父に対する思い 6
父に対する思い 5 のつづき手術の次の日。朝起きてすぐ病院へ行った。妹も連れて来た。本当は帰らずずっと一緒にいてあげたかった。父ちゃんも「帰るな」と言っていた為、せめて母ちゃんだけでも残ろうとしたが、ICUということもあってか、看護婦から帰宅を促された。父ちゃんは夜、かなり暴れるらしく、手だけでなく足、腰まで縛られていた。手に縛られているひもを引っ張り、「なんやこれ、はずせ」と叫ぶ。少し大人しくなったと思ったら、今度は起き上がろうとする。その度に頭と繋がっている数多くの管が伸び、取れそうになり、そして父ちゃんの顔は真っ赤になる。昨日となんか違う。明らかに何かが変わった。普段から父は短気なほうだけど、我慢しないといけないことぐらいわかってるはずなのに、何度も説明してるのに、父ちゃんは何度も同じせりふを言い、何度も同じ事を繰り返し、大声で叫ぶ。怖くなって近くにいた看護婦に聞いた。「父はどうなってるんですか?なんか様子がおかしいように見えるんですけど」「クモ膜下出血の患者さん特有の症状です。大丈夫ですよ。ただ、お父様の場合はかなり元気ですけどね。」そうは言っても昨日はあんなに穏やかだったのに、一日、ううん、半日でこんなに変わるの?モニターには父ちゃんの血圧や脈数などが表示されてあった。血圧。あり得ない数字だった。・・・285!?これには焦ってしまって、看護婦を呼んだ。「大丈夫ですよ。これはわざと血圧を上げて、血管が細くなるのを防いでるんです。」主治医からの説明が頭をよぎった。血管れん縮・・・血管が細くなっていろんな部分で脳梗塞が起こってしまう症状。起こる場所によっては身体的な障害、精神的な障害が現れる。まさかね・・・今目の前で暴れ、苦しんでいる父ちゃんに、どういう言葉をかけたらおとなしく我慢してくれるんだろう。どういう触れ方をしたらこの苦しみから解放してあげられるんだろう。そんなこと考えながらも、こんな父ちゃんを見ていられなくなってICUを出てしまった。私と妹、母ちゃんで交わした一つの約束。父ちゃんの前では絶対泣かない。この約束のために、私はなんどもICUを出たり入ったりすることになる。父に対する思い 7につづく。