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カテゴリ:クロノス小説
クロノス城ギルドSSDアジト
「ようやく寝ついてくれたよ」 ふぅ……と、深呼吸をしてから青い法衣を身にまとった男魔術師が気だるげに息をつく。 彼の名は悲魔。ギルドSSDをまとめるギルドマスターで、その実力はクロノス大陸全土に鳴り響いているらしい。 「そうっすか……それは良かったっす」 グロはほっと胸をなでおろした。 「うん。命にかかわるような怪我はしていなかったしね……さてと」 悲魔は真剣な表情を作って 「詳しい話聞かせてもらえるかな?」 近くにあった椅子に座った。 「あ、はい……とは言ってもわたしたちにもよくは解らないんですけど」 そう切り出してから、美姫っちがありのままに状況を説明する。 「……なるほどね。 となるとあの子の意識が戻らないと何も解らないってことか……」 悲魔のつぶやきにふたりは無意識に謎の少女の方を見る。 振り返ればすぐにでも追いつかれそうな恐怖が心を締めあげる。 わたしは必死に闇から逃げていた。 いずれ追いつかれるであろうことは解っていたけど、とにかく逃げずにはいられなかった。 どこをどう逃げたのかは解らない。追手の気配が消えた頃には夜に差しかかろうとしていた。 (ようやく撒いたようですね) わたしは歩きながら息を整え、いくつめかの角を曲がる。 「……あれ?」 行き止まりだった。 (こういうそそっかしいところは昔から変わらないですね……) クスっと微笑んでから、もと来た道を引き返そうとして、 (!?) その微笑が凍りついた。 そこに闇がわだかまっていた。 (そんな!? 気配なんてどこにもなかったのに!) 背筋を這い上がってる恐怖に、わたしは後退ることしかできない。 『……見つけた……汝こそ我を支えるに足る器…… ……決して……逃しはせぬ……』 心に直接響く声に戦慄する。 『……逃しはせぬ…… 我が名は──』 わたしの意識はそこで途切れた。 何か声が聞こえる。 わたしはその声で目が覚めた。 けれどまだ焦点が定まらず、一度目を閉じてゆっくりと目を開ける。 「気がついたようだね」 その優しい声は聞き覚えのない声だった。 「気がついたようだね」 悲魔が優しく声をかけると、少女はゆっくりと体を起こす。 「あ、まだ横になってて。 傷が癒えきっていないんだから」 悲魔はそう諭してから、少女を横にさせる。 「……ここは?」 「ここは俺たちSSDのアジトだよ」 「??」 少女の質問に形どうりの答えを返すものの、少女は解らないらしい。 (ひょっとしてこれは……) 悲魔は思わず頭を抱えそうになって、頭をよぎった疑念を確かめることにする。 「ここがどこだか解るかい?」 その質問に少女は静かに首を振った。 (……やっぱりか……どーしたもんかなぁ) 悲魔は頭をぽりぽりと掻きながら説明する順序を組み立てる。 「ここはクロノス……世界の安定を手に入れるために、日々冒険者が集う場所だよ」 そう切り出して説明を始める。 一通りの説明を終えて、ここに至るまでの経緯を話そうとしたとき、 ガチャ とドアが開いた瞬間 「ねねヒマさん。ヒマさんが女の子連れ込んだってホント!?」 ガタタンッガシッ! 飛び込んできたあまりな内容に悲魔は椅子ごとひっくりこける。その拍子にどうやらベッドの足に頭をぶつけたようだ。 「あれ?違うの?」 「いててて……連れ込んだなんて人聞きの悪いこと言うなよ」 悲魔は気を取り直して椅子に座わり、今しがた声をかけてきた女性に疲れた声を出す。 彼女は白を基調としてピンクの輪郭の入ったセイレーンブードゥー装備を綺麗に着こなしたバルキリー。 頭に被っている銀色の冠が切れ長の目を際立たせ、妖艶という言葉がまるで彼女のためにあるかのようだ。 彼女の名はアルテミス。人は畏敬の念をこめて彼女をこう呼ぶ。『破壊者(ブラスター)アル』と。 「だってギルドのみんなが噂してるよ?」 「えっ!? マヂか?」 悲魔の顔から血の気が引いていく。 (……待てよ? ……この子をベッドに運んでいくとき、グロさんと美姫っち以外にもう1人いたな…… ……そうか……あいつか……!) 「ちょっと待っててね」 悲魔は少女に悟られないように優しく声をかけると、ゆらりと立ち上がって外に向かう。 「大丈夫っすかねぇ」 「悲魔ちゃんに任せてれば問題な……ん? げっ!! あ!そ、そだ。お、オレ急いで……ほらそのなんだ。あ、そうそう。旅の準備をしないと」 グロと話し込んでいた人物は何かに気付いて、逃げるようになそぶりを見せる。 (??) グロはその人物が見ていたほうに顔を向けると (ひぃっ!!) 「ま、マスターどうしたっすか?」 グロが今出てきたばかりの悲魔に恐る恐る聞く。 「グロさん」 「はい?」 「悪いけど席外してくれないかな?」 にっこり笑う悲魔。 「……あぃ」 こうなった悲魔に何を言っても無駄なことをこれまでの経験で知っているグロは、大人しく部屋に入った。 「ニーラーイー」 びっくぅ!! 「よ、よぉ悲魔ちゃん……げ、元気してる?」 「はっはっは……お陰さまでね」 『あはははは……』 そしてふたりで笑い出す。 ピキーン! めでたく氷像と化したニライを放置して悲魔は部屋にもどる。 「さてと……本題に戻るけど、詳しい話を聞かせてもらえないかな?」 「……」 悲魔の質問に少女は考え込んでしまう。 (悲魔さん? ひょっとしてこの子……?) (うん。多分そーだと思う) アルテミスと悲魔は小声で話す。 そして少女が発した次の言葉は、事態が悲魔の予想通りだったことを裏付けるものだった。 「ごめんなさい……何も思い出せないの」 その夜。 ここに至って自己紹介を済ませていないことに気付いた一同は、今いるメンバーだけでもということで自己紹介を済ませた。 その時になって少女が、ようやく自分の名前を思い出してくれた。 「話が長くなったし、傷に障るだろうから今日はこれでお開きだね」 悲魔の提案で今日は解散となったが、彼は寝付けないでいた。 (これからどーするかなぁ)と、とりとめもなく屋根の上で考え事をしていると、その横に誰かが座る気配がした。 悲魔もそれが誰だか解っていたようで、特に咎めるようなことはしなかった。 「それにしてもエルファリアって言ったっけ? あの子……何者なんだろうね」 空を見上げたままアルテミスがぽつんと漏らす。 別に回答が欲しかったというわけではなさそうだった。 「んー……憶測だから言いにくいところはあるけれど、彼女この世界の住人ってわけじゃなさそうだね」 「……やっぱり?」 ふたりがそう思うのも無理はない。 エルファリアと名乗ったその少女はこのクロノスに住んでいる女性の特徴のどれにも当てはまらない容姿をしていたのだから。 髪は腰まであるロングなのだが、色はマリンブルーが肩のところまでしかなく、そこから先は急に色素が抜けて透明になっていて、耳は妙に長く、先のほうは尖っている。 そして額には縦長の菱形をしたエメラルドのような宝石がぴったりとはまっている。 何よりはその目……左目はエメラルドのような碧なのに対して、右目はサファイアのように澄んだ青……つまりオッド・アイを持っていたのだ。 そんな異質的な特徴がいくつもあると言うのに、幼いながらも整った顔立ちがその違和感を綺麗に打ち消している。 これらの特徴からクロノスの人間だと言う証拠を探し出す方が土台無理な話ではある。 「ねぇ悲魔さん?」 「ん?」 アルテミスから呼ばれて気のない返事をしながら、悲魔はグラスに残っていたブランデーを一気にあおる。 そのタイミングを狙い済まして 「……惚れた?」 ぶっ!! 思わずブランデーを吹き出す悲魔。 「あ、あのなぁ……」 「ゴメンゴメン。冗談よ。 それにしてもお酒がもったいないよ」 からからとひとしきり笑ったアルテミスは急に真面目な顔をして、 「でもどーするの?」 「そうだなぁ……記憶をなくした子をそのままほっぽっとく訳にも行かないし、 うちで引き取るしかないだろうねぇ」 「他のギルドに任せるのもなんだか不安だしね」と付け加える悲魔。 「ホント!? やったーーー!! じゃ、明日はエルちゃんの歓迎会だね♥」 嬉しそうにはしゃぐアルテミス。 「おいおい……何かにつけて呑みたがるんだから……」 反論はあったものの、その言葉は決して否定したわけではないと解っているアルテミスは 「いーじゃない。新しい仲間が増えるんだよ?」と切り返して、付け加えた。 「SSDがエルちゃんにとっていいギルドになるといいね」 -to be Continued- お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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