テーマ:世界史・日本史(7)
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ご存知の人もいるかと思うが2004年は日露戦争から100年目。来年は戦勝100周年。書店でも日露戦争関係の本が歴史コーナーには増えてきた。
その中でも司馬遼太郎(※1)の長編小説「坂の上の雲」(※2)はその時代を描いた代表作と言えるでしょう。密かにブームになりつつあるこの作品は2007年のNHK大河ドラマ(※3)になることが決定している。しかしながら6月27日に脚本を担当することになっていた野沢尚さんが自殺してしまった。遺書にはこの作品の継続を懇願されていたようです。NHKでは制作は続行とのことで、制作前から波乱のスタートとなってきた作品でもあるのです。 今後はこの小説を中心にシリーズで日露戦争と明治の時代を生きた日本人を考察したいと思います。この日記も大作になるかもしれません。 今回は「坂の上の雲」の概略をお話ししたいと思います。 全8巻(3089ページ)ですので途中で挫折する方もいるでしょう。そんな方は漫画の「日露戦争物語(江川達也)」(※4)から入ってみてはいかがでしょう?この漫画も現在進行中ですが既に13巻。まだしかも序盤です(笑) ◆登場人物◆ 主人公は日本陸軍騎兵の父と言われた「秋山好古(よしふる)」、日本海海戦でバルチック艦隊を破った名参謀「秋山真之(さねゆき)」の秋山兄弟、近代日本の俳句・短歌を確立した「正岡子規(まさおかしき)」(※5)の松山出身の3人。 この他に大勢の登場人物が出てきます。有名なところでは「児玉源太郎」「小村寿太郎」「乃木希典」「東郷平八郎」「広瀬武夫」「山本権兵衛」「伊藤博文」「夏目漱石」「高浜虚子」「河東碧梧桐」etc... ◆主人公達は・・・◆ 当時、最強と謳われたロシアのコサック騎兵(※6)を打ち破った秋山好古。その顔立ちはドイツ人のようであり、海外留学中も日本人とは思われなかったという精悍な男。戦闘中も酒をこよなく愛し、最前線でもふて寝を決め込む大胆さ。まさに織田信長タイプの切れ者は日本最後の古武士。本当のラストサムライは間違いなく彼でしょう。 弟は「本日天気晴朗なれども波高し」の電文で有名な秋山真之。バルチック艦隊(※7)を撃滅した名参謀。彼は作戦のことを考え始めると寝ることを忘れ、のめり込めるタイプ。連合艦隊司令長官の東郷平八郎も作戦面は完全に真之に任せていた。 この話は大将ではなくあえて作戦参謀に光を当てたところもおもしろい。 また近代日本をを知る上でこの話には我々が知らなければ行けない話が凝縮している。読んでいると、自分ももっと勉強しなければ、という思いになるほど「学ぶ」「考える」ということを重視している。当時のエリート教育の質の高さ以上に、学ぶ側の向上心の高さは見習うべきところがたくさんあり、当時の歴史を学ぶために読むのも良いが、「人間を学ぶ」ために読むのも価値がある。 ◆時代背景◆ 時代は明治初年~日清戦争~日露戦争と続く、まさに明治の激動の時代。学校の歴史ではこの時代は省かれることが多く、その教え方も「帝国主義時代の幕開け」的なまとめ方が多い。これは戦後の教育が「反戦」という側面しか教えない偏った洗脳教育によるものである。 しかしながら実際当時の流れはどうだったのだろうか。日露戦争に負けていたら今頃北海道はロシアだったはず。対馬も日本ではなかっただろう。それ以前に日本自体が今のような先進国の一員でいることはあり得なかったのは明白。そして太平洋戦争もなかったでしょう。そしてみなさんも今のような暮らしはしていなかったかもしれない。 その意味で日露戦争は太平洋戦争とは性格が全く違います。 例えて言うならば織田信長の桶狭間の戦い(※8)に当たるのが日露戦争です。まさに大国ロシアが攻めてくる状況下で、勝てるはずがない小国日本がどのような戦略をもって立ち向かったか。窮鼠(きゅうそ)猫を噛む(※9)、まさにこの状態なのです。 幕末から維新にかけて急激に西洋文明を取り入れた日本。しかしながら列強はまだまだ日本を評価しておらず、隙があれば飲み込もうと虎視眈々(こしたんたん)の状況。そんなおり、日清戦争で勝った日本は満州、朝鮮の地に於いて北の大国ロシアと衝突することに・・・。 当時の日本の常備軍は20万人。ロシアは200万人。誰が見ても喧嘩にならないこの国力。ロシアは三国干渉(※10)で遼東半島を日本から奪い、自国が清(当時の中国)から租借することで事実上の不凍港(※11)を獲得。そしてとうとう朝鮮半島まで触手を伸ばし、満州に大軍を送り込んできた。日本の運命やいかに。。。 次回からは各場面をピックアップしてコメントをしていきたいと思います。 ======================================= ●注釈の補足説明● ※1 司馬遼太郎 歴史小説といえばこの人。著書を挙げたらきりがない。NHK大河ドラマはこの人の作品がほとんど。「竜馬がゆく」「国盗り物語」「花神」etc ※2 坂の上の雲 ★「坂の上の雲」のファンサイト ★文春文庫 現在司馬作品で人気が高く、注目度No,1 ※3 大河ドラマ 2007年のスペシャル大河ドラマとして放映予定。 http://www.nhk.or.jp/matsuyama/sakanoue/ ※4 日露戦争物語(マンガ) 作:江川達也 「この漫画を描くために今まで漫画を描いてきた」という作品らしい。 現在12巻。まだ日清戦争を描いているので先は長いと思われます。真之と子規の少年時代が細かく描写されています。また原作では詳細ではない日清戦争の戦闘シーンがかなり細かく描かれています。この調子で行くと・・・いつまで続くのか(^^; ※5 正岡子規 「野球」という言葉を作ったのが正岡子規。万葉集や古今和歌集を滅多切りにしたのも正岡子規。破天荒な彼もその短い生涯の中で、自由奔放に既成概念にとらわれない斬新な作品を多く排出した。文学に興味のない人でも惹き付けられる魅力を持つ。 ※6 コサック騎兵 東ヨーロッパ各地に居住するタタール人とスラヴ人の混血民族. 逃亡した農奴が遊牧民化したもので、後に帝政ロシアの騎兵として勇名を轟かした. トルコ語で「自由な民」を意味するquzzaqがロシア語のkazakを経て英語化したもの コサックダンスが有名 ※7 バルチック艦隊 バルチック艦隊はピョートル大帝の時代から1950年代にゴルシコフ提督がソ連海軍総司令官に就任するまでの大部分の期間、ロシア海軍の主力であった。 1904~1905年の日露戦争ではバルチック艦隊から第2太平洋艦隊と第3太平洋艦隊が編成され、極東に派遣されたが、日本海海戦で壊滅してしまった。 ※8桶狭間の戦い 戦国時代史上でも有名な織田信長と今川義元の合戦。2万5千の今川軍に対し、1000~1500人ほどの織田軍が桶狭間を急襲。義元を討ち取り、一気に時代の流れを自らに引き寄せた。 ※9 窮鼠猫をかむ 「弱い者でも絶体絶命の立場に追い詰められると、往々にして強者に反撃するものだ。必死の覚悟を決めれば、弱者でも強者を苦しめることがある。」ということわざ。 この場合は鼠(ネズミ)は日本で、猫はロシアと言える。 ※10 三国干渉 1895(明治28)年4月23日 下関条約締結後、日本の遼東半島領有が朝鮮半島における自国の権益確保に不都合と考えたロシア、ドイツ、フランスの三国が、日本に清へ遼東半島を返還するよう求めた事件 5月、日本は三国の清への半島返還要求に応じる 日本と清の間で遼東半島還付条約が締結され、日本は半島返還の代償として庫平銀3000両(約4500万円)を取得する これを契機にヨーロッパ列強の本格的な中国分割が開始される 日本は「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」をスローガンに国を挙げて対露戦の準備を進めることになった ※11 不凍港 19世紀以降の帝政ロシアの歴史は、不凍港を求めた南下政策の歴史といえる。港が凍って一年中は使えない港を多く持つロシアは凍らない港が欲しかった。それが遼東半島の旅順、大連であり、朝鮮の港や対馬であった。 ************************************** お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2011年05月01日 17時26分43秒
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