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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月11日
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   44. 朝の光眩しく


 「久保田、もっとジャンジャン呑んで呉れよ。
パーティーの主役なんだから…。」
「解ったわよ。
呑めば好いんでしょ…。」
我々は彼女に何度も酒を勧めた。
然し其れにしても、其の晩彼女は、珍しくよく呑んだ。
普段から彼女は酒の呑める女であり、又よく呑む方であったが、必ず自分のペースを守り自ら予想し得る酔い方しかせず、決して酒に酔わされる事は無かった。
然し其の夜、彼女は勧められる儘に、どんどんウィスキーを口にした。
そして彼女は、潰れてしまった。

 下へ行って何度か吐いた後、香織は横になって眼を閉じていた。
「全く、誰? 
こんなになる迄、無理に呑ましたのは。」
香織に毛布を掛けて遣りながら、フー子は云った。
我々三人は口々に「俺では無い。」と答えた。
「だっていつもは、幾ら呑めと云ったからって、自分がもう厭だと思ったら絶対呑まないぜ、久保田は。」
「香織ちゃん、大丈夫かしら? 
珍しいわ、こんなに…。」
水に濡らして絞ったタオルを持って、部屋に戻って来た世樹子が云った。
「そうね。
本当に珍しいわね…。」
世樹子からタオルを受け取り、フー子は香織の顔をそっと拭いて遣った。
香織は苦しそうな表情を浮かべ、固く眼を瞑っていた。

 「じゃあ、私、もう帰るわね…。」
零時を過ぎた頃、フー子は自分のアパートへ帰って行った。
彼女は翌日も、早くから授業に出なければいけないと言う事だった。
香織は眠っていた。
「とっても辛そうだったけど、もう落ち着いたみたいね…。」
「其れにしても、久保田、今夜は少し変じゃなかった?」
「自分の合格祝いだったから、急度みんなに気を使って無理に呑んだのよ…。」
唯、香織は勘の鋭い女だった。
「さて、俺も今夜は帰らなくちゃ…。」
ヒロシが云った。
「何だ、帰るのか。」
「部屋で彼女でも待ってるの?」
世樹子が薄笑みを浮かべて云った。
「駅迄、付き合おう。」
そう云って、私はヒロシと立ち上がった。
フー子を送って、丁度帰って来た柳沢と入れ違いに、我々は三栄荘を出た。

 「鉄兵ちゃん、本当にソニーは未だ何も云って来ない…?」
「ああ。
心配するな。
俺はもう落っこちてるさ。
其の中、テープが戻って来るだろう…。」
「鉄兵ちゃんの曲が受かんないんだったら、俺なんて絶対無理だよな…。」
「そんな事解らんだろう。
ヒロシのは個性が光ってて、寧ろ俺より望みが有ると思うぜ。」
「サンクス…。
でも俺には鉄兵ちゃんの様な、センスの好い綺麗な詞や曲がどうしても書けない。
才能が足りないんだよな…。」
「云っとくけど、俺のは全部コピーだぜ。
お前の方が、ずっと才能を感じさせる筈さ。
本当だぜ、此れは…。」
「いつか…、二人でビッグになりたいよ…。
急度…、早く…。」
星の観えない夜空を見上げて、ヒロシは云った。
「なれるさ。
勿論…。」
「其れから…、鉄兵ちゃんも一緒にライブ・ハウス出て呉れよ。
厭なのは知ってるけど、一度で好いから…。」
「ああ、解った…。」
「本当? 
約束だぜ…。」
手を挙げると、ヒロシは上りの最終を待つ、ガランとしたホームへ歩いて行った。

 「ノブちゃんは今夜、帰らなくて好いんだろ?」
柳沢が訊いた。
「飯野荘に泊めて貰う予定だったんだけど…。」
ノブは云った。
「香織はもう、自分からは眼を覚まさないぜ。
無理に起こすと、又吐くだろうし…。」
私は云った。
「世樹子は泊まってくんだろう? 
ノブちゃんも泊まれば好い。」
「じゃあ、ノブちゃん、そうしましょう。」
「ええ…、でも迷惑では無いかしら…?」
「よし、其れじゃ、呑み直そう。」

 「みんな愉しくて、良い人許なのね…。」
ノブが云った。
「そうかい? 
俺は最近、悪い男だって云われた許だが…。」
「ノブちゃんだって、凄く好いぜ。
奥ゆかしくて、ファミリーの中で最も女性らしい女性だ…。」
「あら、私だって初めはそうだったでしょ? 
今は慣れちゃったから…。」
「ノブちゃんはもう充分、何度も俺達と逢ってるぜ。
本当に質素な女性は、慣れたからと言って化けの皮が剥がれるって事は無いのさ。」
「…あれ、そうで御座いましたの? 
ほっほ…。」
ノブはいつも優しい微笑みを浮かべながら、黙って皆の話を聴いている、そう言った女性だった。

 柳沢は自分の部屋で寝ると云って、部屋を出て行った。
「4人じゃ、狭いかな…?」
布団を敷きながら、私は云った。
「私達は構わないわよ。」
世樹子はノブと共に部屋を片付けながら云った。
「其れに柳沢君、隣で誰かが寝てると、自分が中々寝付けないからって、厭がるんでしょ…?」
「ああ、彼奴も段々我儘になって来やがった…。」
敷布団を2つくっ付けて敷き、其の上に女性3人が寝て、私は壁際で毛布だけを被り、カーペットの上で横になる事になった。
「鉄兵君、好いの? 寒いんじゃなくて…?」
世樹子が云った。
「余り俺に気を使うと、朝になって後悔する事になるぜ。」
「そうね。
鉄兵君、危険人物だったわね…。」
眠り続けている香織を敷布団の中央に寝かせてから、世樹子は窓側の布団の上に膝を付いた。
「あ…、私が窓際へ行くわ…。」
ノブが云った。
窓枠はサッシになっていたが、私の部屋のカーテンは夏用の薄い物であり、既に窓際は少し冷え込む事が予想される季節となっていた。
「二人共、俺の横では寝たくないらしいな。
まあ、信用されないのが当然ではあるが…。」
「いいえ、そうじゃないけど…。」
ノブは云った。
「ノブちゃん、怖いでしょうけど、どうか確り自分を守って、頑張って頂戴ね…。」
掛け布団の中に潜り込みながら、世樹子は云った。
やがて「カチッ」と言う小さな音が三度聴こえて、部屋は暗くなった。

 私は寝返りを打った。ノブの顔が側に有った。
「寒くない…?」
彼女は囁いた。
「少し…。」
彼女は掛け布団の端を少し上げて、隙間を造った。
私は毛布にくるまった儘、其処へ入った。
そして彼女にも毛布を被せた。
彼女の身体の温もりを感じた。
彼女は微笑んでいた。
だが視界が朧で、全体に紗が掛かっていた。
私はそっと唇を求めてみた。
彼女は眼を閉じた。
長い口付けをした。
唯、全てが朧で、夢の中の出来事の様であった。
私は彼女の胸に触れてみた。
私の手の上に、彼女は自分の手を乗せた。
彼女は温かく、柔らかだった。
そして、心地好さそうに眼を閉じていた。
唯、全てが朧だった。

 (夢だったのだろうか…?)
翌朝、眼を覚まして、私は考え込んだ。
(記憶が朧なのは夢の様でもあるし、かと云って唇と胸の感触は非常にリアルだった…。
何より身体の温もりは、とても夢とは思えない…。
然し、暗闇の中で彼女の表情が解ったのは、何故だ…? 
途中迄は現実に起こった事で、口付けから先は夢と言う事も…。)
「鉄兵君、いつ迄ボーッとしてるの?」
そう云って世樹子は、私の前に灰皿を差し出した。
私は慌てて、長くなった煙草の灰を其の上へ落とした。
「香織は…?」
「香織ちゃんは、午前中に用事が有るからって、起きて直ぐ帰ったわよ。」
「何だ、あれだけ酔って、もう平気なのか。」
「少し頭が痛いけど、すっかり大丈夫って云ってたわ。」
ノブに尋ねてみれば、はっきりするだろうと言う結論を私は得ていた。

 「流石、久保田は普段から伊達に呑んで無いな。
俺なんて、1週間酔いをした事有るもの。
おまけに胃炎迄起こして…。」
起きて部屋へ入って来た柳沢が云った。
「あれは可笑しかったよな。
テレビ視ながら悲鳴を上げてるんだもん…。」
私は眼を覚ました時、ノブが寝ていた位置に居た。
だが、彼女等が起きた後、私を布団の中へ移動させて呉れたと言う事は、充二分に考えられた。
ノブは窓際に世樹子と並んで坐り、いつもの様に微笑んでいた。
「其れにしても、今日は好い天気だな…。」
柳沢が云った。
「本当ね…。」
振り返って、開け放された窓の外を視ながら世樹子は云った。
新しい朝の光が、彼女達の肩に眩しく踊っていた。
私は立ち上がって窓際へ行った。
空には雲が見当たらず、まさに青々とした快晴であった。
「ほぅ…。
こう言うのを、小春日和って云うんだろうな…。」
私は云った。
「小夏日和って感じじゃない?」
「うん。
どっちにしろ、授業に出るには惜しい天気だ。」
「本当だ。
実に勿体無い…。
でも鉄兵は体育だろ?」
「ああ、そう云えば、そうだったな…。」
「矢っ張り、出なきゃね…。」
「…どうしようかな? 
休んでも好いんだが…。」
「休むの?」
「休んじまうか…。
よし、休む!」
「そうだ! 
休め!」
我々は歓声を上げた。
「ねえ、何処へ行く?」
「何処にしよう? 
ピクニックってのが理想だが…。」
「遊園地なんて、どう?」
「遊園地? 
最高…!」
「好いわね。
私、大好き。」
「ノブちゃんは?」
「ジェット・コースターが好きなの…。」
「OK。
決まりだ。」
11月5日の朝、我々は突如、遊園地へ行く事になった。

 「此処からだと、取り合えず西武園か豊島園か後楽園だな…。」
「赤サク」で柳沢は云った。
「後楽園は、つまらんだろ…。」
トーストを齧りながら私は云った。
「私、ずっと行きたかったんだ、遊園地。
やっと行けるわ…。
とっても嬉しい…。」
世樹子が云った。
「何で今迄、黙ってたんだい? 
行こうって云えば好かったのに…。」
「だって、みんな急度つまらいって云うと思って…。」
「隠してた理由じゃないが、俺は好きだぜ、遊園地。」
「豊島園が面白いそうよ。
聴いた話だけど…。」
ノブが云った。
「よし、決定。」
行き先は、豊島園に決まった。


                           〈四四、朝の光眩しく〉






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Last updated  2007年03月18日 22時25分24秒
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