SF小説から科学書まで、サイエンス・ブックを網羅した『サイエンス・ブック・トラベル』という本が面白かったので・・・
以下のとおり復刻して読んでみよう。
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図書館で『サイエンス・ブック・トラベル』という本を、手にしたのです。
【サイエンス・ブック・トラベル】
山本貴光著、河出書房新社、2017年刊
<「BOOK」データベース>より
“いま”と“これから”がわかる。気鋭の科学者ら30名が自然科学の眼差しで捉えた世界の姿!!
【目次】
1 宇宙を探り、世界を知る(この世界の究極の姿は何か?/人はなぜ宇宙を探るのか?/光より速く進むことは可能か? ほか)/2 生命のふしぎ、心の謎(心はどこにあるのだろうか?/動物はどんなふうに働いているのか?/生物は、細胞は、果たしてどう進化してきたのか? ほか)/3 未来を映す(私たちが“身体性”を備えるとはどういうことなのか?/科学的な思考とは何か?/未来の医療はどうなるだろうか? ほか)
<読む前の大使寸評>
追って記入
rakutenサイエンス・ブック・トラベル
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「SF小説と科学書の類似」が語られているので、見てみましょう。
p190~192
<22 SF小説を書くには?:藤井太洋>
1976年に初版が発行され、平成元年の1989年に増補改訂されたリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』はこう始まる。
“この本はほぼサイエンス・フィクションのように読んでもらいたい”
サイエンス・フィクション=SFというジャンルの文学を定義するのは難しいが、多くのSF作家が宇宙開発や時間旅行、人工知能が支配する社会やジェンダーの溶け合った遠い未来を通して人が不思議や神秘に触れたときに感じるときめき・・・“センス・オブ・ワンダー”を描こうと日夜努力していることは共通している。
そんな日々を送っている身にとって、この序文は挑発的だ。
科学者が? 科学書で? SFのように読める?
甘く見るんじゃないよ、と言いたくなるところだが、実のところ本書は優れたサイエンス・フィクションのように読めてしまう。
科学書なので当然ではあるが、ドーキンスは物語を前に進めるためにSF作家がやるような嘘や隠蔽を混ぜない。喩えの中に混入してしまう正確でない言い回しの意図を修正するために、五月蠅いと思えるほどに紙面を割いてすらいる。日本人には馴染みの薄い宗教に対する言葉など、何度繰り返せば気が済むのかと感じてしまうほどだ。それでも本書は面白く読めてしまう。
ドーキンスの語り口は、SF作家が作品の中で架空の事物を作り上げていく方法とそっくりだ。先入観を覆すような言葉で読者の興味を惹いておいて、手触りの感じられる事例を丁寧に紹介しながら伝えるべき理論を積み上げる。最後に力強く、冒頭で示した言葉の意味を述べる。
特に第12章「気のいい奴が一番になる」で扱われるゲーム理論と進化的に安定な戦略・・・ESSのくだりは秀逸だ。囚人のジレンマという思考ゲームで、遺伝子が生命に行わせている戦略が徐々に明かされていく。ゲームノプレイヤーがとる戦略の「やられたらやり返す」というフレーズは、事例がサッカーのゲームや離婚訴訟に及んでも繰り返されるが、最後に「利己的な遺伝子」という本書のテーマを強く補強するチスイコウモリの“献血”事例に帰着して、1世紀以上も居座っている“血まみれの自然”という先入観を打ち砕く。
まるでよく書けた短篇小説のような美しい構成だ。私は何度も読み返しているが、実際のところ本書がなければ、いくつかの重要なSF作品は生まれなかったか、全く違う読み心地となっていただろう。
本書の主たる主張である生物=生命機械論や『利己的な遺伝子』というフレーズだけをとってもマイケル・クライトンの『ジュラシックパーク』や瀬名秀明『パラサイト・イヴ』、岩明均『寄生獣』などにその影響は色濃く出ている。そして進化論というアイディアがDNAに留まらないことを示してみせた“ミーム”に至っては、SF作品において文化を技術的に操作することへのもっともらしさを加えるための必須のアイディアの一つともなっている。
「論」や「説」が生まれた場所とその熱気を知ることは難しいのだが、“ミーム”に関しては『利己的な遺伝子』から始めればよい。その一点だけでも本書の価値は計り知れない。
もう一つ驚くべき事がある。40年近く前に書かれた科学書だというのに、その論旨と事例が全く古びていないことだ。これは驚愕に値する・・・正直に言えば、羨ましい。
東西冷戦が終わったために、スパイ小説家たちは頭を抱えたというが、PCとIT革命は同様にSFを書きにくい時代にしたと言われている。私たちが住む21世紀の社会は情報革命によってかつて描かれていたSFを超えつつあるからだ。
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『利己的な遺伝子』を以前に読んだので紹介します。
【利己的な遺伝子】
リチャード・ドーキンス著、紀伊国屋書店、2006年刊
<「BOOK」データベース>より
「なぜ世の中から争いがなくならないのか」「なぜ男は浮気をするのか」-本書は、動物や人間社会でみられる親子の対立と保護、雌雄の争い、攻撃やなわばり行動などが、なぜ進化したかを説き明かす。この謎解きに当り、著者は、視点を個体から遺伝子に移し、自らのコピーを増やそうとする遺伝子の利己性から快刀乱麻、明快な解答を与える。初刷30年目を記念し、ドーキンス自身による序文などを追加した版の全訳。
【目次】
人はなぜいるのか/自己複製子/不滅のコイル/遺伝子機械/攻撃ー安定性と利己的機械/遺伝子道/家族計画/世代間の争い/雄と雌の争い/ぼくの背中を掻いておくれ、お返しに背中をふみつけてやろう/ミームー新登場の自己複製子/気のいい奴が一番になる/遺伝子の長い腕
<読む前の大使寸評>
待つこと2週間、わりと早くゲットできたが・・・
世界的なベストセラーという本でも、ちょっと古いのが狙い目かも♪
<図書館予約:(12/05予約、12/18受取)>
rakuten利己的な遺伝子
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お薦めの4冊
1 リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』
2 カール・セーガン『COSMOS』
3 ブライアン・グリーン『エレガントな宇宙』
4 福田和代『宇宙へ』
『サイエンス・ブック・トラベル』3:利己的な遺伝子
『サイエンス・ブック・トラベル』2:進化とは何か
『サイエンス・ブック・トラベル』1:歴史を変えた火山噴火