不思議旅行
水木しげるさん。これ、文庫のためのあとがきにものすごいすてきなことが書いてあるので引用します。なんてさわやかなのだろう。”エリマキトカゲ”だとか、”なまけもの”とか、”キュイ”などというのは、みればみるほど不思議な生活だ。彼らはこういう生き方しかないのだと、半ばあきらめているようでもあるが、なんとなく”希望”をもっているようにみえるところが面白い。考えてみれば、人生は衣食住がたりれば、退屈なものだ。ぼくはいつも、家に飼っている鳥かごの中の鳥たちをみて感心する。中には六、七年ひたすらカゴの中で生活し、少しもあきず、希望にみちた目をしている。食事だって、毎日同じようなまずいものを食っている。どうして、小鳥たちは、退屈しないのか、自分の不幸をなげかないのかと時々のぞいでみるが、けっこうたのしそうだ。きっと神様が、そのように創ったのであろう。わずか三十センチ四方の中にとじこめられ、人間でいうなら”終身刑”みたいな状態、いや、それよりひどい状態で、鳥たちは”希望の歌”をさえずっているのだからおどろく。いずれにせよ、世の中、いや、地球上は、不思議なことが多い。ぼくはなんとかして、鳥かごの鳥の心を研究して、なんにもなくても幸福になれる術を学べないものかと思ったりする。ある日突然、なにをしなくってもバカに充実した気分になれる風をすいこむことだってあるかもしれない。まあいずれにしても、人生は希望をもつべきだろう。このとりとめもない一文をもって、あとがきに代えます。では皆様、お元気で。(不思議旅行 水木しげる 中公文庫)