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と或る神戸至上主義者の徒然日記

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2008.09.16
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今日、紹介したい作品は、青木栄一著『鉄道忌避伝説の謎』です。

鉄道の路線図を見ていると、時折、
何故このようなルートを採っているのか???
と不思議に思われることがあります。
特に、江戸時代に宿場町として栄えた街に鉄道が敷かれず
少し離れたひなびた閑村に敷かれている、という事例が
全国各地で多々見られます。

宿場町というのは、当然のことながら街道沿いにあるわけで
交通の要所として長年、機能してきた訳です。
となると“近代の街道”である鉄道がそこを通ろうとするのは、
ある意味、自然なことのように思われます。
しかしながら、実際は必ずしもそうはなっていない。
となると、何らかの事情がそこにあるはずだ…と、
後世、地方史研究家がその理由が考えられていくなかで、
『建設当時、地元民に鉄道が忌み嫌われた』
ということを、その理由と考える説が出てきました。
曰く、
“鉄道が通ると旅客が街を素通りするようになる”
“汽車の煤煙が田畑に悪影響を及ぼす”
等々の理由で、当時の“比較的拓けた地域”住民が建設に反対し、
鉄道をそこに敷く事が叶わず、やむをえず他へ迂回した。
―――ということが言われるようになった訳です。

で、この説は反対した地域は鉄道が通らない事で衰退し
鉄道が通った地域は逆にその後、繁栄するようになった

というその後の歴史と共に、当時の住民の先見の明の無さを表す
“事実”として後世に伝えられるようになったわけです。



しかしながら、この本ではそれらの説が事実に基づかない迷信であることを
各々の例を挙げて反論しています。

鉄道という乗物は、従前の人馬が往来する街道に比して、
敷設可能な場所が自然的要件によって、かなり限定されるわけで
旧来の主要街道が採ることのできたルートが、
鉄道(正確には汽車鉄道)では採ることが出来ないことは
古今東西を問わず、全国各地で見られることです。
鉄道路線のルート設定の多くは、地元都合ではなく、
あくまで鉄道側の事情に拠って為されている訳です。

こういう“鉄道敷設が可能な条件”というのは、
あまり一般には知られていないように思われる訳で、
その辺りの不理解が忌避伝説が跋扈する一因ではないでしょうか。

おいらが大学の頃、ちょうど京都駅が改築されたのですが
そのときの改築のコンペに出された案の一つに
うちの大学の教授が噛んでたものもあったらしく
その時の話を講義で触れていたのを聴いていたところ…

“門をイメージした地上200mの駅ビルの上に線路を移して
下を自由に往来出来るようにする”

なんてことを平然と言ってるんですよね。
これには驚くというか呆れたというか…

日本の最主要路線である東海道本線では、
特段の事情がない限り勾配は10‰に抑えられているので、
それを考えると、200m線路を嵩上げするのに必要な距離は
単純に考えて20000m、つまり20キロ以上なわけで。。。

コレを、実際に当て嵌めて言うなら、
高槻や草津辺りから徐々に上空に線路を傾けてようやく可能になる
というこのプランの発想自体、実現がまず不可能な事は素人目にも明らか。

その教授は“嵩上げしちゃならんなんて聞いてなかった”なんて
逆ギレしてましたけどね(^_^;

知識人と呼ばれる職種の人でさえ、そういう基本的なことすら
把握してないというのが今日でもごく普通な状況であり
一昔前の“鉄道に関しては”素人の地方史研究家からすれば
『そんなことは知らんがな(´・ω・`;)』
と言いたくなるとは思いますが…

ともかく『かつての繁華街』を鉄道が通らない理由として
“地元民の反対”と言うのはもっともらしい理由であり、
気軽に使いやすいものであったがゆえに、
地方史研究家が無批判のまま受け入れてしまい、
それが“史実”として一般にも当然の事のごとく
受け入れられてしまったんですよね。

この手の説が自主制作版の地方史本に留まっているならともかく
市町村の出版する“○×市史”とか挙げ句の果てには
学校で教えるテキストや副読本にまで事実として載せられ
おおっぴらに“学校で教えられていた”というトンでもない状況なのは
日本人の気質とでもいうべきなんでしょうか…

そういう気質を上手く利用している代表的な例が
催眠商法や当選商法と呼ばれるものな訳ですが…
さすがにその辺りと一緒にしちゃマズいか(-∀-;)

まぁともかく、理屈さえ分かってしまえば
この“鉄道忌避伝説”が現代の天動説のようにさえ思えてきます。


…まぁ、かく言うオイラも、この本を読むまでは
そういうことがあったのだと信じ切っていました。

例えば、関西を例に取ると、大阪や京都の駅の位置は
昔の市街地から遠く離れたところ。
この離れている理由を、
“旧市街地の住民の猛烈な反対があった”
なんて風にいわれると、そんなもんかなぁ、なんて
思わされてしまうわけですが、どちらの事例も、
地形的な条件を考えてみれば
現在の位置に駅が設けられたのも至極当然なこと
ということが判ります。
(えっと…その辺りの説明は良いよね?
 書き出すと結構めんどくさいし。
 希望があったら別に書いても良いけど…)

こうやって、今まで常識と信じられてきたことが論理的に分析され、
その“伝説”の正否が解明されていくのを見ると
目からウロコというかなんというか。。。
新たな視野が広がって面白いものですね。

地図、特に鉄道路線図に関心のある人や、鉄道史に関心のある人、
それに明治中期の社会情勢に関心のある人には
是非お勧めしたい本です。

あ、そうそう。
苦情九条の皆様にも,ぜひとも読んでいただきたいですね(o^-')b






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最終更新日  2008.09.16 21:07:53
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