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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月13日
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   47. 豊島園遊園地〔後編〕 ~メリーゴーランド~


 空と地上が、入り乱れて廻っていた。
世樹子は眼を閉じた。
「眼を瞑っちゃ、駄目だぜ。」
私は二人がゆっくり動き始めた時、そう云った。
彼女はずっと瞳を開けた儘、次から次へと目紛しく変わって行く景色を見詰めていた。
そして、やがて疲れた様に、まるで、もう想い出にしてしまいたいかの様に、彼女は静かに眼を閉じたのだった。
(眼を瞑っちゃ、駄目だ…。)
私はハンドルを廻し続けた。
景色のスライドの中に、幾つも黄昏の空が有った。

 「唯、不思議なのは、こんな面白い乗り物に、朝も今も客が殆ど居なかった事だ…。」
私は云った。
「昼間は急度、混んでたんじゃないか?」
柳沢が云った。
「ジェット・コースターは朝から満員だったぜ?」
「みんな面白いって事を、知らないのじゃないかしら? 
自分達でスリルを創り出すものだから…。
掘り出し物だったのよ。」
「そうかもな…。
名作だよな。
『スカイ・ダイバー』は…。」
急に肌寒さを感じた。
空は未だ半分明るかったが、太陽は既に其の姿を消していた。
「さて、じゃあ、行きましょうか…。」
世樹子とノブは歩き出した。
「何処へ行くんだい? 
そっちは出口だぜ。」
私と柳沢は立った儘だった。
「未だ、閉園時刻迄は間が有る。」
「未だ、何か乗る積もり…?」
「当たり前だろ。」
柳沢は元の顔色に戻っていた。
「もう、想い残した事は無いのかい?」
「ええ…、まあね。」
「未だ、一番大事なものに乗って無いよ。
日が暮れてから乗ると、最高のものに…。」
「あ、若しかして…。」
「そうさ。」
「唯、何処に在ったか覚えてないんだよな。
早く捜さないと、時間が…。」
「私、知ってるわ。
こっちよ…。」
我々は駆け出した。

 遊園地の一番奥に、メリーゴーランドは在った。
まるで又夏が来たかと思える程の陽気な一日だったが、秋の陽は矢張り短く、辺りを次第に夕闇が包もうとしていた。
其の先端に金色の鷲が羽を広げて留まっている馬車の中に、私とノブは並んで坐っていた。
「本当に、俺は其の後、何もしなかったの…?」
「ええ、直ぐに眠っちゃったわ。」
軽快な音楽が響いていた。
「御免ね…。」
「もう、いいのよ。
鉄兵君が寝惚けてる事は、解ってたわ。
私もボーッとしてたし…。
もう、気にしないで。
解ってたけど…、あなたは、優し過ぎるわ…。」
「違うんだ。
2ヶ月前の俺なら間違い無く、今日は一日中君を口説いてたさ。
でも、調子がおかしいんだ。
今…。」
「そうなの…。
残念ね…。」
馬車は滑って行った。
「今日はとっても愉しかったわ。
其れから、みんなとっても優しいのね。
唯、鉄兵君は、悪い人の方が良かったなぁ…。」
「だから調子を崩してるだけさ。
戻ったら、爪を隠して君を襲いに行くよ。」
「待ってるわ…。」
我々が其処へ遣って来た時、他の客は1人も居なかった。
少し気が引けたが、係員は快く機械を動かして呉れた。
「メリーゴーランドを楽しむコツはさ、自分達の乗り物が動いてるんじゃなくて、周りの景色の方が動いていると思い込む事さ。
やって御覧よ。」
「あら、本当…。
何か不思議ね…。」
二人を乗せた馬車は動きを停め、外の世界が上下に揺れながら廻り始めた。
そして其れは、外の世界の時間だけが、流れ始めた様でもあった。
我々は時間の無い、光の国に居た。
彼女の肩の処と、私の頭の後ろで、裸の天使がホルンを吹いていた。
馬車が又動き出していた。
今度は本当に…。
横を走っている白馬が、片眼で私の顔をチラリと視た。
「鉄兵君、ほら、金の鷲が…。」
「ああ…。」
初め視た時、丁度馬車の先端に舞い降りた姿であろうと思った其の鷲は、今まさに、翔び立つ処であった。
「そろそろ、ナイトの交替の時間だな…。」
私は立ち上がると、馬車の前から身を乗り出した。
「あれ…、此れ、馬車じゃないぜ…。」
乗り物を引っ張っているのは、2匹の豚だった。
私は右側の豚の上へ翔び乗った。
豚は上眼使いに私を視た。
そして私は、右前方を笑いながら走っている馬の背中へ翔び移った。
私は白馬と白豚の背中を渡り歩いて、進んだ。
柳沢が前から遣って来た。
「鉄兵、お前は正解だよ。
俺は失敗した…。」
「どうした?」
「こいつ等の顔を視ながら進むのは、骨が折れる。」
「成程。
痛いから止めて呉れって、哀れな顔で見詰められるのか?」
「否、其れだけなら好いんだが、中に翔び移ろうとした瞬間、表情を変えて威かす奴が居るんだ。
もう何度も落っこちそうになった…。」
柳沢と擦れ違って、更に私は進んだ。
ソファの敷かれた豪華な豚車の中に、世樹子は居た。
「世樹子姫…。」
私は呼び掛けた。
「あなたは落ちて、馬に蹴られておしまい。」
「此れは、とんでも無い間違いを…。」
私は豚の側を離れ、彼女の隣に坐った。
外の世界は、すっかり暗くなっていた。
「ねえ、一寸変じゃない…?」
「何が…?」
「此のメリーゴーランド、私達が乗ってから、ずっと廻り続けてるわ…。」
「そう云えば、偉く長いメリーゴーランドだな…。」
昇降ホームが近付いて来た。
ボックスの中に係員の姿は無かった。
「サービスかな…?」
「優しい人で良かったわね…。」
頭上を光の河が流れ続けていた。
「ねえ、此の天使、男か女か知ってる?」
「知ってるわよ。
男の子でしょ。」
「ほう…、確り視たんだ。」
「違うわ。
天使は男の子に決まってるじゃない…。」
唯、世樹子の肩でホルンを吹いている天使は、少し恥かしそうに下を向いていた。
「でも君は、よくメリーゴーランドの在る処を覚えてたね…。」
「だって昼間、何度も此の前を通ったのに、誰も乗ろうって云って呉れないから、ずっと残念に思ってたんですもの…。」
「昼間は流石に、恥かしくて乗り難いよな。
子供が多いし…。」
「そうだろうと思ったわ。
でも今は、とっても幸せよ…。」
「やっと、こいつと友達になれたよ…。」
私は横の白馬を指して云った。
いつからか、動物達は皆、優しい眼をして我々をそっと見詰めていた。
光の国の豚車は我々を乗せて、昨日でも明日でも無い処へ進み続けた。

 閉園の音楽が聴こえて来た。
係員が遣って来て、機械は静かに停まった。
我々は丁寧に礼を述べてから、光の国を後にした。
途中何度も振り返り、其の度に光の国の輝きが消えていないのを視て、我々は安心し、そして嬉しかった。
光の国はいつ迄も、小さく其処に輝いていた。

 「寒いな…。」
ゲートを出ると、我々は上着の前を閉じ、襟を立てた。
晴れ渡った夜空は、昼間の温もりを、あっと云う間に吸い上げてしまっていた。
然し寒さより猶、気になる事が有った。
「腹が減った…。」
「そうでしょうね。
お弁当を食べた限ですもの…。
柳沢君は?」
「俺も…。
空腹で歩けそうに無い…。」
「そう…、良かった。」
我々は眼の前のハンバーガー・ショップに入った。

 「今日は本当に、どうも有り難う…。」
皆に向かって、ノブが云った。
「感謝されるのは嬉しいけど、俺達は唯、自分が行きたいから遣って来ただけなんだよ。」
「まあ、でも偶然其れが遊園地で、ノブちゃんに気に入って貰えて良かったよな。」
「ノブちゃん、此の人達に余り素直に感謝してると、後が怖いかもよ。」
「世樹子は、どうなんだい?」
「勿論、私も感謝してるわよ。
洞穴じゃなく、遊園地だった事に…。」
「私、ゆうべから、みんなとずっと一緒に居て、色んな事が全部新鮮だったわ…。
天気が好いから授業をサボって、お弁当を作って遊園地へ行って、私、初めてなの…、そんな事したの…。」
「俺達だって、いつもこんな事してる理由じゃないんだぜ…。」
「俺は、普段はちゃんと授業に出てるんだよ。」
胃を落ち着かせて、我々は豊島園駅の中へ入った。
「遊園地を出た後に本物の電車を視ると、何かとっても味気なく視えるな…。」
「あら、違うわ。
こっちが偽物よ…。」


                         〈四七、豊島園遊園地[後編]〉





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Last updated  2007年11月09日 11時55分58秒
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