640437 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

ゆうとの428

ゆうとの428

Recent Posts

Category

Favorite Blog

D'Addarioダダリオの… hanewoさん

お参り・・・・ ruccさん

iTunes iPod 私的 iM… APPLEマニアさん
TOYO’S ART… DONYAさん
joker   (;… jokerさん
☆korekara☆ゆっくり… charizaさん
あみぷぅの日々是好… あみぷぅ♪さん
ママ優先の子育て日記 からりょんさん
あまなっぷるの長閑… あまなっぷるさん
公立、四年生まで塾… はりせんぼんaさん

Comments

分かります。@ Re:いつでもどきどきしてるんだ ~みんなのうた~(03/09) 私が中学生の頃だと思います。 途切れます…
すけきよ@ 懐かしい この曲って1978年放送の「長島監督ご…
トレロカモミロ@ Re:いつでもどきどきしてるんだ ~みんなのうた~(03/09) 知ってますよ。この歌もう一度聞きたくて…
みやっち@ Re:とうとう、高校3年生になりました。。(06/20) 初めて書き込みします。 最近こちらに出会…
書き散らして逃げですか?@ Re:中学受験終了!(02/01) 肝心の大学受験結果を報告してください。…
それで?@ Re:とうとう、高校3年生になりました。。(06/20) これだけ自信たっぷりに公衆にメッセージ…
ご報告を@ Re:中学受験終了!(02/01) その後附属からどちらの大学へ進学された…
責任を@ Re:あなたは・・、何て言ったの・・?(06/24) これだけのことを書いたのだから、息子さ…
実証?@ Re:子供を東大へ行かせる方法 11(12/14) 興味深く拝見しました。それでこのメソッ…
グッチ 折り財布@ ifxnugt@gmail.com 今日は~^^またブログ覗かせていただき…

Calendar

Archives

2024年10月
2024年09月
2024年08月
2024年07月
2024年06月
2024年05月
2024年04月
2024年03月
2024年02月
2024年01月

Keyword Search

▼キーワード検索

2005年11月15日
XML

   51. 六本木エレファントマン事件


 森田は真っ赤な顔をして、頻りに世樹子へ喋り掛けては、彼女の手や肩に触れようとした。
野口は左隣の女と仲睦まじく呑んでいた。
西沢はテーブルの縦の辺に自分の椅子を置いて、理恵に近付いて坐り、隣の女を元自分が居た場所に招いて、3人で話をしていた。
「そんな事、有る筈がない…。」
私は云った。
「女の子は大学生であろうと、専門学校であろうと、高卒であろうと、可愛い娘が偉いのさ。
第一、専門学校の方が、名前を視ただけで目的が解って、大学みたいに何を目指して入ったのか考え込んでしまうより、余っぽど好いよ。」
「私達は大学を全部落ちて、其れで仕方無く専門学校に入ったのよ。」
ヒロ子は云った。
「此処に居る娘は、みんなそうよ。
多分、うちの学校に通ってる人間の殆どがそうだと思うわ。
まあ、当たり前の事だけど…。」
「当たり前って、其れじゃあ何かい…? 
専門学校ってのは、大学に落ちた者が普通行くのかい?」
「全部の学校がそうでは無いわよ、勿論…。
でも、うちの学校なんかは、そう言う人が多いわ。」
「何か、不思議な感じがするな…。」
私は中野ファミリーの女性達と、私の通う大学や女子大の女達を比較しながら、そう思った。
「俺は、専門学校の女の子の方が、好きだ。」
「まあ、本当? 
嬉しいけど…、あなたは、そうよね。」
突然、世樹子の小さな悲鳴が聴こえた。
彼女は椅子から身体を半分、立ち上がらせていた。
其れより少し前、柴山が西沢達の方へ移動して、世樹子に
「そんな奴いいから、放っといてこっちに来なよ。」
と、云った。
世樹子はためらわず柴山の方へ行こうとした、其の時、森田が世樹子の右腕を掴んだ。
「世樹子ちゃん、行っちゃあ駄目だよぉ。」
世樹子は立った儘腕を掴まれ、困惑していた。
「森田、いい加減にしろ…。
お前はもう、完全に酔ってる。」
柴山が云った。
「俺は未だ酔っちゃあいない。」
「幾らお前が望んでも、彼女は駄目なんだ。
諦めろ…。」
「俺は彼女と話がしたいだけだ。」
「なら、離れていても構わんだろう。」
「…だって、野口等はあの調子だし、彼女が行ってしまったら、俺が1人で淋しいじゃないか。」
「馬鹿野郎! 
手を放せ!」
西沢が怒鳴った。
「お前、一気で負けた癖して、何て奴だ。
其処で1人で音無しくしてろ。」
立ち上がって西沢は云った。
森田は手を放そうとしなかった。
「いいか、森田。
彼女はな、世樹子ちゃんは、既に交際中の身なんだ。
だから…。」
柴山が説く様に云った。
「そんな、でたらめ、信用するものか。」
森田は世樹子の腕を、ぐいぐいと強い力で引っ張り始めた。
世樹子は眼に半分涙を浮かべていた。
「鉄兵君、早く助けて挙げ為さいよ。」
ヒロ子が囁いた。
「あの野郎…。」
西沢は唸る様に云うと、森田の方へ行こうとした。
彼の椅子が音を立てて、引っ繰り返った。
「鉄兵、こいつに何か云って遣って呉れ。」
柴山が云った。
森田の方へ歩き始めた西沢の怒りに坐った目付きを視て、私は立ち上がり、そして云った。
「森田、悪いけど、彼女は俺の女なんだ。
其の汚い手を放しやがれ…。」
「やったぁ…!」
ヒロ子が手を叩いた。
森田は世樹子から手を放し、充血した眼を大きく開いて、私の顔を見詰めていた。

 外へ出ると、人通りと違法駐車の列が一段と混み合っていた。
「じゃあ、世樹子と鉄兵君は、此処で開放して挙げるわ。」
ヒロ子が云った。
「へ? 
どうして? 
ディスコへ行くんじゃないのかい?」
私は云った。
「そうよ。
私達は2次会で、踊りに行くの。
あなた達二人は、どうぞ好きな処へ行って頂戴。」
「あら、私も一緒にディスコへ行くわ。」
「世樹子、無理しないの…。」
「お前がどうしても、みんなと一緒に居たいと云うんなら、仕方無いが、唯な…。」
西沢が云った。
「成程…。
俺が居ては、邪魔だって理由か。」
「そう、私達は未だ此れから男女のスリルを楽しむんだから、あなた達、既成のカップルに居て貰っては、少し都合が良くないのよ。」
「OK。
解った。其れじゃあ、俺達は此処で消えるとしよう…。」
私と世樹子は皆と別れた。

 「今夜は大変だったね。
気を悪くしたろう? 
謝るよ…。」
「あら、全然そんな事無いわよ。
とっても、楽しかったわ。」
「1つ云って置きたいんだけど、彼奴、森田は、俺の友達でも何でも無いんだ。
同じ酒を呑んだのは、今夜が初めてさ。
どっちかと云うと、日頃から気に入らない奴だ。
唯、柴山と野口が、是非参加させて呉れって頼まれて引き受けて来たものだから…。」
「そうだったの…。
鉄兵君の友達にしては、何か感じが違ってると思ったけど…。
でも、色んな人が居るのね。」
「あの…、理恵ちゃんてさ、恋人居るの?」
「其れが、募集中なのよ…。
鉄兵君、気に入った? 
彼女、可愛いでしょ。」
「ああ…、『マジック』で逢った時から、そう思ってた。
西沢も気に入ってたみたいだし…。
今、恋人が居ないって事は、前の彼とは別れたのかな…?」
「高校の頃、付き合ってた人が居て、卒業前に壊れちゃったらしいの…。
専門学校に来てからは、ずっと淋しがってるわ。
あんなに可愛い娘なのに…。
私と理恵はね、いつも二人で慰め合ってたの。
でも、私だけ淋しく無くなっちゃったから…。
鉄兵君、隣に坐ってたけど、ちゃんと面白い話を沢山して挙げて呉れた?」
「え…? 
ああ…。
何とか、精一杯の努力はした…。」

 前夜の酷い雨が嘘の様に、其の日は1日中、晴天だった。
「ねえ、矢っ張り、嵐は来るのかしら…?」
中野に戻って来た二人は、サン・プラの前に立っていた。
「ああ、多分ね…。」
ガラス張りのロビーの中は真っ暗で、唯緑の非常灯だけが宙に浮かんでいた。
振り返ると、世樹子はじっと車道の方を見詰めていた。
私はそっと彼女に近寄り、背後から抱き締めた。
「私…、嵐なんて平気よ…。」
世樹子は自分の肩の上から降りて来た、私の両腕を抱え込みながら云った。
「大丈夫さ。
君を1秒だって、哀しませはしない…。」
彼女は身を反転させ、二人は抱き合いながら、唇を重ねた。

 其の夜は合コンと言う公然たる理由が有ったので、二人は三栄荘へ行く事が出来た。
「何だ、柳沢、帰ってらぁ…。」
私は自分の部屋に電気が付いているのを視て、云った。
門の中へ入り、階段の前の踊り場の下を視てから、今度はぎょっとして声が出なかった。
其処には夥しい数の男女の靴が、脱ぎ散らかされていた。
「此れは…。」
そして私は初めて、自分の部屋が異様にざわついている事に気付いた。
耳を澄ましてよく聴くと、西沢とヒロ子の声がはっきり確認出来た。
二人は顔を見合わせながら、階段を上った。
「あら、お帰り為さい。」
ヒロ子が云った。
「鉄兵! 
プライベート・タイムを満喫して来たか?」
笑っていた途中で、西沢が云った。
「ああ、御蔭様でな…。
ところで、此の騒ぎは一体、何なんだ…?」
「見りゃ解るだろ。
3次会さ…。」

 「済まんな、鉄兵。
悪いとは思ったんだが、此の野郎がいけないんだ。」
西沢の指し示した処に、森田が寝ていた。
「森田は、潰れたのか…。」
「ああ、全く、どうしようも無い奴だ…。」

── ディスコで西沢は、ヒロ子と理恵の2人の相手を務めた。
野口と柴山も残り2人の女と其々盛り上がり、自然、森田は1人あぶれてしまった。
そして、既に1次会でフラフラだった森田は、更に浴びる程の酒を呑み、西沢に依って計画的に潰された。
ディスコを出てからも、森田は至る処で次々に吐き捲るので、西沢達は彼に大きな紙袋を頭からスッポリ被せた。
前後不覚の状態に有った森田は、被せられた紙袋を取ろうともせず、其の儘の恰好で六本木の街をフラついた。
向うから遣って来た若い集団が、森田を視て、
「おぉ…! エレファントマンが居る!」
と叫び、通り過ぎて行った。
喫茶店へ入って皆で話をしている間に、森田は眠り込んでしまった。
再び盛り上がって、もう一度、今度は朝迄踊ろうと言う事になり、喫茶店を出る為全員腰を上げたが、森田は動かなかった。
彼等は踊りに行くのを諦め、男3人で森田を店から抱え出した後、タクシーに4人ずつ分かれて乗り込み、皆で三栄荘へ遣って来たのだった。 ──

 森田は部屋の一番隅に、頭から首の下に架けて沢山のナイロン袋を敷き込まれ、寝かされていた。
「俺、奴がタクシーの中で戻すんじゃねぇかと思って、ずっとビクビクだったぜ。」
西沢が云った。
「でも、あれだよな…。
専門学校の女の子って、何て云うか、優しいよな…。
合コンで泥酔者が出たのに、女の子が帰ってしまわず居て呉れた事って、初めてだ。」
「あら…、だって1人が潰れたからって、コンパを解散する理由にはならないでしょう。」
ヒロ子が云った。
「其の通りさ。
矢っぱ、専門学校の娘は、ちゃんと解って呉れている。」
「俺達、此れからもう女子大生は止めて、路線を固定しようぜ。」
「賛成。
合コンするなら、絶対、女子専門生とだよな…。」
我々は夜明け迄、飽きる事無く、酒を呑み言葉を交わした。

 焦点の合っていない視界の中で、皆が笑いながら手を振り、部屋を出て行った。
其れから又、暫く眠った。
チリ紙交換のマイクの声を聴きながら、今度は完全に眼を醒ました。
窓の磨り硝子を通って、柔らかな日差しの末端が、カーペットの上に零れていた。
紙の音がして、振り向くと、世樹子が坐って雑誌を読んでいた。
「あれ…? 
居たのか…。」
「ええ…、居たのよ…。」
私は煙草に火を点け、彼女が煎れて呉れた珈琲を啜った。
「鉄兵君、今日の御用事は?」
「…先ず、午前中は洗濯。」
「午後は…?」
「そうだな…。
水族館へ行く。」
「…。」
「サン・シャインに水族館が有るんだってさ。
知ってた?」
「有る事は知ってたわよ…。」
「おっと、そうそう…、其れからコタツを買いに行く。」
「コタツ…?」
「おかしか無いだろう、もう夜は充分寒い。
君の本日の予定は?」
「個人の予定は別に無いわ…。」
「じゃあ、付き合い給え。」


                       〈五一、六本木エレファントマン事件〉





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007年11月08日 21時25分01秒
コメント(4) | コメントを書く
[小説「愛を抱いて」] カテゴリの最新記事



© Rakuten Group, Inc.
X