ザコＦ２の隠れ部屋

はてさて第５回です。
今回はちょっと変わったモノを取り上げたいと思います。
三島師匠と乱歩先生の相反するような２人の意外な接点の作品。
それは「黒蜥蜴」

どういうことかというと、
乱歩先生の作品である「黒蜥蜴」を三島師匠が戯曲化、
さらには三島戯曲を元に映画化もされています。
そんな関係です。
けっこう有名らしいですが、
私は戯曲を読むまで知りませんでした。


映画の方は２作品あって、私は深作監督の方を見ています。
これには三島師匠も生ける像としてカメオ出演。
動いていないのにﾉﾘﾉﾘです。
さらに黒蜥蜴役の美輪明宏さんにチスされちゃいます☆


お話は
女賊の黒蜥蜴が宝石「エジプトの涙」を狙って仕掛けてくる
様々なワナを明智探偵がかわしていくというもの。

そんな中で黒蜥蜴は明智探偵に惚れてしまうのです。
明智先生もまんざらじゃなかったり。


乱歩先生の小説では
黒蜥蜴と明智探偵の知恵を絞ったケンケンガクガク対決が中心。
三島師匠の戯曲は２人の恋模様が前面に出ているのが主な違いです。
あとはちょっと登場人物が違うだけで大体同じ。

それに戯曲は
三島式のきらびやかなダイアローグが全編に渡ってちりばめられていて、
読んでいてウットリします。


明智「君は…」
黒蜥蜴「捕まったから死ぬのではないわ」
明智「分かっている」
黒蜥蜴「あなたに何もかも聞かれたから…」
明智「真実を聞くのは一等辛かった。僕はそういうことに馴れていない」
黒蜥蜴「男の中で一等卑劣なあなた、これ以上女の心を踏みにじることは
　できないわ」
明智「すまなかった。…しかし仕方がない。あんたは女賊で、僕は探偵だ」
黒蜥蜴「でも心の世界では、あなたが泥棒で、私が探偵だったわ。
　あなたはとっくに盗んでいた。私はあなたの心を探したわ。
　探して探して探しぬいたわ。でも今やっとつかまえてみれば、
　冷たい石ころのようなものだとわかったの。
明智「僕にはわかったよ、君の心は本物の宝石、本物のダイヤだ、と」
黒蜥蜴「あなたのずるい盗み聴きで、それが分かったのね。
　でもそれを知られたら、私はおしまいだわ」
明智「しかし僕も…」
黒蜥蜴「言わないで。あなたの本物の心を見ないで死にたいから。
　…でもうれしいわ」
明智「何が…」
黒蜥蜴「うれしいわ、あなたが生きていて」
（黒蜥蜴死ぬ）
　　中略
岩瀬「一家の幸福と繁栄は、みんな明智さん、あんたのおかげだ。
　この御恩は永く忘れません」
明智「忘れて下さって結構です。あなたの御一家はますます栄え、
　次から次へと、贋物の宝石を売り買いして、この世の春を謳歌なさるでしょう。
　それで結構です。そのために私は働いたのです」
岩瀬「え？贋物の宝石だと？」
明智「ええ、本物の宝石は、（ト黒蜥蜴の屍を見下ろして）
　もう死んでしまったからです」


そういえば最近は、
読んでて文章に酔えるモノばっかり読んでいるような気がしないでもない。
だからか古典ばっかりが中心になっちゃうのかも。


乱歩先生の方は光文社から全集が出ていまして、
第９巻の「黒蜥蜴」で読むことが出来ます。
三島師匠の戯曲の方は残念ながら全集にしか収録されておらず、
文庫は無いので見ることは難しいかな。
出して欲しいんですけどねえ。