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しかたのない蜜

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2008年09月23日
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テーマ:アニメ!!(3880)
カテゴリ:小説
「カレンに何をしたっ?」

「大したことはしていない。ただ”ここ”に連れてきただけだ」

 その”ここ”とはどこなのか。それを尋ねようとした時、カレンの瞼がぴくりと動いた。 C.Cが軽く顎でしゃくる。

「ほら、お前が騒ぐから起きてしまったではないか」

 C.Cの話し声がよけい意識を覚醒させたのだろう。
 カレンの瞼が大きく痙攣してからぱっちりと開く。

「ここは……?」

 寝ぼけたような表情はすぐにスザクを見て、驚愕に変わった。起き上がり、敵意をむき出しにして叫ぶ。

「スザク! それにC.C! どうして私、こんなところにいるの? もしかしてスザク、私を誘拐して……」

「違う! それは違うんだ、カレン!」

 必死に否定しても、カレンは疑いを消せないようだった。立ち上がり、腰のベルトにさしてあった銃を取り出し、その銃口を向けてくる。

 そのことが、たまらなく哀しい。
 やはりカレンにとって、自分は今憎むべき敵なのだ。

(当たり前だよな……ついさっきまで、戦ってたんだから)

 互いが互いを傷つけ、殺し合う戦場に二人はいた。

『あんたなんか、大っ嫌い!』 

 宮殿でのカレンの言葉が鈍い痛みをともなって蘇る。

 かつて、二人は互いを求め合っていた。
 しかし、それはあくまでも「ギアス」というまがいものによって作り出された愛情だったのだ。

 きっと、カレンにとってスザクとの蜜月は恥ずべき記憶でしかないのだろう。

 リフレインの件といい、幾たびもカレンを傷つけてしまった。
 その代償を償うために、カレンに殺されたい。
 けれど、ルルーシュによってかけられたギアスはまたしてもそれを許してはくれなかった。
 ギアスの力により、体は勝手にカレンの攻撃を避け、背後に回って銃を取り上げる。

 スザクに羽交い締めにされ、カレンは憎しみのおたけびを上げた、

「離せ! 離せったら! 私に触れるな、スザク!」


「僕だってそうしたいんだ。君に殺してもらいたい。けど……」

「……それって、どういう意味?」

 途端にカレンの抵抗が止まった。素直な驚きを込めた表情で振り返る。その瞳に恋人時代に見せてくれた優しさがひそんでいると感じたのは気のせいだろうか。

 膠着状態に陥った二人に、C.Cが腕組みをしてため息をついた。

「まったく世話が焼けるな。頭の固いところはルルーシュとそっくりだ」
 
 そう言って、C.Cはスザクに羽交い締めにされたままのカレンにすぅっと近づいた。

「な、何よっ?」

 ただごとではないものを感じ取ったのだろう。前に向き直ったカレンの声が尖る。

 カレンの抵抗をものとももせず、C.Cは彼女の額に手をかざした。スザクにした時と同じだった。

 途端に、カレンの体が崩れ落ちる。

 あわてて彼女を支えながら、スザクは必死に尋ねた。

「カレンに何をしたっ?」

「素直にさせてやっただけだ。日本やら、ブリタニアやらの軋轢を忘れてさせてな。目覚めた時、彼女は本当の気持ちに気づいているはずだ」

 そう言い放った後、C.Cの姿は足元から先に消えていった。
 やはり彼女は――いや、この空間は尋常な場所ではない。
 自分と、そして何よりカレンの危機を感じたスザクは消えゆくC.Cに向かって、必死に叫ぶ。

「待ってくれ! カレンをどうする気だっ? 君はどこに行くつもりだっ!」

「現実世界に戻るのさ。何かと忙しい身の上だし、あの男も私がいないといろいろいらぬ詮索や心配をするだろうからな」

 そう言ってから、上半身だけになったC.Cは意味ありげな笑みを浮かべた。

「それに私は、色道にかけてはそう鈍くないつもりだ」

「えっ?」

 ドキリ、と胸が高鳴った時。
 C.Cの姿は完全に消え、この奇妙な空間にはスザクとカレンのみが残された。そっとカレンの体を床に横たえる。体が痛まないよう、おのれが身につけていたマントをシーツ代わりにして体の下に敷いた。

 きっと目覚めたら、ブリタニアのマントになんか寝かせるなと悪態をつかれるだろうなと思った。

 私に触れるな、寝ている間に何をしたと。

 が、カレンの寝顔は二人で過ごした夜と同じく、美しくいとおしかった。



                               つづく


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最終更新日  2008年09月23日 20時26分42秒
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