カテゴリ:経営
MLBやWBCを見ていてもメジャー・リーガーがすぐにタブレットをみてデータをチェックしています。スポーツではデータ活用で個々人のパフォーマンスを上げることが米国で進んでいることがわかります。大谷選手が米国で毎年大活躍しているのはデータ活用による自己成長・進化が大きいと言われています。データ収集・データ分析・アナリストと現場の共有からチーム戦略・戦力の対策を立てることが当たり前のようになっています。翻ってビジネスの世界でこのようなデータ活用は進んでいるのでしょうか。実際、営業やマーケティングの現場で個々人のパフォーマンスを高めるデータ活用がスポーツ界のようにできていないと感じます。 営業やマーケティングの領域で使われているITツールは代表的にSFA, CRM, MAがあり、ほとんどすべてが欧米からの輸入となっています。SFAはSales Force Automationの略で営業活動を可視化・効率化し売り上げの拡大を実現するツールと言われています。CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)やMA(Marketing Automation)などのツールと併せて使用することで社内の基幹システムとして活用の幅を広げることができるという触れ込みで日本企業へ流行りのように導入されました。 SFAは営業活動の効率化と効果の向上を目的としています。対象ユーザーは主に営業担当者としています。SFAの主要機能は営業プロセスの管理(リードから契約までの追跡)、顧客とのコミュニケーション履歴の管理、営業パイプラインの可視化と分析、タスクとスケジュールの管理、売上予測とレポートの作成があります。営業活動の日常業務の管理や売上予測、営業担当者のパフォーマンス向上に利用されます。 MAはマーケティング活動の自動化と効果の向上を目的としています。対象ユーザーは主にマーケティング担当者です。MAの主要機能はメールマーケティングの自動化(メール配信・フォローアップ)、リードの獲得と育成(リードスコアリング・ナーチャリング)、キャンペーン管理(マルチチャンネルキャンペーンの設計と実行)、顧客データのセグメンテーション、パーソナライズされたコンテンツ配信があります。マーケティングキャンペーンの計画と実行、リードナーチャリング、顧客のエンゲージメント向上に利用されます。 SFA, MAとも顧客関係管理(CRM)活動を支援するツールであり、顧客との関係を深めることが最終的な目的です。また、顧客データの収集、管理、分析を行い、より良い意思決定と戦略立案をサポートします。担当者の日常業務を効率化し、生産性を向上するために設計されています。SFAは営業プロセスを、MAはマーケティングメッセージをパーソナライズすることで顧客に対してより適切なアプローチをします。SFAとMAを統合して使用することで営業とマーケティングのシナジー効果を最大化し、顧客との関係をより深めることができます。例えば、MAで獲得したリードをSFAで追跡・管理することでより効果的なクロージングが可能となります。 これらの違いと共通点を理解することで企業はSFAとMAを適切に選択・活用し効果的なCRM戦略を構築できるというのが米国から輸入されたツールのセールス・トークです。SFA/CRMツールの最大手であるセールスフォース・ジャパンが公開している情報によると2018年の実施した調査ですが、大手企業になるほど、従業員規模が膨らむほどSFAの導入が進んでいることがわかります。営業担当者数が増えれば増えるほど営業のマネジメントを行い、組織として生産性を高める必要がより強くなってくるからだと思われます。 セールスフォース・ジャパンの公開情報によれば従業員が1000人以上の日本の大手企業は2018年時点で既に90%以上がSFAを導入しているようです。コロナ禍前には大手企業の9割が既に導入していたという事実は驚きました。これが本当であれば2018年時点で日本企業は大手を中心に既に営業DXのエントリーができていたと認識できるからです。それにも関わらず、日本企業の生産性が欧米企業と比べて低いのはなぜなのでしょうか。 それでは米国企業はSFAをどれくらい活用できているのでしょうか。営業ITツールベンダーの株式会社MerがSFAを導入している米国企業の営業担当者104名とSFAを導入している米国企業の部長・課長79名を対象に日本企業と比較して定点調査をしたところ、SFAを導入している米国企業の部長・課長の58.2%、営業担当者の41.3%がSFAに顧客情報や商談情報を漏れなく正確に入力できていると回答しました。 SFAへの入力タイミングについて部長・課長の54.4%が商談後すぐに入力できていると回答したのに対し、営業担当者は34.6%に留まっています。SFAに顧客情報を漏れなく正確に、商談後すぐに入力できていない理由としては、部長・課長では操作画面が複雑でわかりづらいからが83.3%、営業担当者では余分な機能が多すぎて使いにくいからが44.4%で最多を占めています。 また部長・課長の46.8%、営業担当者の33.6%がSFAでもれなくネクストアクションの管理ができていると回答し、現場側は管理側より13.2ポイントも低いことがわかりました。さらに導入・利用しているSaaSツールに数について11個以上を使用していると回答した日米企業で比較すると米国企業の63.0%に対し、日本企業は53.7%と下回る実態が明らかになりました。ここからわかることは、まだ、ビジネスの現場ではパフォーマンスを上げる使い方はできていないがデータ収集は行っているということです。 SFA/MA/CRMツールについて使いにくい、活用できていないという声は実際、現場からよく聞こえてきます。データ・ドリブン・マーケティングはITプロジェクトとして開始されており、ビッグデータの活用によって今もマーケティング・プロジェクトとなっていないのが残念です。ソフトウェアツールの選定やインフラ投資、データ・サイエンティストの採用に重点を置きすぎています。データ量が増えたからといって必ずしも良い知見が得られるとは限りません。重要なのは明確なマーケティング目的を持つことによって情報の海の中で何を探すべきかを理解することです。その為にはマーケターがプロセス全体を決定し設計しなければならないのですが現実はそうなっていません。 先日、「そもそもSFA/MA/CRMは必要なのか」という座談会をネット視聴したら最初にセールスフォース出身の人が必要だと言明していました。しかし、その根拠についてはデータを蓄積すれば何かがわかるだろうということしかありませんでした。この座談会は市場の声を反映したから企画されたものだと思っていましたが、SFA/MA/CRMツールを販売するための企画だったようで残念でした。売れる仕組みを考えることから始めるべきが、システム構築ありきのITプロジェクトで始まったのが活用できていない原因と思います。結果、業務日報にしか使えず、パフォーマンス向上の活用ができていないのは底流にあるべき思想がないからです。米国では当たり前のツールであると流行りから導入し活用しようとIT担当者が息巻いて導入したものの、使えない高価なおもちゃとして会社に眠っているのが案外実態なのではないでしょうか。 データをどう個人のパフォーマンス向上・自律的成長に生かせるのか。どうも先行しているのはスポーツ業界の方であるように感じます。ビジネス界、特に営業やマーケティングの現場はスポーツ界でのデータ活用をよく見て学び、個々人のパフォーマンス成長に使えるように考えなければなりません。ただ、米国からツールを輸入し見様見真似では活かせるとは思えません。最大手のセールスフォース社は優良企業で米国株式をけん引する注目銘柄のひとつであることから期待は大きいのでしょうが、残念ながら使い方についてはユーザー企業にかかっているということだと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年07月08日 08時21分28秒
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