自分が記憶している限り、日本のプロ野球界でユニフォームの裾を下まで降ろすスタイルを定着させたのは誰あろう王貞治選手だった。
ユニフォームの生地が木綿や化繊混紡のメリヤス布地から、収縮性のあるオペロンなどに替わった昭和４０年代後半のころの写真を見比べると長嶋、田淵といった有名選手がストッキングの上の「∩」のアーチ部分まで見えるような穿き方をしている中たった一人だけ王だけがユニフォームのスソをきっちりと下げて穿き、ストッキングがすべて隠れるような足元になっていた。

その理由を聞かれた王は確か一本足打法との絡みで「練習で(右足を上げ下げしていると)どうしてもずり下がるので、はじめから降ろしておいた方が楽だから」みたいな答え方をしていたが、後年なにかの本に「王はふくらはぎが異様に発達しているのでどうしてもズリ落ちる」と書いてあった。必然性があったのだ。

自分がストッキングが見える穿き方に固執したのは高校時代フェンシングをやっていたことと関係があるかもしれない。とにかく、膝から下、スネ全体を軽くして、すっきりさせた状態にしてないと何かしっくりこないのだ。仙台弁でいうところの「いずい」っていうやつ。しかしそれだと自打球がスネに当ったときの痛みはただごとでなく、自分も下までさげる穿き方にするようになったのだが。

昔、自分が地元塩釜というところにある某電機メーカー直営店の野球チームに助っ人として試合に臨んだときだ。自分以外全員が、ユニフォームのすそを下まで降ろした穿き方をしていて、監督か誰かに「カッコ悪いからお前も下まで降ろせ」といわれてショックを受けたことがあった。そのとき初めて自分はストッキングを丸見せにする穿き方がカッコ悪いのだと知ったのだった。それからかなり注意して見るようになったのだがプロ野球限定で言えば確かに「ストッキング派」は段々と少なくなっていた。

しかし特にここ数年悪しき流行になりつつある、パンタロンもどきのすそがダボダボしたやつは見ていてあまり気持ちのよいものではない。鈍足のベテラン選手があれをやるとさらに遅そうに見えるし。

本来インサイドプロテクターとして脛当てをユニフォームの中に入れるためにすそにゆとりを持たせているのをどこかで使用法を間違ったような気がするのだが。

ロッテのフランコのような足長の選手ならまだサマになっているので見逃せるが、日本人があれをやると鳶職人にしか見えないことがある。特に、頭を坊主にしていたり日焼けした選手だとバットやファーストミット(！)よりも、腰に玄翁とかいっぱい入ったベルトを巻いていた方が正直お似合いである。

今ではストッキング派は絶滅寸前で、そういう意味で広島の野村謙二郎の引退はストッキング派にとっては大きな損失であった。(なんだそりゃ。朱鷺かよ)

てなこと思っていたらストッキング派に思わぬ追い風が。

楽天の野村監督がこのスソを下げる穿き方がお嫌いのようで選手全員に「ストッキングを見せるように」との指令が出たようだ。

「全員」というのはどうかと思う。そしてこれは逆に森谷にとっては逆風ではないのかとふと思った。目立たなくなるし。

といいたくなるくらい森谷のストッキングは近鉄時代から彼の代名詞となっていた。

森谷も今年で９年目、早くも２７才になる。オフの体力自慢番組で初めて知った人もいるかもしれないが球界で一二を争う俊足の持主である。あの異様に発達したふくらはぎを見ればその潜在能力に期待するイーグルスファンはまだ多いはずだ。

森谷の潜在能力を昔から高く評価しているのは案外プロ野球のファンよりもゲームマニアの方だったりする。知り合いのハードゲーマーも近鉄の選手なんて北川や川口も知らなかったのに森谷のことは良く知っていた。

「燃えろプロ野球」などの選手が実名で登場する野球ゲームソフトでは、それぞれ個々の選手の基本能力が細かく設定されている。そして走力だけ取れば森谷はだいたいどのゲームソフトでもトップクラスに設定されているのだ。一言でいうと「打てないイチロー」状態である。(微妙な表現だが)

さて、で、ゲームの中の森谷に対して特訓を行なうことでその能力はアップしてゆく。走力だけはどんな選手を育成モードで育ててもさほど上がらないが、打撃の能力と守備力だけは上がるので元々走力だけはトップクラスの「森谷」を特訓するとそれこそイチロー級の外野手になることがあるのだ。

しかしだからといって現実の森谷にそれを期待するのはバーチャル世界の住人の悪癖である。現実はそうはうまくはいかんがね。

森谷だって必死だと思う。結局昨年はスイッチから右一本に戻したり試行錯誤を繰り返している。なんか今年駄目ならオフにはクビが待ってそうな気配すらある。

とりあえずキャンプは一軍メンバー入りしたので、その脚力が野村監督にアピールできれば開幕一軍→代走→守備固めと生き残りのチャンスはありそうだ。

頑張れ森谷。まず野村監督の前でそのふくらはぎを見せつけるのだ。