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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月04日
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   32. 木曜日のデート


 翌朝、耳の側で時計が鳴った。
翌朝と言っても、私が布団に入ってから4時間しか経ってなかった。
私は低血圧の所為で朝の目覚めに弱かった。
腹這いになって、煙草を口に銜えた。
瞼が重かった。
煙草を吹かしていると、ノックの音がした。
階段を上る音が聴こえなかったので、私は微かに愕いた。
「どうぞ…。」
私は云った。
鍵は掛かってなかった。
静かにドアが開いた。
「起きてたの…。」
世樹子は云った。
部屋に入ると彼女は布団の側に膝を付き、枕許に缶コーヒーを置いた。
「起こしに来て呉れたのかい?」
私は身体を半分起こした。
「そうよ。
愕いた?」
「否。
何となく、来る様な気がしてた…。」
「あら、どうして?」
世樹子がファミリーの皆が集まる理由でも無いのに、一人で私の部屋へ遣って来たのは、其の朝が初めてであった。
「理由は無いんだ。
唯、何となくさ。」
「そう…。
でも、来る必要は無かったわね。
ちゃんと起きれたみたいだから。」

前夜、2台の車は中野へ帰って来ると、飯野荘の前で4人の女を降ろした。
そしてフー子を降ろした後、車は三栄荘の前に停まった。

「そんな事はない。
君が来て呉れたお蔭で、起きる事が出来た。」
「嘘よ。
先に起きてたじゃない…。」

柳沢は此の儘横尾の家へ行くと云い、ヒロシもレンタ・カーを返す為に、ファミリアとミラージュは走り去った。

「確かに、君がノックする直前に目が覚めたが、いつもは時計のベルなんて、全く役に立たないんだ。
急度、君が此のアパートに近付いたのを感じて、身体が目を覚ましたのさ。」
世樹子は微笑んだ。

 「もう八時半よ…。」
世樹子が云った。
「ああ、本当だ…。
じゃあ、モーニングでも食べに行くか。」
「何、呑気な事云ってるの? 
体育に遅れちゃうわよ。」
「世樹子、今日授業は?」
「私は午後からよ…。」
「じゃ、俺も午後から体育に出よう。」
「そんな…。
駄目よ…、折角起きたのに。」
「好いんだよ。
午後からの体育理論にさえ、出席すれば…。」
2人は三栄荘を出て、沼袋駅の方へ向かった。

 「私、起こしに来て、逆にサボらせちゃったみたいね…。」
「赤いサクランボ」で「モーニングBセット」を2つ注文した後、彼女は云った。
「まあ、君が来なければ、急度体育に行ってただろうな…。」
「御免なさい…。」
「謝る事はない。
此れでも俺は喜んでるんだぜ。」
10月1日、其の日も秋晴れの爽やかな一日になりそうだった。
「さて、何処へ行こうか?」
「私は何処でも良くってよ。」
「世樹子、テニスをしたいって云ってたよね?」
「ええ…。」
「じゃあ、オート・テニスをやりに行こう。
午前中に身体を動かすってのも、好いものだ。」
「好いわよ。
どの道鉄兵君は、体育の日だったんですものね。
でも、こんな時間から出来る処、在るの…?」
「伊勢丹の屋上に在るんだ。」
デパートの開店迄には未だ少し時間が有った。
私と世樹子は「赤サク」で充分時間を潰してから、電車に乗り、新宿へ向かった。

 「君は忘れるって云ってたけど…、」
伊勢丹へ向かう舗道を歩きながら、私は云った。
「…矢っ張り、忘れちゃったかい?」
「何の事?」
「否、忘れたのなら、いいんだ。」
9月25日に、2人が偶然六本木のディスコで逢って、チークを踊った時の事を私は訊いたのだった。
「…忘れられる理由ないでしょ…。」
世樹子は呟く様に云った。
「…そう。
良かった…。
よぉし、何か急に元気が出て来たな。」
私は右腕を大きく廻した。
「私、テニスって殆どやった事無いの。
教えてね。」
「任せろって。」
私は人に教えられる程テニスが上手い理由では、勿論無かった。

 「あれ…?」
二人は伊勢丹新館の入口の前に立っていた。
入口はシャッターに閉ざされ、「本日定休日」の表示板が立ててあった。
「そうよ…。
木曜は定休日だわ…。」
二人は遣って来た路を再び歩き始めた。
「頭に来るよな。
選りによって木曜に休まなくたって好いものを…。」
「矢っ張り、体育に出なさいって事よ。
今からなら、未だ2限に間に合うんじゃなくて?」
「否、こうなったら、意地でも体育には行きたく無い。」
「どうするの…?」
「そうだな…。
ねえ、一緒に映画を観ない?」
「…好いわよ。」

 歌舞伎町の中に、周りを沢山の映画館に囲まれた広場が在った。
広場の中央には小さな池が在り、其の池のほとりに私と世樹子は腰掛けていた。
「さて、どの映画を観ようか?」
「私はどれでも好いわよ。
でも鉄兵君、こんなのは余り好きじゃないんでしょ…?」
「まあね…。
世樹子は?」
「私はみんなと違って、映画に全然詳しくないから…。
でも、鉄兵君達が馬鹿にしてる大衆映画って言うのなんかでも、面白いと思うわよ。」
「そう…。
俺もカッコ着けてるだけで、実は面白ければ何でも好いんだ。
あれなんて、どう?」
「『悪霊島』…? 
面白そうね…。」
「よし、決まりだ。」
二人は池の側を離れた。

 此れは予想していた事だったが、上映開始は正午からであった。
窓口の時間表を視て、世樹子は残念そうな顔をした。
「さて、行くか…。」
「そうね…。」
二人は映画館を後にした。
「あら…、ねえ、何処へ行くのよ?」
立ち止まって、世樹子は云った。
「何処へって、サテンへ行くんだろ?」
「サテン…? 
新宿駅へ行くんじゃないの?」
「サテンで12時迄、時間を潰そう。
君はどうしても授業に出なくちゃいけない…?」
「どうしてもって事は…。
私より、鉄兵君でしょ?」
「俺はもう全休の積もりだぜ。」
「何云ってるのよ。
体育の単位、落としちゃうんじゃないの?」
「1回休んだからって、単位なんてそう簡単に落とせるものじゃないさ。」
世樹子は少し笑った。
「変な云い方ね…。
でも鉄兵君に丸1日サボらせちゃったら、私何か済まないわ。」
「済まないのは御互い様さ。
唯、俺は1人でも映画に行くぜ。
もう決めたんだ…。
伊勢丹が休みだったのが、いけないんだ。
悪いのは、伊勢丹さ。」
世樹子は笑った。
「そうね…。
伊勢丹の所為ね…。」

 ロード・ショーを観終わって、二人はブラブラとアルタの方へ歩いた。
新宿駅の北口広場で、プロのバンドがストリート・コンサートをやっていた。
ボーカルのコニーと言う女が、「キッスは眼にして…。」と唄っていた。
街頭でのミニ・コンサートを最後迄観た後、暫くウィンド・ショップを楽しんだ。
其れから二人で食事をした。
「あら、もうこんな時間…。」
世樹子は腕時計を視ながら云った。
「今日は時間の経つのが速いわね…。」
色白の彼女の肌は、もう夏の日焼けがすっかり褪せていた。
「考えてみれば、一日中二人でデートしてたみたいね。」
「みたいじゃ無いさ。
其れに、一日は未だ終わっちゃいない。」
「どう言う事…?」
セミ・ロングの彼女の黒髪が揺れた。
「君は、よく六本木へ踊りに行くのかい?」
「よくでも無いわ。
鉄兵君達に比べれば、たまによ。」
彼女の瞳には輝きが有った。
「俺達は此の前、随分久しぶりにディスコへ行ったんだぜ。」
「本当? 
そう言えば、此の頃は余り行ってないって云ってわね。
もう飽きちゃったんでしょ?」
「そうじゃなくて、一晩踊ると次の日酷く腰が痛むんだ。」
世樹子は口に手を充てた。
「どんな店へ行ってるんだい?」
「『マジック』も好きよ。
後は、『マハラジャ』とか…。」
「もう一度、君とチーク・ダンスがしたいな。」
「…あれは、一夜の過ちよ…。」
「そうかな…? 
ねえ、ゆうべ余り寝てないだろうけど、此れから踊りに行く元気は有るかい?」
「踊りに…?」
彼女は微笑んだ。
「好いけど、腰は大丈夫…?」


                          〈三二、木曜日のデート〉






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Last updated  2007年02月25日 23時58分05秒
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