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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月22日
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   61. 親子丼とミステリー


 我々が東京タワーを遠ざかった頃から、雨は次第に上がり始めていた。
店の硝子窓は曇っていて、雨が完全に止んだのかどうかは解らなかった。
未だ、沈黙は続いていた。
私の一言で突然皆黙ってしまい、テーブルは不穏な空気に包まれた。
私は直ぐに、
「あれ? 
みんな、どうしちゃったの…?」
と云ってみたが、全くフォローを成してなかった。
ノブは唯愕いて、皆の表情を直接見ない様にテーブルの真ん中辺りを見詰めていた。
世樹子は下を向いていた。
フー子は焦げてしまった自分の髪を、指で眼の前へ引っ張って視ていた。
ヒロ子は窓の外を眺めていた。
気の遠くなりそうな重い時間が流れた。
「私、いっそ短く斬っちゃおうかしら…?」
フー子が云った。
「本当…? 
よく考えてからにしないと、斬った後、伸びる迄憂鬱で仕方無いって事になるわよ。」
ヒロ子が振り返って云った。

 地下鉄の中で、彼女達はノブとヒロ子が飯野荘へ泊まる事を話していた。
午後10時頃、我々は中野へ帰って来た。
私はノブと並んで他の3人より少し前を歩いた。
「俺は君を見損なっていたらしい…。」
私は云った。
「今夜の君は凄く綺麗に、大人っぽく見えたよ。」
本当であった。
「有り難う。」
ノブは微笑みながら云った。
「実は化粧を濃くしてみたのよ、今夜は…。
だから、急度化粧の所為よ。」
私はノブの顔を見詰めた。
確かにファンデーションと頬紅が少し濃く、口紅の色も派手目であった。
然しマスカラはしてなく、アイ・ラインとシャドウも普段通りの音無しいものだった。
にも拘わらず彼女の目許は、いつもより何倍も輝いて見えた。
私は云った。
「否、違うよ。
俺は化粧に騙される様な男じゃない。
君は変わったよ。
随分、美しくなった…。」
ノブは恥かしそうに私から視線を外して、前を向いた。
「嬉しいけど…、余り褒めてると又、世樹子ちゃんに怒られるわよ。」
「え…? 
…そうだな。」
我々は中野通りが右に折れる、大きなポスター看板の前迄遣って来た。
飯野荘へ行くには、其処から中野通りを横切って西へ歩かねばならなかった。
「そう云えば、柳沢に酒を用意して置くから君等を誘う様、言付かってたんだ。」
私は云った。
「あら、本当…?」
ヒロ子は気を持った風に云った。
然し、「じゃあ、おやすみなさい。」と云って、世樹子とヒロ子とノブの3人は横断歩道を渡って、あっさり行ってしまった。
残ったフー子と私も歩き始めた。
「フー子、君はどうする?」
「今夜は真っ直ぐ帰るわ。」
「そう。
じゃ、送ってくよ。」
「有り難…。」
雨はすっかり上がり、空は晴れている様だった。
私はフー子が自分の部屋に入ってしまう迄に、彼女から出来得る限り沢山の世樹子に関する情報を聴き出さなければならなかった。
「明日は楽しみにしてるよ。」
私は云った。
「ああ…、明日ね。
矢っ張り、作らなきゃいけないかしら…。」
フー子は唇に人差し指を当てながら云った。
「何だ、厭になってしまったのかい?」
「そうじゃないけど…。」
「無理に作らせようとして悪いのは解ってるけど、唯君の優しさに縋り付いていたかったのに…。」
「解ってるわよ。
ちゃんと作ります。
7時頃で好いかしら?」
あっと云う間に彼女のアパートの前へ来てしまった。
「御免ね。」
私は云った。
「何? 
親子丼の事、真面目に気にしてるの?」
私は頷いた。
「いいのよ。
本当は私も明日が楽しみよ。
何か鉄兵らしく無いわね…。」
私は訴える様に彼女の瞳を見詰めた。
彼女は笑顔の他には何も見せず、
「送って呉れて有り難う、おやすみなさい。」
と云うと、階段を上って行った。
私は煙草に火を点けると、三栄荘へ向かった。
結局、フー子の様子からは何の感触も得られなかった。
愛を手放すには、夜はもう寒過ぎる様に思えた。

 次の日も、私の頭は世樹子の事に占領されていた。
私は彼女の悪意がかった行動が、ジェラシーに因るものだと想像していた。
其れならば、彼女の気持ちが冷めてしまってる理由では無いと、結論出来た。
私と逢うのを止そうと彼女が決めた理由は、矢張りあの児童公園の出来事に有ると考えるのが一番妥当の様だった。
唯、あれ程限り無く優しかった女の心が、荒んでしまった事が哀しかった。
私は彼女を救いたいと思った。
そして、愛を取り戻したかった。

 体育の授業の後、クラスの連中に付き合っていた為、私が中野に帰って来たのは午後8時頃だった。
三栄荘の階段を上って、私の部屋のドアを開けると、柳沢が1人で親子丼を食べていた。
「あれ? 
フー子は?」
私は訊いた。
「ああ、作ってから、さっさと帰ったぜ。」
柳沢は答えた。
「帰った…? 
どうして…?」
「さあ…? 
何か用事が有るとか云ってた。」
「そうか…。」
私はコタツ板の上に置かれた、もう1つの丼の蓋を開けてみた。
「ごちそうさま。」と云って、柳沢は箸を空の丼の上に置いた。
「お前が帰って来るのをずっと待ってたんだけど、随分遅いから先に食っちまったぜ。」
「ああ、済まん…。」
そう云って私は、殆ど冷め掛けた親子丼を食べ始めた。

 私が食べ終わって暫くすると、ドアをノックする音が聴こえた。
開けるとフー子だった。
「食べた…?」
「うん、とても美味しかったよ。」
「そう、良かった。
食器を回収に来たのよ。」
「今、洗いに行こうと思ってたんだ。
いいよ、自分で洗って…。」
然しフー子は「片付ける迄が、作って挙げるって事なのよ。」と云い、さっさと丼を持って、下へ降りて行った。
「何と、至れり尽せりだな…。」
柳沢が云った。

 フー子は手ぶらで戻って来た。
「丼は?」
私は訊いた。
「下へ置いて来たわ。
後、帰りに持って行くから…。」
コタツ板の上を拭きながら、彼女は云った。
「用事は済んだの?」
「え…? 
ああ、卒業製作の事で友達に訊きたい事が有ったから、電話する約束だったの。
もう終わったわ。」
「そう。じゃあ、少し坐って行きなよ。
作らせるだけで帰しては悪いから…。」
「ええ、其の積もりよ。」
フー子はコタツの中に膝を入れた。

 「鉄兵、世樹子をもっと大事にしなきゃ駄目よ。
あんな良い娘は、滅多に居やしないわ。」
柳沢がトイレに立った時、フー子はそう云った。
私は全身を緊張させた。
「ああ、解ってる。
然し、君等の演技力には全く感心させられたよ。」
「何の事よ。
とにかく、世樹子を泣かせたりしたら承知しなくてよ。
其れで、香織には未だ何も云ってないの…?」
私は茫然とフー子を見詰めた。
フー子は少し愕いた様に見詰め返した。
「どうしたの…? 
別に口出しする積もりは無いのよ。
唯、世樹子を…、鉄兵君?」
私は心の中で泡を食っていた。
(何と言う事だ…。
まさかとは思ったが…、フー子は何も知らない…。
ヒロ子は…? 
恐らく彼女もそうだろう…。
ならば、ゆうべ、私と世樹子以外の者は、ノブもフー子もヒロ子も、何も知ってはいなかったのだ…。
世樹子は誰にも話をしていない…。
一体…。)
「一体、どうしたんだ?」
部屋に戻った柳沢が云った。
「鉄兵ったら、少し変なのよ。」
「鉄兵が変…? 
親子丼に当たったのかな?」
「まあ…! 
今夜のは全部、新しい材料をわざわざ買って来て作ったのよ。」
私は何とか平常を装おうとしたが、表情が引き吊る許であった。
フー子はやや心配そうな顔付きになって、「世樹子と何か有ったの?」と、眼で尋ねていた。
私は煙草に火を点けると、心を決めて彼等に、1週間前、野方の児童公園で起こった事について語り始めた。

 「そんな事が有ったの。
知らなかったわ…。」
フー子は云った。
「でも心配要らないと思うわよ。
世樹子も其れ位の事は、覚悟してた筈よ。」
「本当に久保田には見付からなかったんだろ? 
なら、何も問題は無い。」
柳沢も云った。
私はもう一度、よく整理し直して考えてみた。
児童公園で香織と擦れ違ったのは、12月2日の夜であった。
そして世樹子が受話器の向こうで変わってしまってたのは、12月7日の夕刻だった。
又、12月3日の夜に、私は世樹子と逢っていた。
(そうだ…、あの夜、世樹子は俺の部屋に泊まって行ったではないか。
彼女に変わった様子等、別に無かった。
とすると、4日から7日の間に、彼女の気持ちは変化を来たしたのだろうか? 
其れならば、児童公園の事は何の関係も無いのか? 
然し、1日2日置いてから、彼女の中で困惑が生じたとも考えられる…。)
私は12月7日の事は、つまり世樹子が私を避け始めている事は、話さないで置いた。
「フー子、君は本当に世樹子から、何も聴いてないのかい?」
私は改めて尋ねてみた。
「ええ、何も聴いてないわよ。
信用してよ…。」
「お前、若しかして、今、世樹子と旨く行ってないのか?」
柳沢が云った。
私は曖昧な返事をした。
「まあ、彼女はお前を愛してるんだから、何も気に病む事は無いと思うな…。」
不意に私は、私の全く知らない何かが起こっているのではないか、と言う気がした。
私は早急に2人限で世樹子に逢わなければならないと思った。


                         〈六一、親子丼とミステリー〉





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Last updated  2007年11月08日 12時07分12秒
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