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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月22日
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   12.日曜の風景


 渋谷駅の売店で、牛乳を飲みグリーン・ガムを買った。
東横線の改札口の前に立って居ると、みゆきが電車を降り此方へ歩いて来るのが見えた。
我々は代々木公園へ行った。
歩行者天国には相変わらず、竹の子、ローラー、若干のローラースケーターと、多くの見物人が居た。
公園は、子供連れの夫婦や、カップルやジョギング・スタイルの老若男女で、賑わっていた。
私と淳一は入学して僅かの間、「軽音楽研究会」に籍を置いていた。
私は欠席したが、4月に行われた其のサークルの新入生歓迎コンパに、淳一は出席した。
コンパの翌日、淳一は此の公園のベンチで眼を覚ました。
其の日も確か日曜だったと思う。
私は、公園に来たのは失敗だったと感じていた。
太陽の光が、徹夜の身体に応えた。
日曜に相応しい天気であった。
ベンチは満席だったので、我々は芝生の上に腰を降ろした。
「佳子ちゃんは元気かい?」
「ええ、元気よ。
貴方に宜しくって云ってたわ。」
私は佳子の顔を殆ど思い出せなかった。
「ねえ。
逢うのは今日が未だ2度目だけど…、是非君に、御願いが有るんだ。」
私は云った。
「…何?」
周りには沢山の、若いカップルが居た。
「膝枕しても好い?」
彼女は、なぁんだと言う風に笑った。
「好いわよ。
どうぞ…。」
彼女は脚を伸ばした。
私は周囲のカップルと同じ様に、彼女のスカートの上に頭を載せた。

 「あれ…?」
私は愕いて跳び起きた。
太陽が余り眩しくなかった。
有ろう事か、私は彼女の膝の上で長い時間、熟睡してしまったらしかった。
昨夜、少しでも寝ておくべきだったと後悔した。
「御免ね。」
私は云った。
彼女は笑っていた。
「よく眠ってたわよ。
ゆうべ寝て無いんでしょう?」
「うん。
君に逢う事を考えて、一睡も出来なかった。」
「そうなの。
じゃあ、許して挙げる。」
私は腹が空いたと云い、二人でNHKホールの方向へ歩いた。

 其の夜8時頃、彼女は東横線の電車に乗り、横浜へ帰って行った。
今度はちゃんと、「おやすみ」を口で云った。
彼女と私は、毎週土曜か日曜のどちらかに、必ず逢う約束をした。

 三栄荘へ帰ると、柳沢は私の部屋でテレビを視ていた。
「どうだい、気分は?」
私は訊いた。
「それが、余り良くないのさ。
昼頃起きたら、胃が痛くてさ…。
急度、余りの痛さで眼が覚めたんだろうけど、我慢出来ない程なんで、其処の救急病院へ行って、診て貰った。」
三栄荘から沼袋駅へ行く途中に、「沼袋病院」と言う救急病院が在った。
「そしたら、急性胃炎だってさ。」
「で、大丈夫なのか?」
「注射を打って貰った。
まあ、大丈夫らしい。
唯、物が食べれないんだ。」
「何も食べて無いのか?」
「薬を呑んだけど、胃に入った物をみんな戻しちゃうんだ。」
私はフー子を呼んで来ると云って、外へ出た。
彼女は部屋に居て呉れた。
柳沢の事を話して、私は又三栄荘に戻った。
暫くすると、彼女は水粥を作って持って来て呉れた。
「食べられるかしら? 
まず一口だけ食べてみて。」
彼女は云った。
腹は減ってるんだがと云いながら、柳沢はスプーンで粥を掬い、そっと口に入れた。
「美味い。
食べれそうだ。」
「良かった…。
でも少しずつ、ゆっくり食べるのよ。」
柳沢は美味しそうに、粥を啜った。
「唯、近くに救急病院が在って、日曜でも診て貰えたのは運が良かった。」
柳沢は云った。
「これから急度、俺達の指定病院になるんじゃねえか?」
私は云った。
「俺はもう懲り懲りだぜ。」
未だ食べたいと云う柳沢に、フー子は残りは暫く時間を置いてからと云って、スプーンを措かせた。
「わあっ! 
又出た!」
柳沢が叫んだ。
テレビがロバート・ブラウンのCMをやっていた。
ラリー・カールトンの曲が流れた。
「酒の写真を視ると、吐きそうになるんだ。」
柳沢は眼を閉じていた。
私とフー子は吹き出した。
「お前、フー子ちゃんが作って呉れたお粥を、戻すんじゃねえぞ!」
私は云った。
「もう終わったわよ。」
テレビは次のコマーシャルを始めた。
柳沢は眼を開けた。
「何か口許に、酒の味と匂いが甦って来るんだよな…。」
彼は未だ少し、気持ち悪そうだった。
「重症ね…。」
フー子が云った。

 私は昨夜の「赤い靴」に就いて柳沢に尋ねてみた。
フー子も是非聞きたいと云った。
「俺、そんな事云ったの?」
柳沢は覚えて無い様だった。
話を聞いてみると、彼が高校2年の時、夏休みに1ヶ月程アメリカへホーム・ステイに行った事が有った。
ホーム・ステイは、同じ群馬の高校生数人が一緒だったが、向うで其の中の一人の女と彼は恋愛をした。
そして彼女とアメリカの街でデートした時、彼は彼女に赤い靴をプレゼントした。
彼女は彼の為に、赤い帽子を買って呉れた。
二人に取って、其れは二人だけの想い出の品になる筈だった。
愈々日本へ帰ると言う日、空港で飛行機に乗る直前に、彼女は赤い靴を忘れて来てしまった事に気付いた。
赤い帽子だけが残った。
「でも赤い靴は、後から郵便で送って貰ったのさ。」
柳沢は云った。
「今も有るの?」
フー子が訊いた。
「うん。
有る。」
ホーム・ステイで知り合った其の女性が、現在太田女子高校に通っている彼の今の彼女であった。
「何だ。
面白くも何とも無いじゃない。」
フー子が云った。
「俺は面白い話をする積もりは無かったぜ。」
柳沢は云った。
 開け放した部屋の窓の向うに、今夜も住宅街がひっそりと佇んで居た。
「静かね…。」
フー子が云った。
「ゆうべだって、外の方は静かだったさ。」
私は云った。
「又出たあっ!」
柳沢がテレビから顔を背けた。

 私は、土・日や祭日に映画を観に行く学生は馬鹿だと、友人に話した事が有った。
平日に幾らでも時間が余っているのに、下手をすれば立ち見になる休日の映画館へ、どうしてわざわざ出掛けるのか…。
と言うのが、其の理由であった。
私は、「映画は平日に観るべきである。」と確信していた。
みゆきは、非常に音無しくて控え目な女だった。
音無しい女性や、知り合って間が無く共通の話題を把握出来てない女性とデートをする時は、映画に行くのが一番であった。
映画を観ている間は話をしなくて済むし、終わった後は取り合えず今観た映画を話題にすれば好い。
然し、みゆきに逢うのは土曜か日曜であった。
7月12日、其の日は日曜だったが、私はみゆきと映画を観に行く事にした。
混んだ映画館へ入って行くのはゾッとしたが、兎に角映画に行く事に決めた。
流石に大衆娯楽映画を観る気はせず、日本橋に近い銀座の一流館で「マイ・フェア・レディ」をやっていたので、其処へ行く事にした。
其処でさえ、窓口に「ただ今立ち見です」の札が掛けてあった。
立って映画を観るのは、人間のする事では無いと、私は考えていた。
我々は次回の指定席券を買った。
昔から私は、映画館に指定席なる物が有るのは、何かの間違いだと思っていたが、其の日、生まれて初めて映画の指定席券を買った。
友人の話に拠ると、アメリカなどの一流館では座席の数以上の客を入れる事はせず、中へ入った客には必ず自分の席が有ると言う事だ。
当然彼方では、指定席などと言う物は無い。
其れが普通だと、私は感じた。
普段ロードショーを観に行くと、ホールの中央からやや後ろ寄りの其のエリアだけ、座席に白いシートが掛けられ誰も坐っておらず、ポッカリ穴が空いた様になっていて、其の光景は一種異様であった。

 夜になり、みゆきと別れて、私は三栄荘に帰って来た。
部屋には淳一が来て居た。
彼は私のウィスキーを勝手に呑んでいた。
「俺のコピー、ちゃんと有る?」
淳一は云った。
「安心しろ。
ちゃんと取っといて遣った。」
淳一は海へ許行っていて、学校には余り出て来なかった。
私は授業には出なかったが、学校へは行っていた。
「よし、始めるか。」
翌日は独語の試験がある日だった。
我々は、縮小コピーしたテキストの独文の訳を鋏で切って、独語の辞書に貼り着ける作業を開始した。
其れが終わると、二人で「セブン・イレブン」へ夜食を買いに行き、戻って来ると、夜食を食べながら初歩的な独語の文法を、暗記し始めた。
我々がテキストをカーペットの上に放り出した時、時計の針は2時を廻っていた。
柳沢は帰って来た様子が無かった。
私は布団を2つ敷いた。
「暑くなったし、お前も一緒に海へ行かないか?」
淳一が云った。
「行けば絶対、お前も面白いと思うさ。
ボードは友達のを借りといて遣るから。」
「海は苦手だ。」
私は電気を消しながら云った。
「どうして? 
泳げないってんじゃ無いだろ? 
怖いのか?」
「ああ。
怖い…。」
「どうしてさ?」
「だって…、海の中では、息が出来ないんだぜ。」


                           〈一二、日曜の風景〉





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Last updated  2007年02月10日 20時21分00秒
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