「亀は意外と速く泳ぐ」 リトマス試験紙のような映画
【スタッフ】監督:三木聡/製作:橋本直樹/プロデューサー:佐々木亜希子/脚本:三木聡 【キャスト】上野樹里/蒼井優/岩松了/ふせえり/要潤/松重豊/村松利史/森下能幸/緋田康人/温水洋一/松岡俊介/水橋研二/岡本信人/嶋田久作/伊武雅刀(90分 2005/07) 【ストーリー】片倉スズメ(上野樹里)は海外単身赴任中の夫が大切にしている亀にエサをあげるだけという単調な毎日を送っている。スズメは親友の扇谷クジャク(蒼井優)の型破りな生活に憧れる。偶然「スパイ募集」の貼り紙を見かけ思い切って電話してみる。指定された場所へ向かったスズメは、そこでクギタニ夫妻(岩松了・ふせえり)と出会う。クギタニ夫妻は「自分たちは某国のスパイだ」と語る。夫妻に「スパイにとって重要なことは平凡なことである」と言われて拍子抜けしたスズメであったが、その資質を認められ活動資金として500万円を渡される。夫妻から与えられた指令は、なんと今までどおりの平凡な生活を続けることだった。これまでと何ら変わらない日常ではあったが、スズメは今までとは違ってその平凡な生活を楽しんでいた。しかし、そんな彼女の周囲で不穏な動きが見え始める。 それにしてもかなりの数の「大型店」と呼ばれているレンタル店でこの「亀は・・・」を置いていないというのは驚きであった。自分は知り合いのビデオ屋店長にお願いして郵送してもらって見たくらいだ。一種のぽす〇んである。しかし「仙台ってこんなもんなのか」と落胆はしたけどな。そもそもは「時効警察」→「イン・ザ・プール」という流れでこの映画にたどり着いた。もし時効警察を見ていなければパスしていたかもしれない。もちろんビデオ屋の店長などをしていればいずれは見ていたのだろうが。特にこれといって特徴のない映画だった。なんとなくクスクス笑いながら気がついたら90分経っていたという感じだ。コメディ映画には違いないがストーリーが巧みで笑わせるというよりも、ただなんとなく笑わせて、たいした山場もなしになんとなく終わったという感じ。いいことなのか悪いのことなのか。こういう映画の限界ではある。何か新しいものを発見することを楽しみにしているような人でないと薦められないな。映画の中に確立されている価値観のようなものが無いと満足できないという人には薦められない。矢口史晴の映画に「秘密の花園」というのがあるが、あれを見たときと同じ感じがした。当時ビデオ屋の店長をしていた自分はこの映画を勧めまくった。しかし客の反応はイマイチであった。次の「アドレナリン・ドライブ」という映画も「店長推薦」にして勧めていた。しかしやはり客の感想はまっぷたつに割れた。なんていうか完全にリトマス試験紙状態だったのだ。今もし自分がビデオ屋の店長をしていたならばやはりこの「亀は・・・」がそういうビデオ・DVDになったであろうな。主役のうち上野樹里はある意味失敗だったかもしれない。どう見ても「人妻」には見えないからだ。というかおそらくはそのへんが監督であり脚本家の三木聡の狙いなのだろうが。というか蒼井優が目立ち過ぎである。どちらかというと幸の薄い役しか記憶のない蒼井優ではあるが、この映画でははじけていた。いや、ぶっ飛び過ぎであろう、これは。イオン関係者は蒼井優がこんな映画に出演していることを知っていて彼女をCMに起用しているのだろうか。心配だ。してもしかたのない心配だけども。話は大仰になる。60年代から70年代前半の日本の喜劇映画によくあるプログラムピクチャーと同じような臭いがする。たわいもないお話が続く森繁の社長シリーズや三木のり平が主演しているような映画である。芸達者な喜劇人が次から次に登場して観客を笑わせるという喜劇映画と同じ匂いがするのだ。というよりも当時は誰も気がつかないでいたようだがこういう他愛もない「喜劇映画」が豊富だったというのは日本映画にとっては幸せなことだったのである。もう一方には黒澤明や小津安二郎のような巨匠の作る映画があってその正反対にあるような映画である。日本の映画が斜陽になるとまっさきに駄目になったのはこういう軽い喜劇映画のほうであった。しかし「それみたことか」などとまるで対岸の火事のような気分でいたらすぐに大作映画自体が作れなくなるという冬の時代がやってきたのだ。なものだから、こういう「たわいもない」コメディ映画は大切にしたほうがいい。そう思うのだが。今なんとなく日本映画は活況である。海外での日本映画の評価は我々日本人が想像するよりもずっと高い。しかしそれだってやはり薄氷の上というか砂上の楼閣状態だということは肝に銘じたほうがいいのではないか。