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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月05日
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   34. アジサイ寺再び


 「此れが、そうさ。」
6人は洞穴の前に遣って来た。
「こっちが例の水子の穴ね…。」
左側の洞穴を少し見物した後、我々は準備に取り掛かった。
洞穴の中は、其の季節にはとても寒い事が予想されたので、全員持参した上着を身に着けた。
「先頭は誰だ?」
柳沢が懐中電燈を手にして云った。
皆、先頭と一番最後になるのを厭がった。
「矢っ張り、先頭と最後は男性が務めるべきよ。」
結局、私が先頭を、ヒロシが一番最後を行く事になった。
柳沢から懐中電燈を受取ると、私は云った。
「じゃあ、行くぜ…。」
周りに居た観光客の注目を浴びながら、6人は洞窟の中へ入って行った。

 「こりゃ、凄いな…。」
私の背後で、柳沢が云った。
洞穴に入って暫くは非常に喧しかった3人の黄色い声も、静かになった。
「足もとに気を付けろよ。
又、穴になってるぞ…。」
私は何度もそう云った。
洞穴は以前と同じ様に急に狭くなり、6人は身を屈めて進んだ。
「ねえ、もう少しゆっくり行ってよ。」
「そうだ。
先頭は速過ぎるぞ。」
後ろの方で、香織とヒロシの声がした。
私は逸る心を抑え切れず、ぐんぐん前へ進んで行った。
「あら…、フー子ちゃん何処? 
待って…。」
世樹子の声がした。
「どうしたのよ?」
香織の声だった。
「此処よ、世樹子…。
真っ直ぐだから、早くいらっしゃい…。」
フー子は後ろに向かって云った。
「あ、柳沢君未だ行かないで…。
鉄兵! 
ストップ!」
云われて私は、仕方無く足を停めた。
フー子と世樹子の間が、長く空いてしまったらしかった。
私は柳沢が居る処迄少し戻り、懐中電燈を後ろに向けた。
闇の中から、世樹子が香織と後ろ手を繋いで現れた。
「ああ、良かった…。」
世樹子はフー子に縋り付きながら云った。
「ねえ、鉄兵と柳沢君、替わり為さいよ。」
香織が云った。
私は柳沢と順番を交替させられた。
我々は又一列になって進み始めた。

 「おい、水溜まりだ…。」
柳沢が云った。
此れ迄にも小さな水溜まりは所々に有ったが、其れは非常に大きなもので、狭い土の路を塞いでいた。
我々は1人ずつ横の土壁に片足でワン・ステップを着きながら、其れを飛び越えた。
「此の前は、こんな大きなのは無かった…。」
私は云った。
「水の音がしたって云った正体は、此れじゃなくて…?」
フー子が云った。
然し私には、以前引き返した地点迄の、未だ半分も進んでいない様に思えた。
其処から少し進んだ処で、又柳沢が足を止めた。
「今度は何だ…?」
私は云った。
「視ろよ…。」
懐中電燈に照らされた前方に、土の壁が出現していた。
「あら、もう行き止り?」
フー子が云った。
「そんなはずは…。」
私は茫然と其の壁を視詰めていた。

 洞穴の暗闇の果てには、最も有り得そうな結末が待っていた。
「鉄兵、そうがっかりするなよ…。」
「結局、長いだけの唯の洞穴だったって理由か…。」
「そう簡単に、ロマンには逢えやしないって事よ…。」
我々は入口へ引き返し始めた。
今度はヒロシが懐中電燈を持った。
やがて洞穴は、人間が並んで歩ける程広くなった。
突然、ヒロシが懐中電燈を消して走り出した。
女の悲鳴が響き渡り、洞穴の中はパニックになった。
私は皆が走り去る迄、其の場にじっとしていた。
呆気なかった結末に心残りを感じていた。
其れから、手探りで闇の中をゆっくり進んだ。
横に人の気配がした。
「誰…?」
世樹子の声だった。
私はライターの火を点けた。
彼女は其処に蹲っていた。
「そんな処で何をしてるんだい?」
私は笑いながら云った。
「此処へ泊まって行く気かい?」
「怖くて動けなかったのよ…。」
私は彼女の手を取った。
彼女は私の手を堅く握りしめた。
二人は入口を目指して、闇を進んだ。

 外の光が視えて、世樹子は繋いでいた手を放した。
私と世樹子以外の皆は、既に洞穴の外に出ていた。
「ヒロシ君てば、酷いわ…。」
「私、やるんじゃないかとは、思ってたのよね…。」
洞窟探険を終えると、6人は寺の中を散策した。
恋人同士の二人連れで訪れるべき場所を、我々は非常識にゾロゾロと歩き廻った。
「香織ちゃんと鉄兵君の二人で来た時には、アジサイが綺麗だったでしょうね…。」
「まあね。
あの時は、アジサイを見に此処へ来たんですもの…。」
陽は早くも傾き始めていた。
「ねえ、鎌倉で甘い物食べてから帰りましょうよ。」
「あ、私も行ってみたい店が有るんだ…。」
6人はアジサイ寺を後にした。

 10月6日の夜、私は帰りに「じゅん・じゅん」へ寄った。
「よ、鉄兵ちゃん。
久しぶりじゃない。
此の頃、いつも前を素通りして行くんだもの…。」
マスターが側へ寄って来て、云った。
「何だ…。
視てたの?」
「入って来るかなあって思って視てても、スーッと歩いて行っちゃうんだよな…。」
「どうせ、外を歩く女の子をずっと眺めてたんだろう?」
「良い勘してるじゃない。
そうだ…、又好いビデオ沢山入ってるよ…。」
「ほお…。」
「其れからさ、前から頼んでた…。
鉄兵ちゃん達の合コンに俺も呼んで貰う話…。」
「ああ…。
今、合コン・ラッシュでメンバーが揃い難くて困ってるんだ。
いつでもOKだよ。」
「やったね…。」
「でもマスター、学生のノリに付いて来れるかな?」
「よく云うよ。
そんなに齢は違わないじゃない?」
「珈琲が不味くなるから、つまらん冗談は止めて呉れ…。」
「…。」

 「ねえ、年末は矢っ張り広島へ帰るの?」
香織が云った。
「…まあ、多分…。」
「そうよねぇ…。
正月は矢っ張り、親元で過ごしたいわよねぇ…。」
「何だい、突然…?」
「いえ、唯年末はどうするのかなぁって思って…。」
「そんな、遥か遠い未来の事なんて解らないよ。」
「そう…。
じゃあ、決まったら直ぐに教えて呉れる?」
「君はどうするか、決めてるのかい?」
「私は帰らない積もりよ。」
「へえ…。
俺も今、決まった。」
「…?」
「俺も東京に居るよ。」
「本当…? 
帰省しなくて好いの?」
「ああ。
其れで、一体こっちで何が有るんだい?」
香織は少し笑ってから、云った。
「別に何も無いんだけど…。
あのね、…あなたが若し12月31日の夜、東京に居て、而も暇だったら、私と一緒に高尾山へ行かない?」
「二年参りかい?」
「ええ…。
私、前から高尾山へ初詣でに行きたかったの。
寒いのが厭なら、元旦の昼からでも好いんだけど…。」
「否々、若いのに二年参りとは、良い心掛けだ。
31日にしよう。」
「本当? 
じゃあ、約束よ。」
「でも、俺が其れ迄に、君にフラれていたらどうするんだい…?」
「其の時は、あなたは行かなくて好いわ。
私は絶対、高尾へ行くの…。」


                          〈三四、アジサイ寺再び〉






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Last updated  2007年02月28日 23時03分32秒
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