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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月01日
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   28. 秋の気配


 9月20日、私は横浜でみゆきと逢った。
二人は石川町で、電車を降りた。元町の商店街を抜けると、右へ折れ、坂道を登った。
其の辺りは、洋館と緑の多い、静かな処だった。
「あれよ…。」
通りを少し入った処に、フェリスの校門が見えた。
外人墓地の前を歩いて、我々は「港の見える丘公園」へ行った。
「秋の気配」を唄いながら公園を散策した後、二人でベンチに腰掛けた。
其の日、私は彼女に語るべき言葉を持っていた。

─ 美穂を失った事に就いて、私は私なりに反省をしてみた。
柳沢は云った。
「女はさ、仮令どんなに歯の浮く様な台詞で有ろうと、付き合ってる男に、自分を愛していると言う意味の言葉を聴かせて欲しい、と願うものさ。
言葉を聴く迄は、どうしても確信出来ないんだ。
お前は彼女に愛を語ったか…?」
私は美穂に「好きだ。」みたいな事を、はっきり云った覚えは無かった。
昔から私は、余程必要に迫られない限り、自分から真面目に愛を語る男では無かった。
逢い続けていれば、事は足りると思っていた。
「一度で好いから、付き合ってる女には『好きだ。』と云って置くのが望ましい。
たった一度でも、女は其れを覚えてるものさ。
そうして置けば、理由も無く男を捨てたりはしない…。」
柳沢は最後にそう云った。 ─

 「『港の見える丘公園』なんてさ…、」
私は云った。
「…凄く景色の良い様な名前を付けといて、実は全然違うよな。
俺、初めて来た時、詐欺に遭った気分だった…。
『工場の見える丘公園』に変えるべきだ。」
彼女は「そうね…。」と云って笑った。
二人は暫く黙って海を眺めた。
「ねえ…、」
私は重そうに口を開いた。
「なあに…?」
小さく脚を振りながら遠くを視ていた彼女は、私の方へ顔を向けた。
「あのさ…、」
予め、シナリオは考えて有った。
「何…?」
「実は…、」
海の方へ視線を向けた儘、私は云った。
彼女も前を向いて、聴く姿勢を取った。
「実は俺…、今迄、態と云わなかった理由じゃ無いんだけど、…好きな人が、…居るんだよね。」
彼女は前を向いた儘、黙っていた。
「君に、矢っ張り、全てを云うべきだと思ってさ…。
俺、今、好きな女性が居るんだ。
其れで…、」
私は言葉を切った。
「其れで…?」
彼女は姿勢を崩さずに、微かに云った。
「其れで、其の女性の名前は…、」
私は又、言葉を止めた。
彼女は声を出せずに、唯小さく頷いた。
「女性の名前は、『広田みゆき』って言うんだ…。」
彼女は黙った儘であった。
此処迄は、シナリオ通りだった。
私は彼女の表情を窺った。
彼女は下を向いていた。
そして、声を詰まらせながら云った。
「誤魔化さずに…、ちゃんと云って…。
其の人、何て言う名前なの…?」
私は愕いた。
「だから、『広田みゆき』って言う…。」
「いいのよ…。
本当は…?」
展開は全く予想を裏切るものだった。
「本当さ。
好きな人って云ったのは、君の事さ。
君が好きなんだ…。」
彼女は顔を上げて、私を視た。
赤い眼をしていた。

 坂道を下って公園を後にしてから、元町の「友&愛」と言う喫茶店に入る迄、私は何度も、彼女に説明を繰り返さなければならなかった。
「『好きな人が居る。』って聴いた時、『ああ…、此の人は今日、お別れを云いに来たんだ…。』と思って、私、一生懸命覚悟を決める努力をしたのよ…。」
みゆきは、アイス・ティーを飲みながら云った。
そう思わせる様に私が仕組んだ事で、其れは計算の内だった。
「酷い人ね…。」
未だ少し疑いの残っている様な、何処か哀しい表情を彼女は見せた。
女性が、「好きだ。」と言う言葉を聴く事を喜ぶのなら、其の前に眼一杯哀しくさせて置けば、喜びは一層大きなものになるだろうと考えて、私が練ったシナリオは、空前の駄作に終わった。

 「友&愛」を出て、中華街で夕食をした。
彼女が餃子に箸を付けなかったので、私はホテルに誘った。
「今日は御免ね…。」
歯を磨いてベッドに戻ると、私は云った。
「もう、いいのよ…。」
「君が感動して呉れるものと許思い込んで…、全く俺は馬鹿だ。
何度も経験してた筈なのに…。
予め考えて置いてから云った台詞が、女の子に受けた例は無いんだ。
いつも、受けたのはアドリブだった…。」
「そうなの…?」
「そうさ。」
「好きだって云って呉れようとした事は、矢っ張り嬉しいわよ。
でも、女はね、言葉なんか無くても、其の人と何度も逢っていれば、本当に自分を好きかどうか位、解るものなの…。
私は、愛の言葉を何10回聴くより、相手が自分を愛して呉れてるって、感じる事が出来る方が好いわ。」
私は柳沢を少し恨んだ。
「俺の場合は、逢っていて、どうだい…?」
と訊いた瞬間、初めて私は、或る恐ろしい仮定に気が付いた。
そして、全てを後悔した。
「そうねえ…。
どうなのかしら…?」
彼女は、はっきり答えなかった。
声の調子は明るかったが、其の瞳は公園で視た、そして其の後も暫く消えなかった、あの哀しい瞳と同じに見えた。
私の心は狼狽した。
彼女の眼は、恐るべき仮定を肯定していたのだ。
(そうだったのか…。
本当に俺は馬鹿だ…。
彼女はこれ迄俺と逢っていて、俺の心を或る程度感じ取っていたのだ…。
そして多分、俺には他にも付き合っている女が居る事も、薄々解ったのだ…。
だから今日、公園で彼女は…。
彼女は急度、『ああ、矢っ張り…。』と思ったに違いない…。
しくじった…。
藪蛇…。)
私は柳沢を大いに恨んだ。
私の心は動揺を喫していたが、いつもの様に私は彼女の髪を撫でた。
彼女は気持ち良さそうに眼を閉じて、小さく呟いた。
「でも、好きだって、云って呉れたわ…。」
私は、彼女の其の微かな口許の動きを視て、背中に冷たいものを感じた。
彼女の唇が、「好きだって、云わせたわ…。」と動いた様に思えたのだ。
跳ね上がって、床の上に転げ落ちそうな衝撃が、全身を襲った。
(まさか…、此れは考え過ぎだ…。)
私は自分にそう云い聴かせた。
私は、更に恐ろしい仮定を見出だしたのだった。
それは、彼女が私の全てを見抜いて居て、彼女にしてみれば、自分は私と関係している女性達の中の一人と言う立場であり、自分に注がれている愛情は、私の全ての愛情の中の何分の一かである…、そして彼女は、今日のシナリオの成り行きをも、途中で既に予知していた…、然し、態とああ言った態度を取って私を慌てさせた、と言うものだった。
それは、私に「好きだ。」と云わせる為なのか…? 
それとも…、彼女の哀しい復讐であるのか…?
(…復讐? 
…俺に? 
待てよ…。
復讐…。
そうか…。
美穂は…?)
私は混乱した。
(全てを見透かされている…!)
私は揺れ動いている心を、みゆきに悟られまいと必死だった。
然し、心を隠そうとすればする程、彼女を上手く抱く事が出来なかった。

 「鯖の味噌煮が食べたい…。」
私は云った。
私は魚が嫌いだった。
「魚、嫌いなの…?」
以前、香織が私にそう尋ねた事が有った。
「うん。
肉の方が美味い。」
「そりゃ、そうだけど…。」
「でも、刺身は好きだぜ。
寿司も…。」
「何て人なの…。」
「それと、後もう一つ。
鯖の味噌煮も…。」
「鯖の味噌煮…?」
香織は笑った。
「何が可笑しいんだい? 
鯖の味噌煮は美味しいと思わないかい? 
あれは、魚料理の…、否、和食の最高傑作だ。」
「御免なさい…。
何と無く可笑しかったのよ。
確かに美味しいわね…。
私も好きよ。」
「ああ…、鯖の味噌煮が食べたい…。
此の胸の切なる叫びが、聴こえるかい?」
「腹の叫びでしょ…? 
でも好いわ。
今度、作って挙げる。
あなた、全然魚食べないから…。
矢っ張り、肉だけじゃ無くて魚も食べた方が好いわよ。
バランスって事も有るでしょうし…。」
と言う成り行きに因り、9月23日、中野ファミリーの食事会のメニューは、鯖の味噌煮となった。

 食事会の後、ヒロシとフー子はオセロを始め、香織、世樹子、柳沢と私は、マッチ棒で遊んでいた。
「何だい? 
其れは。」
私は世樹子に訊いた。
「犬よ。」
「犬…? 
豚にしか見えんが…。」
柳沢が云った。
「豚なら豚でも好いわよ。」
香織が云った。
「此の犬はねぇ、悪い犬なの。」
世樹子は云った。
「豚だろ…。」
「…悪い豚なの。
だから、マッチ棒を2本動かして、殺して欲しいの。」
「殺す…? 
そんな残酷な事、俺には出来ない。」
「とか云って、解らないんでしょう?」
香織がニヤニヤしながら云った。
「ああ。
降参だ。」
「こうするのよ。」
「成程…。」
私と柳沢は感心した。


                            〈二八、秋の気配〉





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Last updated  2007年02月24日 22時41分05秒
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