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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月10日
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   43. Gの響き


 「和音の展開と言うのは、トニックに始まってトニックに終わる…。
コード進行の基本的な形は、C→F→G→Cなんだ。」
私は云った。
「旋律も、主音に始まり、4度へ行き、そして5度が出てきて、主音に戻り終わるのさ。
其れが基本だ。」
みゆきは静かに私の話を聴いていた。
「だからGと言うのは、終わりを予感させる音なんだ。
君はピアノを弾くから知ってると思うけど、クラシックに於いては、CからFへ行き、色々有って、やがてGが出て来るんだ。
そして『あぁ、終わるな…。』と思うと、本当に終わるんだ。」
11月になった許の日曜日、私はみゆきと、公園通りの喫茶店に居た。
「だけど現代音楽、ポップスとかニューミュージックと呼ばれるものとかのコード進行を視ると、よくCから、いきなりGへ行ってるんだ。
終わりを予告する筈のGが、Fの前に、最初に登場してしまうんだ。
勿論、曲は其の儘終わってしまう理由では無く、Fへ進んだり色々展開してから、Cへ戻って終わる。」
みゆきは興味深そうに、コーヒー・カップに手を添えた儘、耳を傾けていた。
「此の事は、クラシックとポップスの違いの1つであると、俺は考えてる。
クラシックでは、C→G→Cの、Gの前で色々なコードに展開し、ポップスではGの後で展開するんだ。」
「…ポップスでは、最後にCへ帰る前にも、もうGは出て来ないの?」
「否、矢張り終わる前に、Gはちゃんと登場する。
唯急度、クラシックの好きな人が急にポップスを聴いた場合、Gが出て来た処で『あれ、もう終わりかな?』って言う風に感じると思うんだ。
でも、曲は終わらない…。
君なんかは、どうだい?」
「私、ピアノは弾くけど、クラシック許聴いてる理由では無いから…。」
「Gは終わりを告げる音なんだ…。
だけど、実は俺も、C→Gって言う5度への和音展開が一番好きなんだ。
GはCから一番離れた音だからね…。
5度はトニックから一番遠い処に有る音だから、5度への展開が美しく聴こえるのは、当然なのかも知れない。
でも、其れは、心の底に終わりを感じさせる所為なのだ、と言う事を皆、気付かないのさ…。」
我々は喫茶店を出ると、パルコの方へゆっくり歩いて行った。
私はもう何も喋らなかった。
彼女も黙っていた。
私は、以前香織の妹が云った、「二人の間を沈黙の時が流れても、其れに抵抗を感じなくなれば、男女の関係は本物だ。」と言う事を、想い出していた。
唯、私にはもう、彼女に語るべき事が、何も無かった。

 夜になり、渋谷駅の東横線の自動切符売場に二人は居た。改札の手前で彼女は振り返った。
「電話、待ってるわ…。じゃあ、又ね…。」
いつもの様に彼女は、そう云った。
「うん、其れじゃ、又…。」
私もそう云って、二人は別れた。
そして、私と彼女は二度と逢う事は無かった。

 翌、11月2日の夕刻、私は総武線の電車に乗っていた。
心の中で何度も、同じ言葉を繰り返し呟いた。
新宿で、淳一と西沢が電車を降りて行った後も、私はドアの側の座席に腰掛け、心で繰り返していた。
(さあ、清算だ…。)

 中野駅の改札を出た処で、ふと前を視ると、人込みの中に見覚えの有る後姿が有った。
「フー子。」
私は呼び掛けた。
「…あら、鉄兵。
今、帰り?」
「ああ。」
我々は並んで歩き始めた。
「だけど、初めてファミリーの誰かに逢ったな。
全員同じ駅を利用してて、今迄偶然に逢う事が一度も無かったなんて、考えてみれば不思議だ…。」
「私もそうよ。
偶然逢ったの、鉄兵が初めてだわ。」
「若しかして俺達の間には、運命の赤い糸でも有るのかな…?」
「そうかもね…。
私丁度、鉄兵の事考えてて、逢いたいと思ってた処だったのよ。」
「え…、本当?」
「本当よ。
嬉しい…?」
「うん。」
「じゃあ、サテンへでも寄って行かない? 
時間有るかしら…?」
「有る有る、有り余ってる…。」
我々は、サンモール街の「珈琲館」へ入った。

 珈琲がテーブルに運ばれて来てから、フー子は調子を変えて云った。
「あのね…。」
「お、愈々本題だな。」
「あら、解る?」
「君が愛を打ち明ける為に、俺を誘ったんでは無い事位解るさ。
話は何だい?」
「有り難う、話し易くして呉れて…。
でも話と言うのは、あなたの事よ。」
「俺の…?」
「ええ。おととい、土曜の夜、世樹子が私の処に泊まって行ったのよ。
聴いたわ、あなた達の事…。
其れで…、」
「二人で居たのに、どうして三栄荘に来なかったの?」
「あなたも柳沢君も、土曜はどうせ遅かったんでしょ? 
あなたは合コンだったし…。」
「よく御存じで…。」
「世樹子に聴いたのよ。
…1つだけ、聴かせて欲しいの。
…あなた、世樹子が好き?」
私はコーヒー・カップの縁に口を付けた。
「私は、香織には何も云わない積もりよ。
彼女の前で、少し気が重いだろうけど…。
私よりも、世樹子はずっと辛い筈だわ。」
私はカップを皿に戻すと、煙草を銜え、火を点けた。
そして、世樹子が何故フー子に打ち明けたか、と言う事に就いて考えていた。
どちらかと言うと、其れは予想し得なかった事だった。
「世樹子は俺の事を何て云ってた…?」
「そんな事、私に訊かなくても、あなたは充分知ってるでしょ?」
「否、充分かどうか、自信が無い…。」
「嘘云っても、駄目よ。」
「本当さ…。」
「彼女の気持ちは、あなたが思ってる通りよ。
いえ、急度其れ以上でしょう…。
だから、本当の処を聴かせて頂戴…。」
「…俺は、彼女の夢を叶えて遣りたいだけさ。」
「そう…。」
フー子は初めて自分の珈琲を一口飲んだ。
「…1つだけ、私から云わせて貰って好いかしら?」
「ああ、どうぞ…。」
「あなたは…、悪い男よ。」

 (さあ、清算だ…。)
気が付くと、私は心で、そう繰り返し呟いていた。
香織が受けた劇団のオーディションの発表が有り、彼女は合格した。
そして私は、彼女に告げるべき時が遣って来たと思っていた。
然し、そう思って直ぐは、其の事は現実化しなかった。

 11月4日、三栄荘では香織の合格祝いが催された。
部屋の常連6人に、ノブが参加して、パーティーは始まった。
乾杯の後、全員から「おめでとう」の言葉を浴びせられ、香織は珍しく真剣に照れた表情で笑っていた。
そして彼女は云った。
「どうも有り難う…。
でも私だけじゃなく、世樹子も祝って挙げなくちゃ。
世樹子は同じ日に英検を受けて、合格したのよ。」
「え、本当…?」
ヒロシが云った。
「何だ世樹子、合格してたの?」
柳沢が云った。
「あら、あなた、する筈無いって思ってた様な云い方ね?」
「だって、3級だろ?」
「俺、自信ねぇや…。」
「前の晩、サン・プラに泊まったって言うのに、よく合格出来たもんだ…。」
「そんな、奇蹟みたいに云って、一寸失礼じゃない?」
フー子が云った。
「いいのよ。
本当に奇蹟なんだから…。」
世樹子は云った。

 「でも、久保田は偉いよ。
ちゃんと夢に近付く努力をして、其れを半分実現したんだもの…。」
ヒロシが云った。
「あら、ヒロシ、妬んじゃ駄目よ。」
フー子が微笑みながら云った。
「私、別に、夢に近付いた理由でも何でも無いわよ…。」
香織は云った。
「合格したって云っても、当分は研修生でしか無いの。
研修期間の最後に、内部オーディションみたいなのが有って、其れに合格して初めて、俳優として劇団員になれるのよ。」
「メジャーな其の、スポンサーと広告代理店がやるオーディションなんかは、受けてみる気無かったの?」
柳沢が云った。
「ええ、受かりっこ無いし…。
私、全てを捨てても女優になりたい、とか言うのじゃないのよ。
小さな舞台に立てれば、充分だわ。
いい加減って言うか、欲張りって言うか…、普通の幸せも、矢っ張り欲しいの…。」
「女の幸せ?」
「まあ…、そうね…。」
「久保田も矢っぱ、女だったんだなぁ。」
「君は多分、東京へ来てから、そんな願いを持つ様になったんだろう…。」
柳沢は云った。

 「ヒロシと鉄兵は、秋のも受けたんでしょ? 
CBSソニーのオーディション…。」
香織は云った。
「うん、直ぐにテープが返って来なかった処を見ると、一応テープ審査の対象には入ってるらしい。
でも駄目だろうな…。」
ヒロシが云った。
「お前等も地道な努力って言うか、活動を確りするべきなんだよ。」
柳沢が云った。
「俺は、其の積もりなんだぜ。」
ヒロシが云った。
「俺は一発賞って言うのにしか、興味無いな。」
私は云った。
「若し受かったら、いきなりメジャーって言うのが好い。
俺達は、地道な努力なんて避けるべき世代さ。
そうであるべきに余る才能が、俺達には有るんだ。
今の音楽シーンを観ていて、そうは思わないかい…?」
「相変わらず、自信家ですこと…。」
「人に何かを伝えたいと思う者は、皆、自分の中に、其々の形で自信を持ってるものさ…。」


                            〈四三、Gの響き〉






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Last updated  2007年03月17日 17時21分13秒
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