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2006.08.15
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カテゴリ:人物紹介


 
  
真夏の太陽の日差しが、じりじりと照りつける

7月下旬の週末、ある場所を訪れた。

私の兄は、本の仕事に携わっている為、
我が夫婦は、良く貴重な情報を、この兄から伝授される事が多い。

かねてから、三人で、訪ねてみたい場所であった。

東京郊外、 町田市鶴川。

日本の敗戦処理を、

背中で受けて立った、一人の男の終の棲家…

武相荘

武相荘

その男の名は、

【 白州 次郎 】しらす じろう 1902~1985

白州次郎は、敗戦後、
新日本国憲法草案の、翻訳の中心を務めた人物である。

敗戦の年、昭和20年12月、外務大臣吉田茂の任命で、
「終戦連絡事務局」参与を命じられ、GHQとの交渉人となった。

翌年の、昭和21年2月13日午前10時、
GHQ民政局長ホイットニー准将等は、外務大臣官邸を訪れた。

吉田茂外務大臣等、白州次郎の4人がこれを迎えた。

ホイットニー准将は、
「日本が作成した憲法草案は受諾できない。
GHQが作成した草案を採用するように」と要求し、
15部の憲法草案(英文)コピーを日本側に渡した。

アメリカ側は、退席している間に、
すぐに文章を検討するようにと命じた。

外務省到着から、わずか10分間…

 「日本の憲法草案を、アメリカがつくる…」
日本側は愕然とした。

 15分後、ホイットニーは、
「私達はちょうど今、外に出て、
原子力エネルギーの温を取っているところである」と冷笑した。

原爆を連想させる事で、心理的な圧力をかけてくる。
  
午前11時10分、ホイットニーらは、外務大臣官邸を後にした。

1時間10分の会談…

3月2日、
未だ、日本政府の意見がまとまらないうちに、
白州次郎は、翻訳者とともにホイットニーに呼び出され、
GHQ内の一室の中で、一晩で憲法草案の全文を、
日本語に翻訳するよう要求された。

翻訳には3日を要したが、白州次郎等は、
一睡もせず日本の歴史を決定づける仕事を遂げた。

 天皇の地位は、英文の草案では
「シンボル ・オブ・ ステーツ」になっていた。

外務省の翻訳官が「シンボル」をどうするか次郎に尋ねると、

「井上の英和辞典」を見るよう指示され、調べると、

「象徴」と記されていた…

「天皇は日本国の象徴であり…」という日本訳は、
このようにして決まったのだ。

 日本国憲法は、ほぼGHQの草案通りに創られた。

日本語訳は、専門の法律学者の眼にふれることもなく、
白州次郎と外務省翻訳官らが、GHQ内の一室の中で完成された。

「従順ならざる唯一の日本人」

と称された、白州次郎も、
憲法に関してはGHQの強硬姿勢に従わざるをえなかった。

 次郎は憔悴しながらも、弱音を吐かなかった。

只、英語の寝言で「シャット アップ(黙れ)」
「ゲット アウト(外へ出ろ)」と怒りを爆発させていたと、
後に作家の、白州正子夫人は語っている。

3月5日、政府は閣議でGHQ草案を受諾する方針を決定した。

5月、吉田茂は、内閣総理大臣に就任し、
「終戦連絡事務局」総裁の座を
次郎に譲ろうとしたところ、

「僕は政治家じゃないんだ」と、

若干38歳で、政治の場から、一人去った…

武相荘は、

次郎が、その後、83歳の生涯を閉じるまで、

作家の白州正子夫人と共住みした場所である。

61年前に、古い農家を買い取り、

次郎自身が手を入れながら改装を重ねたその住処は、

堅牢農家でありながら、

実に、シンプルかつモダンイズムを
合わせ持つ美しい佇まいであった…

展示室には、次郎、自筆の文章が何気なしに

壁にはられていたりするが、

釘付けになるような文面にも、出会った。

「力が足りないのだ、足りないからこそ、
自国の憲法さえ、創れないのだ。今にみておれ。」

「日本は、政治家が悪い。互いに足を引っ張りあうから、
上に立つ者は、毒にも薬にもならない。」

そして、ガラスケースの中の次郎の遺言書…

「葬式無用 戒名不用」

この二行だけが、

新潮社の封筒の中に、無造作に入っていた…


 日本人が、歴史上、最も自信を喪失し、
卑屈になっていた時期、
支配者に対し、日本人の気概を示した人物、

それが、白州次郎であった。


日本で初めてジーンズをはいた次郎・49歳



『プリンシプルのない日本』

白州次郎著

プリンシプルとは、
「原則、自分の信条を貫く」











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Last updated  2008.01.17 06:06:14
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