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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年10月23日
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   13.前期終了コンパ


 81年の夏は冷夏であった。
梅雨入りの後、6月中は殆ど雨が降らず、今年は梅雨が無いのではないかと思ったが、7月になってから雨はよく降った。
梅雨明け宣言が出されてからも、暫く雨の日が続いたが、雲の形は既に夏を告げていた。
テレビは冷夏だと云ったが、日中は流石に暑くて外に出て居られなかった。
午後になると、我々はキャンパスを抜け出し、冷房を求めて喫茶店へ行った。
そして、アイス・コーヒー1杯で3時間位粘る事は、珍しくなかった。
中野にも夏は遣って来た。
新しい季節を迎えて、街は装いを白く変えた。

 「花火なんか買って、どうするの?」
香織が訊いた。
「みんなでやるのさ。
今夜。」
私は云った。
7月17日の夕方、我々はブロードウェイに居た。
「私が、やりたいなって云ったの…。」
世樹子が、香織の横に遣って来て云った。
「馬鹿ね。
花火なんて出来る場所、何処にも無いわよ。」
「中野公園で、やろうかと思うんだが…。」
「冗談でしょ? 
見付かったら、怒られるだけじゃ済まないわよ。
近くに交番が在るんだし…。」
「そうね。
矢っ張り無理ね…。
御免なさい。
私が其の花火、買い取るわ。」
「東京の住宅街は、そう言う事に煩いのよ。」
「否…。
俺は絶対やる。」
3人は玩具屋を出た。
「柳沢等は…?」
「本を買うとか云ってたわよ。」
書店から、柳沢とヒロシが出て来た。
「あれ? 
本当に花火買ったの?」
柳沢が云った。
「私は、出来る訳ないって云ったのよ。」
「どうして? 
やろうぜ。」
ヒロシが云った。
「ああ。
やるとも…。」
私は云った。
「どうしても、やる気なの? 
お巡りさんに捕まっても、知らなくてよ。」
「平気さ。
鉄兵ちゃんは、中野の風を変えるんだもの。」
「何よ、其れ?」
「ディスコ大会の日に、鉄兵ちゃんが云ったのさ。」
「住民エゴじゃないの?」
「そう云えば、何か変わって来てる感じがするわ…。」
世樹子が云った。
「三栄荘の辺りが、煩くなっただけよ。」
私は黙っていた。
私は街の風を変える事など、本当は出来はしないと思っていた。
中野の風は、今月に入って既に変わって居るのを、私は知っていた。
人間が街の風を変える事など決して出来ない、街の風が人間を変えるのだと、私は考えていた。
「ねえ。
あなた本当に、そんな事云ったの…?」
香織が訊いた。
我々は、フー子がアルバイトをしている地階の喫茶店へ向かった。

 三栄荘の南側の直ぐ側を、小さな川が流れていた。
川と言っても、水の下はコンクリートだった。其の川に架かっている短い橋の上で、其の夜我々は花火を楽しんだ。
次週からは夏休みだった。
フー子は日曜までバイトをやり、月曜には群馬へ帰省すると云った。
「フー子ちゃん、もう帰っちゃうの? 
淋しいな…。」
「少しでも早く、群馬の彼に逢いたい理由?」
「別にそうじゃないわよ。」
其の年初めて視る花火は、控え目な華やかさが有った。
警察官は来なかった。
最後に残った線香花火に、我々は火を点けた。
「私、此れが一番好きよ。」
花火大会の間、一番愉しそうだった世樹子が云った。
「地味でつまらないよ。」
「そう? 
でも可愛いと思わない?」
「地味に長くやってくより、パッと派手に一瞬輝いて消えたいな。」
「私は長い間、小さく光っている方が好いわ。」
「此れ視てるとさ、精子溜りを連想しない?」
光った後に残った、赤い玉を指して私は云い、瀕粛を買った。
「線香花火って、何か哀しいわ。」
香織が云った。
「どうして?」
「どうしてか分からないけど、視てると哀しくなるのよ。」
「確かに可哀相な処は有るよな。
余り人気無いって感じで…。
今夜だって最後に残ってたから、仕方無く火を点けてる様なものだし。」
「私は違うわよ。
一番好きなものを、最後まで取って置いたのよ。」
愈々最後の1本となった線香花火を、我々は黙って見詰めた。
そして其れは、世樹子の手の下で静かに消えて行った。

 7月18日、大学の前期が終了し、夜、打ち上げが行われた。
私のクラスは男許のクラスだったので、文学部の美穂達を誘った。
淳一以外の者は、美穂と其の友人達に逢うのは初めてだった。
「何か合コンみたいね。」
「みたいじゃなくて、合コンさ。」
「まあ、嬉しい。
同じ大学の私達と合コンして呉れるの?」
「たまには好いさ。」
土曜の新宿は物凄い人出だった。
我々は、予約してあった「大学いもパート2」へ行った。

 「乾杯」の合唱で、打ち上げは始まった。
「貴方達、毎週合コンをやってるんだって?」
「合コンのプロね。
今夜は期待しちゃうわ。」
「期待されるのは嬉しいけど、俺達は全員童貞だぜ。」
「まあ、本当?」
「期待と童貞と、どう言う関係が有るの?」
「童貞同盟と言うのを、結んでるんだ。」
「童貞を守ってるの?」
「ああ。
全員、夢多き童貞さ。」
「気持ち悪い…。」
「大学いも」は学生に人気の居酒屋風パブであった。
広い店内はいつも、大学生の集団で満員だった。
気が付くと、柴山が立ち上がって居た。
6月頃から、彼は合コンで常に一気の鬼と化した。
「今日の御酒が呑めるのは! 
柴山さんの御蔭です! 
そおれ、一気! 
一気! 
一気…!」
我々は手拍子と合唱をした。
「法学部って、頭良さそうな感じね。」
「そうかい? 
俺達は馬鹿だぜ。」
「あら、御謙遜。
うちの大学で、一番偏差値高いじゃない。」
「俺達は、此の学部に魅力を持って入った訳じゃないさ。」
「そう? 
でも卒業したら法学士でしょ。
矢っ張り司法職なんかを、目指してるの?」
「まさか。
唯のサラリーマン養成学部さ。」
次々と酎ハイのお代りが運ばれて来た。

 「大学いも」を出ると、酒の呑める処は多分もう何処も満員なので、我々は喫茶店へ行った。
女性は一般に余り酒が呑めないので、彼女達を交えて呑む場合、多く合コンなどでは、二次会は一時酒を中止して喫茶店などへ行くのが普通だった。
三次会は、三栄荘で朝まで宴会と決まっていた。
喫茶店を出ると、我々は歓声を挙げながら、沼袋へ向かった。
私の部屋では、柳沢が頼んで置いた通り、酒と摘みを買い揃えて待って居て呉れた。
柳沢を加えて、宴会はスタートした。
初めから盛り上がりを見せた其の夜の宴会は、途中で誰かが「踊ろうぜ。」と云い、ラジカセを鳴らし六畳の部屋で10人が踊った。
「私達…、」
和代が云った。
「何? 
聴こえないよ!」
「私達! 
馬鹿みたいかしら?」
「愉しくないの?」
「とっても愉しいわ!」
「なら! 
馬鹿でも何でも好いじゃん!」
「うおおっ! 
今夜は朝まで踊り明かすぜ!」
淳一が、右手を振り上げて叫んだ。

 流石に朝まで踊っている体力は、我々に無かった。
我々は再び坐り直して、グラスを手にした。
「此のアパートでは、いつもこんな事してるの?」
和代が訊いた。
「まあ、そうだな…。」
「好いわねえ、アパート暮しは。
自由が一杯有って…、毎日愉しいでしょうね。」
真美が云った。
彼女は自宅通学であった。
「自由に見えるかい?」
「羨ましい程、そう見えるわ。」
「だけど、何処にも行けないんだぜ…。」
彼女等の中では、和代が一番酒に強かった。
「アパート暮しなんて、つまらないわ…。」
和代は一人言の様に云った。
「どうして? 
淋しいから?」
真美が訊いた。
「淋しいだけじゃなくて、一人で居ると色々な事を考えてしまうのよ。」
「和代ちゃん。
良かったら、三栄荘へどんどん遊びに御出でよ。」
柳沢が云った。
「有り難う…。
そうさせて貰おうかしら…。」
和代は酔ったのか、笑顔が見られなくなった。
「三栄荘には、他にどんな女の子が来るの?」
千絵が云った。
「女の子は、君等だけさ。」
「嘘よ。
私達未だ2度目だわ。
さっき、いつも宴会してるって云ったじゃない。」
「いつもは男許で、やってるんだ。」
「俺は知ってるぞ! 
香織って言う娘が来るんだ。
其の娘は、鉄兵の彼女なのさ。」
淳一は酔った勢いで、とんでもない事を云った。
「へえ、香織ちゃんて言うの…。
鉄兵君、彼女ってどう言う事?」
真美が私に訊いた。
美穂も私を視ていた。
「香織って誰だい?」
私は柳沢に訊いた。
「さあ…? 
そう云えば、聞いた名前の様な気もするが…。
此処へ来た事の有る娘かな…?」
「あら、隠す処を見ると、本当に鉄兵君と関係が有るのね? 
いけないんだ。鉄兵君たら…。」
美穂は黙っていた。
私は話題を変えようと、必死だった。
其の夜も三栄荘の2階の一室は、朝まで騒がしかった。


                          〈一三、前期終了コンパ〉





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Last updated  2007年02月12日 01時23分18秒
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