大暑の連続講座 商圏クロスオーバー戦略 その4
大暑の連続講座 商圏クロスオーバー戦略 その4~会報『四方よし通信』2016年1月号より1 商圏クロスオーバー戦略1-3 商品のクロスオーバー性 料理には、人を“グルメの旅”(イーターテイメントかさないかさEat×Entertaiment)に誘う魅力があります。これが、商品による商圏のクロスオーバーです。商品のクロスオーバー性とは、その店や料理を目当てに、お客様にわざわざ旅をさせてしまう性質です。人を移動させやすい商品特性を持っているものの代表例はパンでしょう。パンというのは、毎日の朝食の食卓に欠かせない一品で、マニアが結構おり、また、持ち歩きがしやすいことから、商品のクロスオーバー性が高いアイテムのひとつです。 蕎麦やラーメンも商品のクロスオーバー性が高い商材と言えるでしょう。蕎麦やラーメンにあるのが、その店の商品の個性(独自性、ユニークさ、ローカル性)と技術の存在です。商品の奥行や革新の可能性(アレンジの許容度の広さ)が内在し、ローカル性が高く旅行と連動しやすい商材は、お客様を移動させることが出来るのです。 例えば、蕎麦は気軽な立ち食いそばのような業態もありますが、蕎麦打ちの高い技術(奥行の深さ)や『平沼田中屋』の“きざみ鴨せいろ”のような今までにないアレンジ(革新)によって、お客さんを引っ張ることが出来ます。商品の個性の強さは、たまたま目の前を通りかかった足元商圏の顧客獲得から始まり、次第に評判によって行列をなし、遠方からお客様を呼ぶのです。足元商圏の評判から始まった一時の繁盛であっても、しっかり勉強と実践をして顧客に応えれば、最終的に長期的な繁栄のきっかけになる可能性があるのです。 商圏をクロスオーバーさせるために重要なのが、取扱商品自体の特性です。その商材によって、遠くから呼べる、遠くから呼べないかが変わります。わざわざ食べに行くようなものでもない場合は、それなりの集積や人の流れがある裏路地ぐらいまででないと成り立ちません。ただし、それなりの集積や人の流れがあるロケーション、あるいは車で移動する環境で導線の中、あるいは近くに店付けができれば、2階以上の空中階でも成り立つわけです。 例えば、カレーは、提供されたカレーの性質が気軽感、スピード感などが関係しているのか、あるいは家庭の味というイメージが強く“非日常感”が出ないためか、目の前、近くの手短な場面で食べてしまう要素があり、わざわざ遠くに食べに行くという目的性は低いものです。しかし、「ついで」があれば強いのです。例えば、七里ガ浜の『珊瑚礁』ですが、『珊瑚礁』に行くというよりは江の島や鎌倉などのドライブとの関連付けでのベストな選択肢のひとつというのが大きな要素になっているものと考えられます。『珊瑚礁』でさえこのようなロケーションが必要なので、カレーだけではそんなに遠方からお客様を引っ張るのは難しい商品特性があると言えるでしょう。 逆に、お客様を移動させやすい食材もあります。例えば、ハンバーグよりもハンバーガーの方が、目的意識を起こしやすく、より裏路地や空中に導いてくれます。例えば、食べログで一番点数が高い三宮のハンバーガー屋『S.B.DINER-KOBE (エスビーダイナー コウベ)』という店があります。こちらは飲み屋街の一本入ったビルの2階にあるハンバーガーの店ですが、開店前にはお客様が行列します。分厚いパテに、ブルーチーズ、アボガドを大胆に使ったハンバーガーは迫力があります。ダブルチーズバーガーは単品で1,050円を超え、アボガドブルーチーズバーガーは単品で1,130円(2015年9月現在)です。しかし、見た目の迫力は大変あります。“驚き料”をいただくために高めの値付けをして付加価値を付けているのですが、これは二等立地だからこそ可能な手法と言えるでしょう。