640547 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

ゆうとの428

ゆうとの428

Recent Posts

Category

Favorite Blog

D'Addarioダダリオの… hanewoさん

お参り・・・・ ruccさん

iTunes iPod 私的 iM… APPLEマニアさん
TOYO’S ART… DONYAさん
joker   (;… jokerさん
☆korekara☆ゆっくり… charizaさん
あみぷぅの日々是好… あみぷぅ♪さん
ママ優先の子育て日記 からりょんさん
あまなっぷるの長閑… あまなっぷるさん
公立、四年生まで塾… はりせんぼんaさん

Comments

分かります。@ Re:いつでもどきどきしてるんだ ~みんなのうた~(03/09) 私が中学生の頃だと思います。 途切れます…
すけきよ@ 懐かしい この曲って1978年放送の「長島監督ご…
トレロカモミロ@ Re:いつでもどきどきしてるんだ ~みんなのうた~(03/09) 知ってますよ。この歌もう一度聞きたくて…
みやっち@ Re:とうとう、高校3年生になりました。。(06/20) 初めて書き込みします。 最近こちらに出会…
書き散らして逃げですか?@ Re:中学受験終了!(02/01) 肝心の大学受験結果を報告してください。…
それで?@ Re:とうとう、高校3年生になりました。。(06/20) これだけ自信たっぷりに公衆にメッセージ…
ご報告を@ Re:中学受験終了!(02/01) その後附属からどちらの大学へ進学された…
責任を@ Re:あなたは・・、何て言ったの・・?(06/24) これだけのことを書いたのだから、息子さ…
実証?@ Re:子供を東大へ行かせる方法 11(12/14) 興味深く拝見しました。それでこのメソッ…
グッチ 折り財布@ ifxnugt@gmail.com 今日は~^^またブログ覗かせていただき…

Calendar

Archives

2024年10月
2024年09月
2024年08月
2024年07月
2024年06月
2024年05月
2024年04月
2024年03月
2024年02月
2024年01月

Keyword Search

▼キーワード検索

2005年11月11日
XML
   45. 豊島園遊園地〔前編〕


 「赤サク」を出た後、世樹子とノブは一寸飯野荘へ寄って来ると云った。
柳沢と私は三栄荘へ戻り、彼女等を待った。
優に1時間は経過した後、漸く二人の階段を上る足音が聴こえた。
「着替えと化粧直しにしては、随分遅かったじゃない?」
「気が変わったのかと心配したぜ。」
「御免なさい。
実は二人でお弁当を作ってたのよ。」
「弁当…?」
私は世樹子が手に下げているバスケットに眼を遣った。
「趣味に合わなかったかしら…?」
「とんでも無い。
至上の幸福を感じる…。」
「中身は何だい?」
「急いだから、大した物作れなかったの。
サンドイッチと簡単なおかずだけ…。」

 高田馬場で国電に、更に池袋で西武池袋線に乗り換え、我々は豊島園に遣って来た。
1日券を買って入場すると、直ぐに「スカイ・ダイバー」と言う名の乗り物が眼に付いた。
平日の遊園地は、よく空いていた。
「此の分だと、全部の乗り物に乗れそうだな。」
私は云った。
「全部乗る積もりなの?」
「当然だろ。」
「でも、此処広いわよ。
1日で全部乗り切れるかしら…?」
「多分、無理だな。」
柳沢が云った。
「無理かどうか、やってみなけりゃ解らんさ。」
「息も付かずに乗り捲る積もりか?」
「其の為に1日券を買ったんだろ? 
大体遊園地に来て、ゆっくり寛ごうなんて間違ってるぜ。」
「成程…。
よし、じゃあ今日は気合を入れて、真剣に遊ぶか。」
我々は「スカイ・ダイバー」の入口に遣って来た。
「面白いのかな…?」
其れは観覧車の様な乗り物だった。
「さあ? 
余り期待は出来そうに無いが、まあ、小手調べって事で…。」

 2人掛けのシートの片方にハンドルが付いていた。
「何の為だろう…?」
私はハンドルの付いている側に坐りながら、隣のノブに云った。
ノブは笑って首を傾げた。
ベルトをロックしてから、私はハンドルを廻してみた。
宇宙船が少し傾いた。
「成程、こう言う事か…。」
各船に客が全員乗り込むのを待つ間、私はハンドルを左右に廻して、どれ程迄傾くのかを試していた。
中々上手く行かなかったが、私は遂に、宇宙船は1回転出来る事を発見した。
ノブが小さな悲鳴を上げた。
「大丈夫かい?」
「ええ、一寸愕いただけ…。」
其の操作にはコツが有って、初めは1回転させるのが精一杯であったが、私は直ぐに要領を掴んで、船をクルクルと廻し始めた。
未だ停止している観覧車の中で、1個だけが回転していた。
発動のベルが鳴った。
「ノブちゃん、スリルは好きかい?」
「大好きよ。
思いっ切りやってね。」
「OK…。」
観覧車は廻り始めた。
私は、どうせ大したスピードは出ないのであろうと構えていた。
観覧車は次第に回転の速度を上げて行き、然し予想していた速さを越えて猶、加速を続けた。
観覧車は物凄いスピードで回転し始めた。
「こいつは、すげぇな…。」
私はハンドルを廻して宇宙船を回転させた。
高速の中でのハンドル操作は、停止している時よりも更に技術を必要とした。
ノブは座席の前の握り棒を確り握り締めて、身体を硬くしていた。
私の編み出した最も高度なハンドル・テクニックは、宇宙船が一番低い位置、係員が立っている昇降ホームの間を通過する時、船体を180度傾け、真っ逆様になって通り過ぎるものだった。

 「スカイ・ダイバー」は素晴らしい乗り物であった。
私とノブは宇宙船を降りると、先に降りて待っている柳沢と世樹子の側へ歩み寄った。
「最高だったな…。」
私は云った。
「そうか…?」
柳沢は同意しかねる口調だった。
「とっても面白かったわ…。」
ノブは胸を押さえながら云った。
「確かにスピードは有ったが、まあまあのスリルだった。」
柳沢は云った。
「鉄兵君があんまりクルクル廻すから、私もうフラフラよ…。」
ノブが愉しそうに云った。
「クルクル廻したって、どう言う事…?」
世樹子が訊いた。
私は少しコツが必要であったが、宇宙船を回転させる事が出来た旨を説明した。
「嘘…、廻せたの? 
俺、傾くだけかと思った。」
「本当? 
何か私達、損した気分ね…。」
「君等は『スカイ・ダイバー』に乗ったとは云えない。」

 正午を過ぎて、我々はベンチに腰掛け、世樹子とノブが作った弁当を食べ始めた。
「おぉ、凄い! 
唐揚げが有る…。」
おかずのバスケットを開けて、柳沢が云った。
「時間が無かったから、味は余り保証出来ないわよ。」
「其れには何が入ってるんだい?」
未だ開けられていないバスケットを指して、私は訊いた。
「あ、此れ…、おむすび…。」
ノブが云った。
「え! 
むすびも有るの?」
サンドイッチを口に銜えた儘、柳沢は云った。
「男の人ってどれ位食べるのか、よく解らなくて…。」
「ノブちゃんがね、サンドイッチだけじゃ足りないだろうから、おむすびも作ろうって云ったのよ。」
「でも、多過ぎたかしら…。」
「大丈夫よ。
此の人達痩せてるけど、よく食べるんだから。」
午前中は疎らだった客足も、最好の天気に誘われて少しずつ増え始めた。
唯、子供連れの家族の姿は殆見られず、若いカップルが非常に眼に付いた。
「ノブちゃんが握ったのは、どれ?」
私はむすびに手を伸ばしながら、云った。
「ふぅん、ノブちゃんのが食べたい理由ね…?」
「どれがどれか、もう解らないわよ。」
「待って、…確かこっちから半分が、ノブちゃんが作ったのよ。
はい、鉄兵君、どうぞ。」
柳沢は無造作に、むすびのバスケットから1つを取ってパク付いた。
「柳沢君、美味しい?」
世樹子が尋ねた。
「ああ…、美味いよ…。」
「そう、良かった。
其れ、私が握ったおむすびよ。」
「へえ、矢っ張り…。
そうじゃないかと思ったんだ。」
「まあ、有り難う。」
「此の微かな塩味は、急度世樹子の手汗…。」
「ちゃんとラップの上から握ったわよ!」
「え? 
じゃあ、ノブちゃんのも、そうなの?」
私はノブに訊いた。
「ええ、そうよ。」
「何だ、直接手で握ってからラップに包んだんじゃないのか…。」
「普通、そんな事しないわよ。」
世樹子が云った。
「そうだったのか…。」
「当然でしょ。
食べる人の事考えたら…。」
「そうかな? 
食べる人の事を考えて、直に握って欲しかったな。
ノブちゃんの手汗の味を噛み締めながら、食べたかった…。」
世樹子とノブは眉を寄せた。

 二人の作った弁当は、其の量に於いて豊富を誇るものだった。
彼女等は控え目な食欲を示した。
私と柳沢は前夜強か酒を呑んでおり、又睡眠不足気味でもあったが、時間を掛けて全部食べ尽くした。
そして私は、食後の乗り物はバイキングしか無いと主張した。
「そいつは好いな…。」
「どうして?」
「乗ってみれば、解るよ。」
バイキングの前には、待っている客が1人も居なかった。
我々は2人ずつに分かれて、其々両端の一番高い処に坐った。
「ノブちゃん、一寸変な事訊くけど…。」
私は云った。
「何…?」
我々だけでは流石に運転を始められず、バイキングは今少し他の客が遣って来るのを待っていた。
「ゆうべさ、俺、真夜中に、其の…、君に何かしたかい…?」
私は其れと無く、彼女を観察した。
「何かって…?」
ノブは表情を変えなかった。
(矢張り、夢だったか…。)
「否、ゆうべ俺、夢を視てさ…。」
「どんな夢…?」
「其れが、とんでも無い夢なんだ。」
「…。」
「怒らないで呉れよ。
夢の話なんだから…。」
ノブは頷いた。
「君の夢なんだ。
君が隣で寝ていた所為だろうけど、君とさ、其の…、キスをしたんだ。
夢の中で…。」
「…。」
「気を悪くしたら、御免。
でも嘘じゃないんだ。
唯、本当に…。」
「私も同じ夢を視たわ…。」
「え…!?」
私は身体に水を浴びた様な感覚を覚えた。
思わず振り向いて、彼女の顔を見詰めた。
彼女は変わらない微笑みの表情で、私を視ていた。
「同じ夢って、まさか…。」
胸に、緊張に似た得体の知れない物が込み上げて来る中で、私は彼女の先程からの微笑みの理由を理解した。
「…あの、部屋の布団の中で、キスした夢かい…?」
「ええ。
キスの後、鉄兵君、他にも何かしたわ…。」
決定的であった。
「否、…俺、寝惚けちゃっててさ…。」
云った後で、私は(しまった…。)と思った。
彼女の胸の辺りを、私の視線が掠めた。
そして私は、紗に包まれた記憶の中で、何の抵抗も無く唇を、又私の手が其の胸に触れるが儘に許した彼女の様子を、想い出していた。
気が付くと、世樹子と柳沢が此方へ手を振っていた。
私とノブも振り返した。
発動のベルが鳴った。


                         〈四五、豊島園遊園地[前編]〉






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007年03月20日 15時05分37秒
コメント(3) | コメントを書く
[小説「愛を抱いて」] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X