会津キリシタン研究所

【木曽谷の十字墓】

　これらの十字墓も、木曽谷のとある墓地にありました。典型的な十字墓で、大きさは会津や伊那谷にある十字墓と同じでした。真ん中の写真の十字墓は、屋根が二重になっていますが、屋根だけ残っていたものを上に載せるために上の屋根の下部に穴を開けたように見えます。そして正面に彫られた穴の形は、会津や伊那谷で見たことがある形をしていますし、ここでもこうした穴が空いた十字墓をご紹介したことがあります。

　伊那谷と木曽谷の間にはいくつかの峠があります。大平という木地師の村があったところを通る峠道や、大平という村に関しては、松山義雄『深山秘録』（法政大学出版局、１９８５、東京）にかなり詳しく記されています。キリシタンに関心のある方は、是非、じっくりお読み下さい。非常に興味深いことが記されています。ことに、著者は丹念に伊那谷を歩いて、様々なモノや伝承を集めていらっしゃいます。

　そして、会津のキリシタンは伊那谷と切り離して考えることは出来ません。あるいは、杖突峠を越えた釜無川沿いを無視して通り過ぎることは出来ません。山梨県北杜市、長野県富士見町、茅野市、諏訪市と保科高遠藩とは密接な関わりがありました。このことは、『会津藩家世実紀』に姓が出てくる家が、どこから伊那高遠に来たかを考えると、すぐに気が付きます。

　見性院は武田信玄の娘でした。そして、武田信玄の家臣だった人物が、武田家が滅亡した後、帰農したのかそれとも他家に仕えたのか。そして何よりも、あの一帯に残っているモノは何を意味しているのか。そして、見性院は何故、高遠藩主であった保科家に幸松を養子に出すことを言い出したのか。幕閣はその理由を知っていたのか。『会津藩家世実紀』に残っている、不思議な記録がそれを解明してくれます。