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悠久の唄 ~うたの聴けるブログ~

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2005年11月23日
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   63. 鉄兵の様に  ~中野ファミリー解散~


 私は眼を閉じた儘、静かに回想に耽っていた。
心は穏やかだった。
想い出の中の彼女は、いつも優しかった。
そして私は気が付いたのだ。
彼女のあの優しさは、造り物なんかでは無いと…。
私は既に、女の復讐に対する免疫を持っていた。
愛を知って、私は本当に人を信じる事の出来る人間に成長していた。
彼女の優しさは、偽りでは無かった…。
大いなる絶望の淵で、私は気が付いた。
そして、勝負に出ようと思った。
唯、敗れた時の残酷さを考えると、ぞっとした。
考えていては、迷い始めると思った。
私は勝負に出た。
「…嘘だ。」
私は微笑みながら云った。
「其れは嘘だ…。
愕きたいけど、俺には解ってしまうよ。
君が好きだから…。
でも、どうして俺なんかをフるのに、そんな嘘迄付くんだい?」
最大の賭けであった。
世樹子は表情を変えなかった。
私は優しく彼女を見詰めた。
彼女は冷め切った視線を下げて、テーブルの端の方を視ていた。
ふと彼女の唇が歪んで、何か言葉を云うのかと思った瞬間、彼女の表情が大きく崩れた。
其の瞳に突然、涙が溢れた。
世樹子はテーブルに両肘を突いたかと思うと、其の中に顔を埋め、声を上げて泣き出した。
「…私、どうしても鉄兵君が、好きなのよ…。
…でも、別れなきゃ、いけないのよ…。
…でも、好きなのよ…。」
私は勝った。
全身の緊張を解きながら、いつの間にかテーブルの端にそっとコーヒー・カップが置かれているのを知った。
泣いている世樹子を視て、もっと早い内に、彼女の演技に気付いても良かったと思った。
勧銀の前から電話を入れた後位には、解っても良い筈だった。
世樹子は前から、直ぐに泣く女であった。
別れ話のシーンで、彼女が涙を見せない筈は無かった。
私は煙草に火を点けながら、そんな事を考えていた。

 世樹子も午後の授業には出ると云い、喫茶店を出ると二人で中野駅のホームへ向かった。
「結局、香織については、どうなってるんだい?」
電車を待っている間に、私は訊いた。
「…其の事は、もういいのよ。」
世樹子は遠くを見詰めながら答えた。
風も無く、穏やかで暖かな一日だった。

 香織と世樹子の引っ越しは、中野ファミリーに決定的な動揺を与えた。
イヴの夜に予定されていたクリスマス・パーティーは、ほぼ中止になる事を皆、承知していた。
其れより中野ファミリーの存続自体、危うくなった事を、全員が胸に抱いた筈だった。
私は語学の試験に追われていた。

 12月17日の夜、私は翌日に控えた英語Bの試験の為の勉強を、部屋でしていた。
明日の試験が終われば、めでたく冬休みと言う夜であった。
其処へ、柳沢がヒロシと一緒に帰って来た。
「鉄兵、久保田の引っ越し先が解ったぜ。池袋だってさ…。」
私の部屋に入って来るなり、柳沢が云った。
「そう…。」
私は素っ気なく答えた。
「鉄兵ちゃん、勉強中かい? 
邪魔しちゃ悪いかな…。」
ヒロシはウィスキーのボトルを抱いた儘云った。
「否、もう止めてしまおうと思ってたとこさ。
どの道、今夜勉強しようがすまいが、明日の試験の出来に影響は無い…。」
そう云って、私は教科書を部屋の隅に投げ出した。

 「全く、酷い話だ。
フー子も、もう三栄荘には来ないって云い出してんだぜ。」
柳沢は紅い顔をして、吐き捨てる様に云った。
「洗濯機も俺達が払った金額を渡すから、買い取らせて欲しいってさ。」
「矢っぱ、久保田に遠慮してるのかな…?」
2杯目が少なくなった私のグラスに酒を注いで呉れながら、ヒロシが云った。
「いいや、あの口調は、もう俺達には飽きてしまったって感じだったぜ。」
「ヒロ子やノブは、どう云ってる?」
私は訊いた。
「逢ってないから解らないけど、ノブは駄目だろう。
完全に久保田の息が掛かってるもの。
ヒロ子も他の女がみんな、そっぽを向いてるのに、1人で来て呉れる事は考え難いな…。」
「愈々中野ファミリーも崩壊か…。
随分あっけ無かったな。」
「…俺、ヒロ子とノブに逢って、説得してみるよ。
今度は彼女等にメインになって貰えば好い。
二人が来れば、世樹子も首を縦に振るだろう。」
私は云った。
「鉄兵ちゃん、世樹子とはもう個人的に付き合った方が好いよ。
ファミリーとは別にさ。」
「そうだな…、其の方が好い。
何と云っても今度の事では、世樹子が一番可哀相だものな。」
柳沢が云った。
「否、そうは行かない。
行かせてなるもんか…。
大体、香織1人の所為でファミリーを解散するなんて、俺は絶対に許さないよ。
必ず阻止して見せる。」
私は、そうは云ったが、ヒロ子とノブを口説く自信が、其れ程有る理由では無かった。
寧ろ世樹子の為には、ファミリーを解散した方が好いと思っていた。

 柳沢もヒロシも最後には、「中野ファミリーは諦めよう。」と、そう云った。
手料理を諦めれば済む事だと言う風に話は纏まった。
私は解散式を行う事を提案した。
其処で彼女達に、どうしても一泡吹かせてやりたいと云った。
柳沢とヒロシは「来て呉れるだろうか?」と、首を傾げた。
私は、責任を持って彼女等全員を集める、と云った。
日時は次の日曜の夜と決まった。
一年を締め括るには格好のパーティーだと、柳沢は云った。

 「今更謝っても、仕方の無い事だが…、済まないと思ってるんだ。
俺1人の個人プレーの所為で、折角ここ迄盛り上がったチームを潰してしまって…。」
私は静かに云った。
「何だい、急に…。」
柳沢は云った。
「誰もそんな事、思っちゃいないさ。
潰れてしまったのは、寧ろ俺達の力が足らなかった所為だよ。
大体此のファミリーは、鉄兵1人の力で成り立った様なものだ。
俺達も、もっとパワーを出せていれば良かったんだ。
俺達にも、お前位のパワーが有れば、急度こんな事にはならなかった筈さ。」
「そうだよ。
鉄兵ちゃんが居なかったら、中野ファミリーは存在して無かったよ。
本当、鉄兵ちゃんは凄いよ。
俺も出来れば、鉄兵ちゃんの様に成りたい。
鉄兵ちゃんは、俺の目標だ…。
ずっと手の届かない女だと思ってた世樹子だって、鉄兵ちゃんはいとも簡単に、好きにさせてしまうんだもの…。
いつか急度、俺も鉄兵ちゃんの様に成りたいんだよ。」
「おいおい、一寸待てよ。
気を使って呉れてるのは解るけど…、俺は唯、運が良かったに過ぎないさ。
女にフラれた事なんて星の数程有るぜ、俺は。
中野へ来てからは、付いてただけなんだ。
其れに、フー子はお前等二人のどちらかに惚れてると、俺はずっと睨んでんだぜ。」
「否、フー子もお前に惚れてるよ…。」
柳沢は云った。
「フー子も鉄兵の事が好きなんだよ、急度…。
唯、彼女は香織や世樹子と違って、今立って居る処から翔ぶ事を中々出来ない性格なのさ。
俺には解るんだ、何と無く…。
フー子は結構気の強そうに見えるけど、実は三人の中で一番臆病なんだと、俺は思う…。」

 其の年の冬は割合に暖かだった。
12月の半ばを過ぎても、冷え込む日は少なく、過ごし易い日々が続いた。
然し、中野の空には、依然暗雲が立ち込めた儘であった。
私は、世樹子をあの様な行動に駆り立てた、其の本当の理由を突き止めなければ、ならなかった。
私の知らない処で、何かが起こってしまったのだと、私は考えていた。
其の事はもう、間違い無かった。

 そして、解散式の日、12月20日は遣って来た。
結局、集まったのは、フー子と世樹子と香織の3人だけであった。
外が薄暗くなった頃、ヒロシを私の部屋に残して、柳沢と2人で酒の買い出しに行き、再び部屋へ戻った時には、女達は既に遣って来ていた。

 「其れにしても解散パーティーだなんて、あなた達って最後迄、宴会の名目をよく考えるわね。
ほんと陽気って云うか、めでたいって云うか…。」
皆のグラスに氷が入れられている時、香織は云った。
「唯、けじめを着けたいだけさ。
ところで、今夜は差し入れの摘みが、何処にも見当たらない様だが…、何処に隠してるの?」
柳沢はボトルのキャップを開いて、グラスに酒を注ぎながら、部屋を見回した。
「まさか…。」
「私達が何か作って来るのを、充てにしてた理由?」
「否…、何も無いの…?」
「本当、最後迄めでたい人達ね…。」
「俺、行って、直ぐ買って来るよ。」
そう云うなり、ヒロシは部屋を駆け出て行った。

 「そうか…、最後の手料理の期待も、水泡に帰したか…。」
柳沢は呟く様に云った。
「結局、私達って手料理だけが目的で、此処へ呼ばれてたのね。」
「其れは違う。」
「いいのよ…。其の位の価値しか無い、其の程度の女と見られてたって事よ…。」
「当たり前だろ。
他に何か有るとでも、思ってたのかい? 
君等は唯の、飯炊き女さ。」
突然、私は云い放った。
女達は、一瞬動作を止めた。
柳沢も、愕いた様に私を振り返った。
私の表情から、皆は私の言葉が冗談では無い事を、読み取った筈だった。
パーティーは乾杯の前から、荒れ模様となった。
「そう…、まあ最後に良い事を聴いたわ…。」
香織が云った。
「酷いわ、鉄兵。
どう言う積もりよ。」
フー子は怒りを顕にして云った。
「冗談にしても、酷過ぎるわ。
私、許せなくてよ。
今の言葉、取り消してよ。」
「此の人は、冗談でも本気で云う人よ。
取り消す必要は無いわ。
大方、最後に精一杯の厭味を云ってみたか、其れとも最後だから本音が出たって処でしょう。」
其処へヒロシが戻って来た。
「あれ、俺の為に乾杯待ってて呉れたの? 
先にやって呉れてて、良かったのに。」
買い込んだ菓子や摘みを並べながら、ヒロシは云った。
「そうさ、お前を待って遣ってたんだ。
早く坐れ。」
柳沢が云った。


  【次章、最終回!】


                           〈六三、鉄兵の様に〉





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Last updated  2007年11月07日 12時22分11秒
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