Lv08『第2章 第4話~降魔~』
モンタゥヌス神殿4F『血の祭壇』 普段のアイドラならば、とうの昔に片はついているはずなのだが、今回『降りた』アイドラはいつもと様子が違う。 デューイ・アルテミス・悲魔の3人は決定打を浴びせることができずに、攻撃のカードが尽きかけていた。『ご主人さま……このままじゃ……』「言われなくったってアルにも判ってるよ!」 バゥル「アブ」の声に苛立ったまま怒鳴るアルテミス。「グロ……エルの様子はどうだ?」 そう静かに聞くデューイにグロは無力な自分を悔いるように答えた。「もうすぐ傷は塞がるっすけど……これ以上のヒールは危険っす」「……そうか」 終わりは近い……????『エルファリア』 エルファリアは、その奇妙な声に目を覚ました。(……ここは?) 全てが闇に閉ざされた果てのない空間。『ここは汝(なれ)の深層心理の世界』 再びどこかで聞いたことのあるような、それでいて全く身に覚えのない声が直接心に響いてくる。 その声の主を探そうと、あたりの気配を探ってみるものの、そこには自分ひとりしかいない。『無駄じゃ……今の汝(なれ)では妾(わらわ)を見ることはできぬ』 その声の昏く笑う感情がはっきりと解る。「あなたは?」『今の汝(なれ)に妾(わらわ)のことを話しても埒が明かぬ。 来たるべき時が来れば解る』 エルファリアの問いかけに『声』が言い放つ。『さて、エルファリア。 汝(なれ)の置かれておる状況は判っておろう?』 その問いで、先ほどの出来事がエルファリアの脳裏を掠めた。『そう。汝(なれ)は腹を抉られ、死の境を彷徨うておる…… 全く……あのような輩にこんな傷を負わされるとは……不愉快の極みじゃ』 心底呆れたというような『声』が返ってくる。『とはいえ、このままでは汝(なれ)は死ぬ…… それは妾(わらわ)にとっても思うところではない』 『声』は一旦そこで言葉を切って宣言した。『故に……汝(なれ)の身体、妾(わらわ)が預かる』と。 その声が聞こえたかと思うと、エルファリアの意識は完全に暗転した。モンタゥヌス神殿4F『血の祭壇』 その異変に最初に気付いたのはアイウール「ノクターン」『気をつけろ! ……何か来る!』 その時。 どくんっ! 世界が震えた。「なんだ!?」 アイドラの降臨以上に異質な空気を感じ取ったデューイは、思わず構えを解いて辺りを見渡した。 取り立てて変わったところは……「エル?」 眉をひそめて声をかけた相手は、起き上がれないはずのエルファリア。 彼女は異質な空気をその身に纏って立っていた。「エルっち! まだ──」 起き上がっちゃダメっすと言いかけたグロを「寄るな!」 デューイが一喝する。(なんなんだ……この不気味な気配は?) いまだかつて味わったことない異様な感覚に冷や汗が吹き出してくる。 ヴォン! 辺りの空間を軋ませてエルファリアは闇を纏う。 そしてただ一言、『滅びよ』 彼女の口からそれがついて出た。「その身体でまだ戦うというのか……全くもって愚かなことだ」 ──ふっ。 アイドラの嘲りを鼻で笑い飛ばすエルファリア。「汝(なれ)……誰に刃向こうておる」 それがアイドラの癇に障ったらしく、苛立たしそうに眉を吊り上げる。「余程死に急ぎたいようだな……ならば望み通りにしてくれるわっ!」 アイドラから繰り出された触手は── エルファリアは右に半歩体を躱す。 ぼっ! ──異様な音とともに、繰り出された触手が弾けとんだ。 一瞬辺りが静寂に支配され、 きおおおおおおおおおおっ! アイドラの絶叫がこだまする。「……貴様っ! 何をした!?」 攻撃を仕掛けたアイドラも、はたで見ていた他の誰にもエルファリアが何をしたのか判らないでいる。 エルファリアは笑みを浮かべたまま、「汝(なれ)の一撃を打ち払ったにすぎぬ」「な……にっ!?」 驚愕に目を見開くアイドラ。「そう驚くことでもあるまい? 元々妾(わらわ)と汝(なれ)とでは器が違いすぎるのじゃ…… 故にこの結果は当然であろう?」 淡々と話すエルファリアにアイドラは憎悪の眼差しを向け、「……貴様……何者……?」 そう問いかけられたエルファリアは一瞥して、「汝(なれ)のような下賎な輩に名乗る名は持ち合わせておらぬ」 そして、寒気すら覚える凄絶な笑みを浮かべて付け加えた。「大人しく滅びよ……とは言わぬ。 妾(わらわ)が許す、精一杯抵抗してみせよ」と…… それが戦いの合図になった。「驕るな! たかが人間の分際でっ!」 アイドラは魔力を解き放つ。 グガゥン! エルファリアを中心にして爆発する。 とてもではないが避けられるタイミングではない。「はっ……あれだけの大口を叩いておきながら…… 所詮は人間ということか……」 もうもうと立ち込める砂塵を前に、嘲笑を浮かべるアイドラ。 やがて視界がゆっくりと開け、嘲笑していたアイドラの表情が凍りついた。 そこには──「ふぅむ……やはりこの程度が限度か……話にならぬ」 ──何事もなかったかのように佇むエルファリアの姿があった。 その右手に闇で構成された剣を携えて。 次の瞬間。 ふっとエルファリアの姿がかき消えた。 があああぁぁぁぁぁっ! 再びアイドラが苦悶の悲鳴を上げる。 ぼとっ 落ちたのはアイドラの左腕。「っ!! どこに隠れた!?」「うつけが……何故(なにゆえ)妾(わらわ)が隠れなければならぬ…… 汝(なれ)の後ろじゃ……もう遅いがの」 慌てて後ろに向き直るアイドラ。 そこには。 伸ばした左手の先に魔力光を宿したエルファリアの姿。 それが、アイドラの見た最期の光景になった。「獄炎烈(エビル・フレア)!」 きゅぼっ! アイドラは闇色をした炎に飲み込まれ、程なく消え去った。とある場所「見つけましたわ! やはりアレの居場所は異界ですわ」 その一行は遂にそれの所在を突き止めた。「ならば今すぐに追おう」 黒きローブを身に着けた魔導師の提案に、白い法衣の神官は浮かない顔をしている。「? どうしたのだ? アレを野放しにしておくのは危険なんだぞ!?」「承知していますわ…… ただ、一つ困ったことが……」「アレを野放しにする以上の困った事などあるまい?」 黒き魔導師はそう言って続きを促す。 白き神官はためらいがちにその事実を告げた……モンタゥヌス神殿4F『血の祭壇』「すごい……けどエルちゃん、怖いよ……」 アルテミスの呟きに、アブが答えた。『気をつけて! あの子はご主人さまが知ってる存在(もの)じゃないよ』(えっ!?) アルテミスの呟きに我に返ったデューイ。「同感……だな。 おい悲魔! 今すぐ戦える連中を集めてここへ呼べ!」 その切迫した表情が全てを物語っていた。 敵はアイドラなどではなく、このエルファリアなのだということが。-to be Continued-