恥なミッション。
『先生』と呼ばれる人が来ると、うちの会社はバタバタする。いや、基準は『先生』ではなくて、社長が思う『評価されると何らかが有利になる』という部類の人たち、である。(実際有利になるかは別。あくまで社長が思う、というところの話)さて。去年に引き続き今年も東京から、その『先生』はやって来た。去年、最初に来た時は「接待など無用です」と、持参したペットボトルのお茶を見せていたのに帰る頃には、「新幹線の中でどうぞ」とこちらが用意した3,000円程度のお弁当とお茶、それにいかにも京都土産、千枚漬けのセットを、「いやあ~、本当に申し訳ない」と言いつつ満面の笑みで受け取り、お帰りになったのだ。去年と違うのは、今回は『先生』一人。去年は二人で、確かもう一人の若い方の『先生』は「東京では買えない」と言って、滞在中に電気屋巡りをし、嬉しそうに電池を買っていた。(地震直後だった為)そんな事を思い出しながら、相変わらずわが社はバタバタしていた。まず、『先生』来るの早すぎ。うち9時始業で、9時に伺いますって言いつつ8時45分に到着。朝礼をいつもより早く行うも、作戦会議の途中に来られ、その時点でこちらはバタバタが始まった。まず、『伝説の男お使いが出来ないシャカリキ津田』に替わって、先生の大事なお弁当を買いに行かされたのは、ボブカカリチョウ。伊勢丹で、3,000円で、二段重ねのやつ!(見た目から高そう、とわかりやすいやつ)と言われていたのに、「なかったんで」と、ぱっと見た感じ1,200円っぽい小さいお弁当(中身は豪華か知らないけど)を買って帰って来て、社長にバッチバチに怒られ、その後、課長にも「勝手に判断すな!電話せえッ!」と怒鳴られていた。たぶんあれ、レディース弁当的なやつ(笑)あまりに小さいお弁当をフォローすべく、一緒にデザートとして茶菓子(先生が持ってきた和菓子)を添えるように、と社長からの司令。それを五杉さんに伝えると、「一緒に出すのも味気ないんで。終わった頃を見計らい、お出ししますので、先に昼休憩行っちゃってください」と。あのね、私、この件に関する仕事してるんですよ。行っちゃってくださいって、言われなくても行きますけどね、優先順位おかしくないですか。社長が一緒に出せっつってんだからめんどくさい事しないでさっさと出せって。別室にいる先生が食べたかどうか、いちいち気にしてどうせ仕事に支障がでるんだからやめなさいよ。と、かなりイラッとしたが、放っておいた。そしてその後、お土産に甘い和菓子を二箱(二種類)も持って来て、お昼に出したらペロリと食べた、、、「先生は甘いもの好きらしいぞ!次はケーキだ!」と、社長。それを受け、G長が五杉さんに「先生の3時のおやつにケーキを買って来て!ついでに帰りのお土産の千枚漬けも!」と言い、「横柄さんか、カカリチョウに行って貰ってください!」と反撃するも、「あいつら使えへんやん!!」と返され、仕方なく引き受けた、らしい。(五杉さん談)そして、3時。四杉さんが珈琲と共にケーキをお出しするも、「メタボがこわいので要りません」と言われ、すごすご退散。五杉さん、「帰りのペットボトルのお茶くらいは横柄さんに買って来てもらいましょうよ」と得意気に提案。もう、ほんま、どーでもええわ、と思っているのは私だけらしい。(林檎っさんはこの日は研修で不在)横柄「ペットボトル、小さい方のやね?350の、あの、500じゃない方やね?銘柄、何でもいいんやね?お茶やね?冷たいのでいいんやね?会社出たとこの自販機でもいいんやね?あ、あかん、あそこは500か!ほな、コンビニ行きますわ!ほな、行ってきま、、、あ、350やったら150円も要らんわ!あ、細かいのないか?ほな、これで!おつり出ますし!」って、五杉さんにデカイ声で話ながら出てったけど、、、どんだけ大袈裟なミッション抱えとんねん。聞いてるこっちが恥ずかしいわ!そんなこんなで、本来の仕事以外でバタバタして、とうとう先生が帰る時間となった。お弁当が入ったお土産袋を、いかにナイスタイミングで手渡すか、ということに社長はいつもこだわる。そしてこの、最後のミッションにはいつも私が指名される。社長はいつも、『もうすぐ!』とか『今だ!』とか目で合図してくるが、それはナイスタイミングでないことが多い。もう、任せておいてくれたらいいのに、と思う。社長は、自分の会話のタイミングで上手く渡したいらしい。最後の挨拶、お礼、世間話から自然に「お荷物になりますが、、、」と言い、隣にいる私がスッと差し出す、、、みたいな。で、恐縮されつつ、相手は礼を述べつつ受け取り、そのタイミングで上司全員出口へ向かい、お見送り、、、ってしたいみたい。でも、社長の話のタイミングではまだ先生の帰り支度が済んでいなかったり、荷物が多くて今渡すより出口で渡した方がいいのでは?みたいな時であったりで、社長はその都度合図を送って来るのだが、それが『待て!』であったり『もうすぐ!』であったりするので、いや、私だから読めるものの、これ、四杉さんやボブカカリチョウなら全て『今だ!』と思うよ?と、思う。とにかく忙しない。で、私はこの紙袋を渡す時に必ず「新幹線の中でどうぞ」と言うよう言われている。お土産だけだと思い、新幹線のホームでお弁当を買ってしまわれないために、だ。そして社長の合図があった。今回は荷物が少ない様なので、自分との会話の流れで渡したい、というタイミング。まだ世間話が続く中、私は自分のミッションを正確に遂げた。笑顔で「先生、新幹線の中でどうぞ」と。先生「これはこれは、いつもすいませんなぁ、、、」社長「いやぁ、先生、長旅で帰っていただかないといけませんので、、、もう、毎回、遠いとこまで来ていただきまして、、、それに、こちらこそ、お土産戴きまして、、、あの、お土産は、どちらも姫路、とありましたが、、、先生のご出身がもしかして姫路なのでしょうか?」先生「いやあ、姫路に住んでるもので。実家はどこどこのどこどこでして、、、」社長「え?、、、ひ、姫路、と言いますと、兵庫県、の、??」先生「ええ、そうです」社長「あ、引っ越しされて、お近くになられたんですなあ~」先生「いえいえ、もうかれこれ40年姫路ですよ」社長「じゃ、東京本社に通っておられるの、たいへんですなあ」先生「いえいえ、本社には年に一度くらいですかねぇ、行くのは」社長「はぁ、、、そ、そうですかあ、、、」京都から姫路まで、新快速で2時間くらい。新幹線とか乗ってないし!!お弁当とか絶対食べれないし!!ただの通勤電車やし!!私のミッション、一番恥!!