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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月21日
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   59. ホワイト・クリスマス


 「実はフー子ちゃんには、得意な料理が1つ有るのよね。」
世樹子は云った。
「勿論、他の料理もみんなハイ・レベルなんだけど、此れは特にって云う、スペシャル・メニューが…。」
「あ、駄目よ世樹子、云っちゃあ。」
「どうして?」
「何だい? 
世樹子、早く云い給え。」
「駄目だってば。」
「あのね…、親子丼なの。」
私と柳沢は一瞬、顔を見合わせた。
「好いわよ。
笑い為さいよ。」
フー子は云った。
「どうして笑うの?」
世樹子は不思議そうに云った。
「そうだ。
何処に笑う理由が有るんだ?」
「じゃあ、今の一瞬の間は何よ?」
「否、唯、意外な名が出て来たから…。」
「フー子ちゃんはね、親子丼作るの、凄く上手いのよ。」
「あれって確か、底の浅い皿みたいな鍋で作ると上手く出来るんだよな。」
「実は俺、親子丼には眼が無いんだ。」
「そう云えば鉄兵君、ああ言う玉子丼みたいなの、好きなのよね。」
「そんなに美味いのか…。」
「私の親子丼は天下一品よ。」
「君の親子丼が食べたい…。」
「そう来ると思ったわよ。
今夜は材料が無いから、今度ね。」
「作って呉れるの?」
「ええ。
鉄兵がとっても好きらしいし…。」
「今度じゃ、厭だ。
日時も約束して呉れ…。」
「今度のいつでも好いわよ。」
「明日は?」
「明日? 
又偉く急ね…。
明日は駄目よ、バイトが有るもの。
そんなに急かさないでよ。
何か精神的圧迫を感じるじゃない。
のんびり待っててよ。
其の方が作り易いわ。」
「フー子の親子丼が食べたい…。」
私は慈悲を求める眼をして云った。
「解ったわよ…。
じゃあ、1週間後位にしてよ。」
「来週の今日、10日木曜日。」
「OK。
好いわ。」
「万歳!」
「一寸…、私、確かに親子丼には自信有るけど、余り期待を寄せ過ぎちゃ厭よ。
作って挙げないからね。」
「はい、女将さん。」
「…あなた達の一人暮らしには、矢っ張り意味有ったみたいね。」

 私と世樹子と柳沢の3人は、三栄荘へ戻って来た。
柳沢は早々に自分の部屋へ引き揚げた。
「もう直ぐクリスマスね…。」
私が布団を敷こうかどうしようか迷っていた時、世樹子はぽつりと云った。
「もう直ぐじゃないだろう。
未だ3週間も有る。
此の前もそんな事云ってたけど、君達は本当に気が早いな。
そんなにクリスマスが好きかい?」
「女の子はみんな、クリスマス好きなんじゃない? 
ホワイト・クリスマスなんて、とってもロマンチックだと思うな。」
「東京では、ホワイト・クリスマスなんて有り得ないだろう。」
「そうよねぇ、矢っ張り無理よね。
クリスマスに雪が降りっこ無いもの…。」
「無理だよ。
でも有り得ないから、ロマンチックに思うのかも知れないぜ?」
「そうね。
東京のクリスマスって、どんなかしら…?」
「雪は降らんだろうが、急度寒いんじゃない?」
「でも矢っ張り、雪降って欲しいわ。」
「…そんなに降って欲しいのかい?」
「私、憧れてるのよ。
ホワイト・クリスマスに…。」
「よし、じゃあ、俺が降らせて挙げよう。
君の為に。」
「本当?」
「ああ、約束は守る。」
「どうせ、柳沢君と屋根へ上がって紙吹雪でも降らせようと考えてるんでしょ?」
「あれ…、どうして解ったの…?」
「鉄兵君の考える事は、もう、よく解ってしまうのよ。
でも、嬉しいわ。
絶対よ、約束してね。」
「うん。
今年のクリスマスには、必ず雪が降る。俺が降らせる…。」

 12月は学生も忙しい。
冬物の服は値段が張るので、財布が寂しくなっている処へ向けて、やたらパーティーやイベントが企画される。
アルバイトとコンパに追われるのが、通常であった。
更に男性軍には、クリスマス・プレゼントと言う、選りに選って此の時期を選ばずとも良いものをと、我々を嘆かせる代物が課せられた。

 そして12月7日は遣って来た。
其れは大いなる転機の日であったのだが、私は風が変わったとは感じなかった。
唯、慌ただしさの中に居た所為で、気付かなかったのかも知れなかった。

 朝、私は英語の試験を受ける為に、確り起きて、沼袋駅へ歩いていた。
踏切りの向こうを、女が一人歩いて行くのが見えた。
私は近付いて声を掛けようとした。
「あら、鉄兵君。
久しぶり…。」
私に気付いて、和代は云った。
「本当、久しぶりね。
元気…?」
「まあね。
君は?」
「どうかしら…。
一応、生きてはいるわ。」
和代の顔を視て、やつれたなと私は思った。

 「此の頃、随分お酒に強くなったのよ。
もう鉄兵君なんかと一緒に呑んでも、互角に渡り合えるわ、急度…。」
電車の中で和代は云った。
「毎晩呑んでるのかい?」
彼女の肌は日に焼けたのかと思う位、以前より土色がかって見えた。
「ええ、毎晩よ。
街へ出る事も有るけど、普段は学館の部室でみんなで呑むの。
外へ出ると、いつも正門は閉まってるわ。
キャンパスの屏を乗り越えて帰るのよ。」
和代の噂を私は聴いていた。
彼女は同じサークルに所属する男と付き合い始め、其の男は熱心な活動家であった。
そして直ぐに彼女も其方らの方へ傾倒して行った。
「疲れないかい?」
「疲れたわ、もう…。」
彼女の表情から、彼女の荒んだ生活を充分垣間見る事が出来た。
「三栄荘のみんなは、どう? 
相変わらず…?」
「うん。相変わらず、あの調子だ。」
「そう。
前期の頃よね…。
あの頃は良かったわ…。
あれは本当に愉しかったわ、三栄荘の宴会…。
考えてみれば、今年の事なのに…。
もう何年も昔の事の様な、気がする…。」

 和代は市ヶ谷の駅が嫌いだと云い、我々は飯田橋で降りて、一緒に歩いた。
「どうして市ヶ谷から歩くのは厭なんだい?」
私は訊いてみた。
「こっちの方が景色が好いじゃない。
其れに、あの駅にはやたら眩しい恰好の女の子が多いから…。」
「大妻の連中だろ?」
「ええ。
何か彼女達を視てると、腹が立って来るのよね…。」
「解るよ…。」
彼女は実に学生らしい、女子学生である様な気がした。
其れは昔から有って今も猶、本当は変わる筈の無いものである、そんな気もした。
正門が眼の前に近付いた。
「あの後、柳沢なんか『和代ちゃんは、もう来ないのか?』ってずっと煩かったんだぜ。」
「そう…? 
柳沢君か…、懐かしいわね。
ああ…、もう一度、三栄荘に行ってみたいわ。」
「俺達が彼処に居る限り、君はいつでも来れば良い。」
「有り難う…。」
そう云った和代の横顔に、私は彼女の慢性的な哀しみを視た。
唯、彼女は疲れ過ぎている様子だった。
我々はキャンパスの中程迄、一緒に歩いた。
「成田へは行くの?」
別れ際に私は訊いた。
「ええ。
鉄兵君、行った事有る?」
和代は振り返って云った。
「まさか。」
「今度、一緒に来れば?」
「…まあ、止しとくよ。」
私は笑いながら云った。
「そうね…。
じゃあ又ね、今朝は逢えて嬉しかったわ。」
和代は笑顔で手を振ると、学生会館の方へ歩いて行った。
私は試験を受けるべく、教室へ向かった。

 午後から、クラスの仲間達はバイトだ何やかだと云って帰って行った。
私は1人でサークルの溜まり場へ行ってみた。
先輩連中の他に千絵が居た。
「よっ、久しぶり。」
私は千絵に云った。
「本当、昨日以来ね。」
彼女は教科書らしき書物を閉じながら云った。
「ねえ、鉄兵君、コピーに付き合ってよ。
約束してたのに美穂ちゃんたら、来ないのよ。」
私は千絵と2人で溜まり場を離れた。
其の時期になると、大学の中や其の周辺の至る所に臨時のコピー機が設置された。
構内のコピー機が何処も混んでいる様だったので、私と千絵は外の喫茶店に置いてあるコピー機を使う為にキャンパスを出た。
「ねえ、私達、知り合ってから9ヶ月目だけど、2人限で歩くのって初めてね。」
千絵が云った。
「そうだっけ…?」
「そうよ、不思議な気がしない?」
「そう云われれば…。」
「美穂ちゃんとは、沢山2人っ限で歩いたでしょうけど…。」
「…。」
「ねえ、鉄兵君、知ってた?」
千絵は外濠の方を見詰めながら、云った。
「私、知り合った頃からずっと、あなたの事が好きだったのよ。
知らなかったでしょ…?」
私は彼女の気持ちを、初めからずっと知っていた。
「あなたは美穂ちゃんに夢中だったものね。
彼女もあなたに夢中だったし…。
あなたが私と彼女をディスコへ連れて行って呉れた時の事、覚えてる…? 
あなたは美穂ちゃんとチークを踊ったわ。
御免なさい…、気にしないでね…。
私はずっと、自分はあなたに相応しく無い女だって、自分に云い聴かせて…。」
千絵の告白に、私は然程愕かなかった。
だが矢張り、私は何も、彼女に応えて遣る事が出来なかった。


                         〈五九、ホワイト・クリスマス〉





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Last updated  2007年11月08日 15時25分16秒
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