藍野家の日常

今日5月20日、妹クリス(猫)は避妊手術を受ける予約を入れていた。
が、その予約は、10日前に父が延期をお願いした。
既におなかに小さないのちが宿っていることがわかったからだ。

クリスが父母の家の店先に来るようになったのは、先月の上旬。
近所の方や店のお客様から食べ物をもらって暮らしていた。
その後、数日姿を見せなくなったが、気がつくと家の敷地のより奥まった辺りに
住むようになっていた。
父が、しばらくキャットフードを与えて、慣れたところで保護しようと
1週間ほどフードを用意していたところ、玄関までついてくるようになり、
4月25日に保護して動物病院での健康診断・ワクチンを受け、室内飼いにした。
避妊手術は予約制でしばらく空きがなく、5月20日に予約を入れた。

保護してからは食欲も旺盛で元気にしていたが、突然の激しい嘔吐。
5月10日に、動物病院で検査を受けた。
超音波エコーの画面に、胎児が映った。吐き気は つわり だった。

予定通りに手術、という選択肢もあった。
手術をお願いすれば、胎児は子宮ごと摘出される。
でも、母が「クリスの仔を死なせたくない」と言い、父も同意した。
手術は、子育てが終わるまで延期された。

母の選択に、あるいは批判もあるかもしれない。
不幸ないのちを増やすより、手術をすべきだ、と。
母自身、「一度は飼い猫の可愛い仔を見てみたい」という安易な繁殖には
反対している。先住猫のバーニィとアルも、室内飼いだが去勢済みだ。
だが、母は、お産の前でも後でも、クリスの仔には変わりない、と思った。
もしもクリスが既に出産を終え、仔猫を連れて店先に現れたのだとしたら、
母猫だけを保護して仔猫は処分する、ということはしなかっただろう。
同様に、保護前から既にお腹にいのちを宿しているなら、子どもごとクリスを
守りたい、と、母は考えたのだ。

仔猫たちは、「予定されていなかったいのち」ではあるかもしれない。
でも、「望まれないいのち」ではない。
父母は、クリスの妊娠を知ったときから、仔猫の無事を望んでいるのだから。

予約通りならば手術を終えて入院しているはずだった今夜、クリスは
徐々に大きくなっているお腹を横たえ、ゆったりと窓辺でまどろんでいる。
その幸せそうな寝顔を見て、母はやはりこうして良かったと思っているそうだ。
お産の後先がどうのといった理屈以上に、小さないのちとその母が愛しい、と。