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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月16日
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   52. 炬燵の中


 洗濯物は大きなファッション・バッグに2つ分有った。
「先生はずっと何か喋ってるの。」
フー子が云った。
「生徒が私の髪をチョキチョキ斬った後、今度は先生が鋏を持って、又何か云いながら、いきなり『ジョキッ!』なの。
『ええ…?』って思ってると、『ジョキッ、ジョキッ』って何度も耳の側で音がして、バラバラって自分の髪毛が落ちて来るの…。」
私と世樹子は笑った。
「でも、全然変な事無いじゃない。」
私はフー子の頭を視ながら云った。
「それは、そうよ。実習が終わった後で、ちゃんとカットし直して呉れるんだもの。
まあ、只で髪をカットして貰って、其の上お金を呉れるんだから、随分得な話なんだけど…。」
「後でちゃんとして呉れる事が解ってても、実習台に坐ってる時は矢っ張り恐怖だろうな…。」
洗濯機のブザーが鳴った。

 フー子のアパートを出た後、私と世樹子はコイン・ランドリーへ寄って洗濯物を乾燥機の中へ入れた。
「鉄兵君は、いつも乾燥機使ってるの?」
「うん。」
「たまには、干した方が良いわよ。
消毒にもなるし…。」
其の日も、前日と同様の晴天だった。
世樹子は一度飯野荘へ戻ると云い、刑務所の方へ歩いて行った。
洗濯物が乾く迄には時間が有り、私も三栄荘へ戻った。

 私はガラスに顔をくっ付けて、魚達を視ていた。
背鰭の長い魚が、真っ直ぐ此方へ泳いで来て、私の顔の前でクルッと向きを変え、去って行った。
私は何故彼等がガラスに衝突しないのか、不思議に思った。
鮮やかな色の小さな魚の群れが右から左へ泳いで行った後、スーッと音も無く鮫が現れた。
私はカジキに手を振った。
フグが眼の前へ遣って来て停まった。
「不細工な奴…。」
私は態と彼に聴こえる様に、呟いた。
フグは其処を動こうとしなかった。
「広島には『酔心』って言う、有名な店が有るんだが…。」
私がそう云うと、フグはゆっくり泳いで何処かへ行ってしまった。
人魚が泡に塗れて降りて来て、魚達に餌を与えた。
私は彼女には、真剣に手を振った。
世樹子は最初から、私とは随分距離を置いた場所で魚を眺めていた。

 「お若いけれど、御夫婦ですか?」
店員が我々に訊いた。
「え…? 
ええ、まあ…。」
私は要領の悪い返答をした。
世樹子が笑い出した。
「あれ、違うんですか?」
店員が又訊いた。
「いいえ。」
世樹子が云った。
「私達、駆け落ちしたんですけど…、なのに彼が未だ籍を入れて呉れないんです…。」
店員も笑い出した。
「好いねぇ、同棲なんて…。」

 「もう此れが、限界です。」
店員がそう云って、電卓を示した。
「もっと寒くなったら、ストーブも買わなくちゃね…。」
世樹子は云った。
「他にも買い揃えなきゃいけない電気製品が、沢山有るし…。」
店員は迷いながら、「此れ以上は、絶対無理です。」と云って、電卓を押し直した。
私と世樹子は電卓を覗き込んだ。
「じゃあ、もう2、3軒廻ってみましょうか…。」
そう云って世樹子は、私の腕を取った。
「ああ…、待って下さい。
解りました…。
もう彼女には敵わないなぁ…。」
店員は再び電卓を押し、端数を切り捨てた。
私はナショナルの赤外線ホーム・ゴタツ「だんらん」を購入した。

 購入した途端、どうしても其の夜の内にコタツに入りたい気持ちが込み上げて来て、私は店員に「持って帰ります。」と云った。
私がコタツの入ったダンボールを、世樹子がコタツ板の入った其れを持って、二人は電車に乗り、秋葉原を後にした。
「さて…、沼袋からなら、さして歩く事は無いが、こんな物を持って新宿駅を歩いたり、混み合う山手線に乗るのは気が引けるなぁ…。
かと云って、中野駅からだと重い荷を抱えた儘、長い距離を歩かねばならない…。」
私は云った。
「私はどっちでも構わないわよ。」
結局、我々は中野駅から帰る事にした。

 「鉄兵君…。」
中野通りから一方通行の路へ入って暫く歩いた処で、後ろの世樹子が苦しそうな声を出した。
「よし、少し休もう。」
二人はダンボールの箱を置くと、其の場にしゃがみ込んだ。
「疲れたろう。
御免ね。俺が持って帰るなんて、とんでも無い事を云い出したばっかりに…。」
「もう腕は痺れて、脚はヘトヘト…。
でも、私も早くコタツに入りたいわ…。」
「コタツは好いよな…。
冬はコタツが最高だよ。
そしてコタツには、ミカンがよく似合う…。」
「好いわねぇ…。
早く帰ってコタツを敷きましょう。」
二人は再び歩き出した。
緩やかな坂道を下って、自動車修理工場の横を通り過ぎた。
私は世樹子に合わせてゆっくり歩いたが、ふと視ると、彼女の足はジグザグに踏み出ていた。
「もう少しだから、其れもこっちに貸しな。」
私は云った。
「いいえ…。
大丈夫よ…。」
「女の子は無理に重い物を持つと、足首が太くなるんだぜ。
現に、君の脚は…。」
「はい、お願い。」
そう云って世樹子はコタツ板の入ったダンボールを、投げる様に私に手渡した。
私は2、3歩フラつきながら、其れを受け取った。
三栄荘は、もう直ぐであった。

 三栄荘に到着すると、部屋に荷物を置いて、休む間も無く二人は西友へ出掛けた。
西友の2階でコタツ布団を買い、我々は胸をときめかせながら部屋へ戻った。
櫓ゴタツを組み立て、布団を被せて、コタツ板を載せ、コンセントにプラグを差し込んだ。
コタツ布団がほんのり赤く染まった。さっそく二人は脚を温めた。
「至上の幸福を感じる…。」
私はコタツ板に頬擦りをしながら云った。
其の日から、私の部屋の中央にはガラス・テーブルに替わって、櫓ゴタツが据えられる事となった。

 暫くして、柳沢が帰って来た。
「おぉ…、此れは…。」
部屋に入ると、彼は其の場に立ち尽した。
「いつからなんだ…?」
布団に脚を入れながら、柳沢は訊いた。
「さっきからだ。
お前、おとついも帰らなかったのか?」
「ああ…。
学祭の準備に忙しくてな。」
「お前、学祭の間、群馬に帰る積もりなんだろ?」
「うん、其の積もりだ。
だから準備を確り手伝って置いて、帰り易くするんだ。
いやぁ、然し、鉄兵は偉いなぁ…。
本当によくコタツを買って呉れた。
冬はコタツに限るものなぁ…。
割勘で買う事を提案しようと思ってたんだ。」
「今からでも遅くないぜ。
どうせお前、夜眠くなる迄、此のコタツに当たってる積もりなんだろうから。」
「ああ、当然だ。
でも此処は、鉄兵の好意に素直に甘えよう。
鉄兵は偉いなぁ…。
鉄兵の御蔭で素敵な冬が過ごせそうだ。
テレビに、コタツに、後ミカンが有れば申し分ない…。
そう云えば、ミカンが見当たらないが…、どうして序でに買って来なかったの?」
「…。」
「二人共、同じ様な感性をしてるのね。気が合う筈だわ…。」

 続いて香織が遣って来た。
「まあ、どうしたの…?」
香織は云った。
「どうしたって、買ったのさ。
盗って来た理由じゃないぜ。」
「…そう。暫く来ない内に、此の部屋もすっかり落ち着いちゃったわね。」
「本当…。
最初は何も無くて、唯広い許だった事を考えると、まるで別の部屋の様ね。」
「狭くなったんじゃない?」
「うん、10人で宴会をする事は、困難になったな。
でも、コタツは何物にも替えられない…。」
香織と世樹子は夕食の支度を始めた。其の夜はシチューであった。

 「コタツに入ってシチューなんて食べると、何かもう冬が来たって感じがするな…。」
食べ終わって、私は云った。
後片付けが済んで、4人でコタツに入りテレビを視た。
「ねえ、コタツ少し熱くない?」
私は訊いた。
「いいえ、平気よ。」
「熱いよ。
なあ、柳沢?」
「うん。足を火傷しそうだ。」
「そうだろう。
よし…。」
そう云うと、私は布団の下へ顔を入れた。
ダイヤルは初めから小になっていた。
「…切り替えは、柳沢の処だ。」
布団の中から顔を出して、私は云った。
「おお、そうか…。」
今度は柳沢がコタツの下へ潜り込んだ。
「…鉄兵、此れ、どっちへ廻すんだ?」
布団の中から、柳沢の籠もった声が聴こえた。
「どれどれ…。」
私は再びコタツの下へ顔を入れた。
そして私と柳沢は、其の儘コタツの中で首を寄せ合っていた。
「あなた達、いい加減にし為さいよ。」
香織が云った。
小さな悲鳴を上げて、世樹子が布団から跳び出た。
私と柳沢は外へ出て、又脚を入れた。
「そんな見え透いた真似をしなくても、ちゃんと頭を下げて頼めば、見せて挙げなくも無いわよ。」
香織が云った。
「其れは有り難いお言葉だが…。」
「俺達としては、コタツの中の赤い光の中で、覗き視ると言うのが最高に好いんだよ。」
「そう、何て言うか…、情緒が有ると言うか…。」
「そんなの知らないわ。
もう…。」
世樹子は口を尖らせた。

 時刻は間も無く、午後10時になろうとしていた。
「世樹子も映るんだろ?」
「私は映らないわよ。」
「でも、応援にスタジオへは行ったんだろ?」
「ええ…。」
「なら、映るかも知れない。」
「映らないと思うわ。
多分…。
だって、大勢で行ったんですもの。」
「始まったわよ。」
4人は一斉にブラウン管に注目した。

 ヒロ子は「アイアイ・ゲーム」と言うテレビ番組に出演し、其の夜が放送予定になっていた。
画面に映った彼女の顔は、普段より丸く見えた。
応援席も何度か映し出された。
「え…? 
本当…?」
私は云った。
柳沢と香織は、確かに世樹子が映ったと云った。
世樹子は理恵の隣に坐っていたと言う事だった。
再び画面が応援席に切り換わった時、私は懸命に世樹子を捜した。
笑っている理恵が見えた。
私は急いで視線を隣へ移した。
其の瞬間、画面は司会者の方へ切り換わってしまった。
長い黒髪だけが見えた。
多分、其れが世樹子だったのであろうと思われた。


                            〈五二、炬燵の中〉





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Last updated  2007年11月08日 20時22分53秒
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