カテゴリ:経営
台湾の半導体製造大手TSMCの日本国内初となる工場が、熊本県に開所しました。熊本県菊陽町に建設された新たな工場は地上4階、地下2階で敷地面積は東京ドーム4個分。半導体を製造するクリーンルームは国内最大規模といわれています。 工場では自動車や電化製品にしようされる回路線幅、12ナノから28ナノの製品の量産を2024年末までに始める予定です。なお、TSMCは2027年末までの稼働を目指す国内第2工場も熊本県内に建設すると発表していて、開所した第1工場と合わせると設備投資額は3兆円規模になり、日本政府からの補助金は1兆2000億円に上る見通しです。 1980年代、半導体メモリを中心に日本は世界のトップを走っていました。しかし、米国と半導体摩擦が起き、米国製半導体の購入割り当てを義務付けられた頃から、日本の半導体メーカーはプロダクト・アウト思考から先端メモリ開発・生産の過当競争で経営不振に陥り、逆に後発で半導体事業経営に巧みな韓国サムスン電子に逆転されました。 TSMCは、半導体で最も難しいとされるロジックICの生産で頭角を現し、半導体の設計・開発・製造が分業化されるとともに、世界のロジックICの量産工場の地位を確立しました。特にアップル社が必要とする最先端の微細化技術を使用した半導体生産に対応したことが大きかったです。まさにマーケット・イン思考から顧客ニーズに合う製品を開発し、事業を大きく拡大させることに成功しました。 最終製品では、アナログからデジタルへシフトしていく中で、日本は先頭を走ることができず、米国勢が先頭を走り、その後、中国が国内市場を背景に急速に台頭しました。スマホ、PC、テレビの世界シェアも米国・韓国・中国・台湾など外国勢に首位を明け渡し、GAFAMがリードする、データセンター向け半導体が成長をけん引し、日本の電機メーカーは壊滅状態となりました。 奇しくも失われた30年は、電子立国日本がその地位を奪われた時期と重なっています。最近ではコロナ禍を契機に半導体供給不足から自動車が生産できないなどの経験を経て、何とか最先端の微細化技術を使用する半導体を日本でも生産できるようにすべきだとの考えから、ラピダスという会社を設立し、政府からの補助金を得て、半導体事業に参入することになりました。 株価をけん引している半導体関連株。NVIDIAのAI半導体など、現在、世界は半導体特需に沸いています。日本もTSMCの工場を誘致した熊本県、ラピダスの工場を誘致した札幌市では地価が上がり、人手不足が起こり、人件費が上がって人口も急増しています。その結果、不動産業や飲食業などのサービス産業も大きな恩恵を受けています。半導体集積地の魅力は大きく、地方の経済を急上昇させる効果があるのは事実のようです。 地政学リスクがあり、台湾での生産を行っているTSMCは日本、米国、欧州でも半導体生産を行うことになりましたが、誘致するための政府の補助金が莫大なため、それだけの効果があるかどうかを冷静に判断しなければなりません。米国・欧州・韓国・中国・台湾が国策として半導体に取り組んでいる中、日本が半導体にどのようにして国策として取り組むべきなのかは、議論が分かれるところでもあります。 また、半導体業界は競争が激しいです。TSMCは強いですが、韓国のサムスン電子もメモリだけでなく、ロジックIC事業にも力を入れて莫大な投資を行っています。インテルなどアメリカ勢も国策として半導体の生産に力を入れています。露光装置ではオランダのASMLが独占しており、日本の露光装置メーカーは先端微細化では後塵を廃しています。材料では日本メーカーが強い分野ですが、技術開発競争は日進月歩で予断を許しません。 国策としての半導体が軍拡競争になっている中で、シリコンサイクルと呼ばれる需給バランスが大きな景気変動のように発生し、企業業績に大きな影響を与えてきた歴史も忘れてはなりません。 企業は、技術開発競争から投資判断が問われてきます。日本の半導体事業は、従来のプロダクト・アウトからマーケット・インへ舵を切り、顧客との提携や独自の道を選んで、安定した経営力を持てるかも持続性にとって不可欠と思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年02月26日 08時37分37秒
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