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2011年3月12日の未明まだ夜が明けない時間、クルマの中でウトウトとしかけていた全員のあいだに緊張が走った。
ラジオのニュースで仙台市若林区から宮城野区多賀城の沿岸部までが2メートルの津波で壊滅状態であること、孤立して救助を求める人数が万単位で、その中には学校で閉じ込められ防寒対策も何もないままの小学校や重病人を抱えた病院も多数あることを伝えていた。 ひとりが「ここでじっとしているより災害救助のために動くべきではないのか」というようなことを切り出した。再び車中を重い沈黙が支配する。「でも… 行ってどれだけのことが出来るのか俺たちで」ともうひとりが口にする。最初に口火を切った男が再び「わからんよ行ってみないとそれは ただ大切なのは 事実として 今でも凍えそうな救助を待っている人が何万人も ついそこに 沢山…」とそこで絶句してしまう。 人の声や犬の鳴き声がしたのでふと外を見ると、並んで停めてある赤い乗用車の中が騒々しかった。 夜半前に自分達のクルマがここに来る前にすでにその赤い乗用車はアイドリング状態のまま停めてあった。ドライバーシートの若い女性が曇ったガラス窓越しに見えた。ほかにも乗車しているのは皆同年代の女性だけのようだった。彼女達が交代でクルマを降りるとタバコをふかしながら携帯電話を掛けていたのを目撃していたからだ。 「るっせぇなぁ」こちらの車中の誰かが呟く。別の誰かが「行ってきて注意しようか?」と言うと全員が「やめとけ」と口を揃えてたしなめた。自分も辞めたほうがいいと思わず口にしていた。 その直後だったと思う。自分の携帯(PHS)が鳴ったのだ。回線全滅で死んだものと思い込んでいた自分のPHSが先日の午後3時以来はじめて突然音を立てはじめたのだから本当にビックリしてしまった。慌てて取り出して折りたたんだ端末の正面の小さな液晶画面を覗き込む。 全員が無事を心配していたその男の名前だった。 「今どこよ?」と平静を取り繕い問いかけると「(かまたさんたちの)仕事アパートの前」という答えが帰ってきた。 自分達がそこから徒歩30分ほど離れた駅前の駐車場にいることを伝えると「じゃそっち向かうわ」と言うと電話は不自然な形で切れてしまった。回線の状態がまだあまりよくないからかもしれない。 不在の男が無事であることを確認したために車中は一気に安堵に包まれた。 気がつくとクルマのウィンドウをコツコツと叩く音がした。隣のクルマに乗車していた中の誰かだった。 ウィンドウを開けると彼女は「携帯通じるんですか?」と聞いてきた。「うんさっき突然だけど」と答えると「どこの携帯ですか?ドコモじゃないですよね?メーカーとかあるんですかね?」と質問を矢のように浴びせかけてきた。 自分が「それがウィルコムで」と言うと「あっ、そうなんだ…やっぱりウィルコムって別なのかな」とすっとぼけたようなことを口にした。 聞けば、赤い乗用車の中は同じ店で働く女性とその妹の4人で、さらにそれぞれが飼っているペットの犬と猫計3匹も同乗しているという。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012年03月14日 16時28分45秒
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