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カテゴリ:面白おかしい話
とある日の午後。
場所は、テイクアウト可能なコーヒーショップのレジ。 店は、平日にもかかわらず賑わっている。 私の後方にも、順番を待つ人達が5~6名。 店員は、営業スマイルを浮かべて私を見ている。 代金を払い、希望の品を受け取れば至って普通の日となるはずなのに・・・ 大きく広げたカバン。 ハンカチ、携帯、家の鍵が行儀良く納まっている。 が、しかし・・・ ない! どこにもない! そこにあるべきものがない! 額がじっとりと湿って行く。 冷汗がいつになく冷たい。 もう一度、カバンの中を覗き、目を見開いて、じ~っと見る。 でも! やはり! ない! 財布がない! このような不幸が起きると、どうすればいい? 考えるまでもないだろう。 素直に認めることが賢明に決まっている。 『すみません、財布忘れました』と。 そもそも、それほど恥ずかしいことではない。 人間なのだから、忘れるということもあるだろう。 もしくは、『あ、やっぱりいいです』と言葉を濁し、 そそくさに去って行く手もある。 これは、多分バレバレだが、騒ぎを起こさず静かに消えていく方法だ。 私が学生の頃なら、どうしただろう? 『あ~!ごめんなさ~い!財布忘れました・・・』と 頬を赤らめながら、店を出ただろう。 そう、きっとそうしたと思う。 そして、『私って、おっちょこちょいやな~』と自分の頭に コツンと拳を当てたかもしれない。 が、しかし・・・ 店員の顔を見る。 ツルツルお肌にノーメーク。 唇だけうっすらとリップグロスが光る。 営業スマイルも健全だ。 うん、この子は私より若い。 何を言っても信じるだろう、と根拠のない確信を支えに 私はカバンの中へ手を伸ばす。 握りしめたのは、携帯。 仕方ない、こうするしかない。 仕方ないから、私は・・・ 携帯を耳に押し当てた。 鳴ってもいない携帯を! そして、店員に向かい、 『あっ。電話。ほら。ごめん。後で。』 文法も文脈も不完全な日本語を並べ、クルッときびすを返す。 上手くいった!と思ったのも束の間。 出口付近で、チラッと振り向くと・・・ ツルツルお肌ちゃんがこちらを見ている。 レジ周りにいる人達もこちらを見ている。 皆、口はあんぐり。 ただただ、私を凝視している。 こんなに注目されたのは、おそらく人生で初めて!? ドンクサイ自分を隠すための妙な演技。 が、結局は究極にダサイ行動を取るはめに。 私だけだろうか? 何故、『あ、忘れました』が言えない? 何故、失敗を恐れる? 何故、負けを認めない? そして何故、素直になれない? 私だけだろうか? コーヒーショップのレジで。 仕事仲間の前で。 家族との会話で。 愛する人との危機に面して。 人生のあらゆる場面において・・・ これって、大人のおバカなプライドか? 昔は、『素直さ』など意識せずとも良かったのに・・・ 家に着く。 机の上には、財布。(やっぱり~・・・) おんどりゃ~! 恨むで、お前。 お前のせいで、赤っ恥かいたんやからなぁ。 なんでちゃんと私のカバンに入ってなかったんやぁ~。 あっ、これも大人のおバカなプライドか???(これは、私だけだろう!笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年11月11日 22時49分10秒
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