い足取りで、部屋を出て行った。
然し、彼が階段を下りて行く音は聴こえなかった。
開いたドアの向うから、激しい嘔吐が聴こえた。
トイレは1階に有ったが、彼は我慢が効かなくて2階の廊下の窓から、外へ吐き出したのだった。
香織と世樹子に抱えられて戻って来ると、彼は完全に潰れてしまった。
仰向けに転がり、苦しそうな唸り声を挙げていた。
「大丈夫かしら…?」
世樹子が云った。
「多分…、身体の方は大丈夫さ。」
私は云った。

 アパートの裏で、誰かが叫んでいる様だった。
私は廊下へ出て、先程柳沢がゲロを吐いた窓から顔を出した。
窓の下は民家の庭であり、其処に其の家の主人らしき男が立って、此方を見ていた。
男の横には自家用車が停まっており、其の自動車の上一面に嘔吐物が付着しているのを視て、私は男が叫んでいる理由を理解した。
私は急いで部屋へ戻った。
「どうしたの?」
「柳沢がゲロを吐いた真下に、車が駐車して在った。
一寸、行って来る。
君等は出て来なくて好いから…。」
そう云って私は、又急いで部屋を出た。
靴箱の横の開き戸を開け、バケツと雑巾を取り出してバケツに水を汲むと、私は三栄荘の門を駈け出た。
平身低頭、家の主人に詫びを云い、ゲロを被った車を掃除した。
何度も水を換え、やっとの事で車を綺麗にしてからアパートへ戻ると、階段の処で世樹子が待って居た。
「御苦労様。私達も手伝うべきだったのに、御免なさい。」
「好いんだよ。
ちゃんと許して貰った。」
「あのね、柳沢君が…、一寸変なの。」
「えっ…? 
どう言う事だい?」
「頭が…、おかしくなっちゃったみたいなの…。
私、怖い…。」
「どうしたんだ? 
柳沢は眼を覚ましたのかい?」
私は世樹子を連れて部屋へ入った。
部屋では、香織とフー子が笑い転げていた。
柳沢は窓に背中を縋らせて、坐って居た。
「赤い靴を忘れちゃった…。」
柳沢が云った。
私は彼を注視した。
相変わらず顔色は蒼かった。
そして眼が半眼で、瞳の焦点が合って無かった。
「取りに戻らなきゃ…。
ああっ! 
飛行機が…、…行っちゃうよお!」
宙を見ながら、彼は云った。
彼が喋る度に、香織とフー子は腹を抱えて笑った。
「柳沢君、確りして。」
世樹子は泣き出しそうな声で云った。
「一人言…?」
私は香織に訊いた。
「違うんじゃない? 
返事をするもの。」
そう云って香織は又笑った。
「赤い靴は、何処に忘れたの?」
笑いを堪えながら、フー子は柳沢に尋ねた。
「…。
飛行機… 」
「飛行機に忘れたのね?」
「…飛行機が、…行っちゃうよお!」
私も思わず吹き出した。
「赤い靴は、女の子が履いてたんじゃないの?」
今度は香織が訊いた。
「…。
…未だ、…履いてない…」
「女の子は飛行機じゃなくて、船で行っちゃったのじゃなかったかしら?」
フー子が云った。
「…飛行機…、赤い靴が…、…行っちゃうよお!」
「ねえ、鉄兵君。
何とかして挙げて。」
世樹子が云った。
「何とかって、救急車でも呼ぶのかい?」
「世樹子も心配許してないで、少しは笑い為さいよ。」
香織が云った。
「だって…、…よく笑ってられるわね。
若し此の儘、直らなくなったらどうするの?」
「そしたら、みんなで面倒を看て遣るさ。」
「毎日愉しいわよ。
漫才視てるより、面白いわ。」
「うわあっ! 
眼が開かない!」
突然ヒロシが叫んだ。

 東京に来て私が最も驚いたのは、日の出の時刻が早い事だった。
夏場には4時になると、東の空がうっすら明るかった。
広島と東京では、日の出の時刻に1時間の差が有った。
朝の8時半になると、柳沢を布団の上に残して、我々は朝食を食べに出掛けた。
沼袋駅前の「赤いサクランボ」と言う喫茶店に入った。
入口で、店の看板の「赤い」と言う文字を視て、我々は又笑った。
「『赤い靴』って何かしらね?」
「半分夢でも見てたんじゃないの?」
柳沢は夜が明ける頃、眠ってしまった。
「柳沢君、可哀相だったわ。
みんなずっと笑ってたけど、若し眼が覚めてもあの儘だったらどうする?」
「あなた心配する振りをして、随分残酷な事を云うわね。」
「可哀相なのは俺だよ。
まつ毛が6本も抜けちゃったんだぜ…。」
モーニングを食べ珈琲を飲み終えると、4人は其々のアパートへ帰って行った。
私は部屋へ戻って髭を剃り、支度を整えると、広田みゆきに逢う為出掛けた。


                           〈一一、赤い靴事件〉





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Last updated  2006年03月25日 11時05分52秒
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