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愛 こ と ば・心 の 散 歩 路

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2020/05/08
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カテゴリ:思い出











            爺さん.jpg


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    ^-^◆ 祖父の遺言を破った孫の想い<下>

           <requestによりrevival>


 自転車を預けている家は、たいてい最終列車迄は、
待っていてくれるのだが、もう電気が消えている。
帰るべき人は皆帰ったのだろう……。
まさか、今日出かけた者が戻ってくるという予測は
無いだろうからな……。(^_^;)

仕方なく徒歩…………。
じいちゃんの家には、1時過ぎにやっと着いた。

奥の部屋の電気は点いているが…………鍵は閉まっている。
ドンドンと戸を叩くと、中から「ハーイ」と、叔母ちゃんの声。
ガラガラッと、重たい木の引き戸が開いて………………、
顔を見て……叔母ちゃん、声が出ない。


     ボケ花


「ええっーーー」という顔して、凝視している叔母ちゃんの横を
すり抜けて、上がって…………座敷へと…………。
叔母ちゃんの意に反して帰ってきたから、
ちょっとバツが悪かった…………。

じいちゃんが眠っている布団の横に、ばあちゃんが座っている。
ばあちゃんは特に驚いた顔をしなかった。
じいちゃんを手で指して、ほほえんだ。
すぐ、線香上げて……。

…………心からほっとした。

叔母ちゃんがお茶を持ってきた。
…………何も聞かない。
ばあちゃんもニコニコ笑って何も言わない。
  「みんなは…………?」
  「明日が大変やから、皆、先に寝てもろうた……」

……!
……意外だった。

通夜というのは始めての経験だが、みんな、朝まで起きている
ものと思い込んでいた。


     乙女像


何か、ガッカリしたような……、
……でも、戻って来て良かったとも思った。
気持ちが凄く落ち着いた。

故人のじいちゃんの嫁、つまり、ばあちゃんと、
その娘、つまり、叔母ちゃんと、
孫、つまり、自分の三人でお茶を飲みながら、
じいちゃんの昔話をアレコレと話し……、また……聞いた。

たいてい知っていると思っていたが、知らない話が多かった。
…………不思議に思っていた謎も解けた。

じいちゃんは『正作』という名前だが、
目上の人からも、常に『正作さん』と、さん付けで
呼ばれていた。
それが、とても不思議だった。
田舎の農村では、同級生や上の人からは、たいてい、
呼び捨てで呼ばれるのが常だったから…………。

じいちゃんの若い頃からの生き方を聞いて……納得できた。
…………でも、それって、凄い事だと思った。


     まっ黄色.jpg


自分で相手に頼む事でも、指示する事でもないからだ。
周りの人々が、自然にそうなるのだから…………凄い。
そういえば、じいちゃんも、家族以外の人を、
誰も呼び捨てにしなかった…………なぁ。

ずっと、年下の人でも、『……さん』付けで呼んでいた。

  「見た事なかろう……?」と言って、叔母ちゃんが、
古いアルバムを持ってきた。
  「明日、お棺に入れてやろうと思ってね……」
初めて見るじいちゃんの古いアルバム。
分厚くて荘厳な表紙だ。
明治の中ごろの生まれだから、幼い頃の写真は少ない。
…………と、えっ、私の写真が混じっている。
じいちゃん……、私の小さい頃の写真を持っていてくれたんだ。
と、一瞬、思ったが…………。

違う……。
古すぎる。
…………茶色っぽくなっている。
  「叔母ちゃん、これは……?」
  「ふふふふっ、……似とるやろう……お前に……」
ばあちゃんも、笑っている。


      どんぐり実.jpg


似ているどころの騒ぎじゃない。そっくり…………。
愕然とする位、そっくりの顔と、その表情だ。

10歳位の写真だが……、自分で間違えたくらいだから……、
うーーーーん…………ホント、そっくり……。
ゾッとする位、似ているのだ。

大きくなってからは、似ていると言われた事は一度もないし、
自分でも「じいちゃん似」とは思っていなかった。

  「じいちゃんが、言ってたよ。お前が小さい頃。
   あれは、俺の生まれ変わりやって……。可笑しいね。
   まだ、自分が生きてるのにね……ふふふふっ」

  「うんうん、ようー、言いよったねぇ……じいさん」
と、ばあちゃん。

この時ほど、血のつながりを深く感じた事はない。

横たわっているじいちゃんを見た。
顔に白い布がかけてあるが、
……まるで、眠っているようにしか見えない。
ツーンと突き上げるものがあって、すすり上げたら、
叔母ちゃんが背中をさすってくれた。


     山水.jpg


  「お前は、さすがに長男やねぇ…………。よう、戻って来て
   くれたね。……みんなを寝かせてから、
   淋しかったとよ……」
  「あたしゃーー、帰ってくるような気がしとったよ」
……と、ばあちゃん。
…………笑っている。

朝方まで、三人の話は続いた。
線香を絶やさないように点けながら…………。
朝方、うたた寝をしている所に、親父が起きてきて、
  「通夜してくれたんだってな……アリガト……」
と、言った。

親父から、ちゃんとした言葉でお礼を言われたのも、
初めての経験だった。

そのばあちゃんも、叔母ちゃんも、親父も、叔父ちゃんも、
今は亡い。………遠い昔の話だが昨日の事のように思い出す。

じいちゃんは、亡くなる時も、たくさんの貴重な経験を
させてくれた。
……いつまでも、忘れえぬ…………思い出である。


       <完>





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Last updated  2020/05/08 06:06:30 PM
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