カテゴリ:思い出
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人気ランキングに参加しています。良かったらお願いします。 にほんブログ村 ^-^◆ 祖父の遺言を破った孫の想い<上> <requestによりrevival> 伊藤作業長が言った。 「帰った方が良いよ……。 やっぱり……」 「でも……遺言って言われて……」 「うーん…遺言ねぇ……」 「はい……難しいんですよ……」 「遺言でも……ねぇ。……おかしいなぁ」 仕事の前準備をしているが、どうも気になって手が進まない。 実は今日、じいちゃんが亡くなった。 ……外出していて臨終に間に合わなかった……。 どこか具合が悪い訳でも無く、元気だったのに……、 全く……突然の事……だ。 朝、あんまり起きて来ないので、10時頃起しに行ったら、 眠ったまま亡くなっていた……と……聞いた……。 医者は老衰と診断………。 80歳過ぎだから年に不足はないと……叔父さん達が 泣きながら言うが……堪らない。 指し物大工一筋……つい最近まで細工場に入っていた。 ……今夜は通夜だ……。 会社が夜勤の私は、今、会社に居る……。 なんで……?……。 祖父の通夜の夜に…………。 当然、通夜を務めるつもりだった。 ……当然だ。 ……夕刻、「今夜は会社を休む」と言う私に、 じいちゃんの面倒をみていた叔母が言う……、 「頼むから……会社を休まないでくれ……」 「……?」 じいちゃんの遺言だそうだ………。 遺言……? ピンと来なかった……。 本当にじいちゃんがそう言って亡くなったのだろうか……? 「じいちゃんはね、職人の鑑でね。どんなに体調が悪くても 約束した仕事を休んだことは一度も無い」 ……と、叔母ちゃん……。 「何があっても、例え俺が死んでも仕事の約束は、 守らなきゃいかんって……いっつも言ってたからね……」 ……叔母ちゃんが続けて言う。 横でバァちゃんも頷いている……。 しかし……。 しかし、何か割り切れない……。 血のつながった孫だし……。 ………叔父さん達は何も言わない。 ……って事は叔母ちゃんと一緒という事だ。 父母に……どうしょうか……?……と言ったら、 「遺言だから……」……と……皆と一緒。 ……で、今……会社にいる。 先輩は「明日葬儀だろう。少し仮眠しとけよ」と優しい言葉。 「明日の夜は休めよ」……とも……念を押された。 伊藤作業長だけが……さっきからうるさい。 「……じいちゃんの通夜に、仕事するバカが、おるもんか。 じいちゃん、悲しんどるよ………」 自分の本音に近い言葉だけに……胸に堪える。 胸に……痛い。息が苦しくなる。 「あんた、総領やろう!!」 伊藤作業長の、この言葉が最後の引き金だった。 俺は嫡男に違いない。内孫の嫡男だ。---跡継ぎだ。 祖父の通夜の場に居なくて本当に良いのか……? 『遺言』という言葉では済まされない。 通夜をしなくちゃ……一生悔やむかも………。 ……腹が決まった。 「すみません。帰らして頂きます!!」 「そうか、そうしろ!そうしろ!」 驚いたことに、伊藤作業長だけじゃなく皆が口を揃えて言った。 皆……気にしてくれていたんだ。 しかし……、 「最終列車まで15分しかないぞ!!」ということだ。 作業着のままで飛び出したとしても、どんなに急いでも、 駅迄20分はかかる。 しまった……!! ……決断が遅かった。 「いいか、通用門まで全力で走れ。門から駅まで車を 出して貰う様に、ワシが守衛さんに頼んでやる」 と……、伊藤作業長。 「守衛がそんな融通利かせるもんか……」と、先輩達……。 「いいから走れ!!」の伊藤作業長の言葉に、 はじかれたように、カバンを小脇に、出口へ……。 「守衛に親しい人が居るから俺が頼む」 という、怒ったような、 伊藤作業長の言葉を背中に走った。 走った。走った。頭の中が、ボーーーッとなる。 汗が吹き飛ぶ。……とにかく、走った。 ………ややあって、南門。 向こうに、人影が2人見える。 横で車がエンジンを吹かしている。 「伊藤さんから聞いた。早く早く……」 いつもは、怖い守衛さんが、せかしてくれる……。 乗車……、発車。……あまり時間がない。 「電話しとけ……」と、残した守衛さんに叫んで、 グーーーーンと、スピードアップ。 「ご迷惑かけます。スミマセン……」 「大変やナ……。出て来る時、具合悪かったの?」 ……?……?…そういう事にしてくれている様だ。 ……伊藤作業長…………。 「いえ……、まさか……亡くなるとは……」 ウソだが……ご好意に……言葉を合わせた。 「駅にも、電話させたから絶対大丈夫だからな」 「…………!!」 「2~3分なら、待ってくれる……」 「……!……スミマセン。そこまで……」 しかし、一企業の守衛さんに、 国鉄の列車を待たせる力があるんだろうか……? 一瞬、よぎったが……、感謝の気持ちの方が強く、 ジーーーンときた……。 心を読んだかのように「人は皆、人情に生きとる……」と、 守衛さんが呟いた。 ……この時、決断が遅れたことを、心の底から悔やんだ………。 駅に着いた。駅員さんが改札のこっちまで来て待っている。 「急いで下さい。……今、入りました」 お礼も、そこそこに、ホームに走り込む。 乗った途端に、ピーーと笛がなって、ガタンと動き出した。 まだ、蒸気機関車の時代だ。ゴットン、ゴットンと、 ゆったり動き出す。腰掛けて、ほっとした………。 …………間に合った。 ああ~~……。 伊藤作業長、先輩達、守衛さん、駅員さんの、真剣な顔が 浮かんできて、思わず……涙が出た。 伊藤さんは、直属の上司でもないのに真剣に心配してくれた。 …………涙が……止まらない…………。 0時近い最終列車、着くまで一時間近くかかる。 22時に出勤したから、一時間以上迷ってた事になる。 列車が……、いつもより遅いように……感じる。 そして………やっと………東郷駅に着いた…………。 <続く> 人気ランキングに参加しています。良かったらお願いします。 にほんブログ村 ========================================================= ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 14年間蓄積した本ブログの一部を抜粋して本にしました。 『愛ことば・心の散歩路(ビジネス編上巻・中巻・下巻)』です。 それぞれ200円です。(^-^) AMAZON公式サイトで「愛ことば」で検索して下さい。 良かったら、どうぞ。よろしく、お願いします。 『愛ことば・心の散歩路(ビジネス編上巻・中・下巻)』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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