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テーマ:心のトラブル110番(82)
カテゴリ:文章作法
芸能人やタレントが、自分史や暴露本を出版すると、
内容はともかく、適当な部数が売れ、中にはベストセ ラーになっている傾向がある。でも、苦労しながら、 自分で書いている方は、どのくらいいるのだろうか。 芸能活動、タレント活動をしながら、暇を見つけて著 作に励むなんて、よほど能力のある強い意志の持ち主 か、文筆に自信がある人でなければできないはずだ。 私も、生活のために、何度かゴーストライターを務 めてことがある。だいたい、ゴーストライターに自分 の伝記などを依頼するなんて輩(やから)は、ほとん どビジョンなど持っていない。私の場合、中小企業の 社長、あるいは、ある程度、社会的位置を確立して、 さらに自分の立場を強固にしたいという、自己権威力 の旺盛な方が多かったから、どういう目的で本を出し たいのか、どのような構成を考えているかなど、文章 以前に、考察する問題が多かった。 試しに、これまで書いた文章を見せてもらっても、 箸にも棒にもかからないというより、「あんた、本当 に、こんなもの、本にできると思っているのかよ」と いう程度の、稚拙なものが少なくなかった。それでも、 本人はまったく平気である。「あんた、プロなんだろ う。これで適当まとめてよ」という態度で、軽くいな された。 ゴーストライターを引き受ける場合、一番楽なのは、 完全に本人が書いたものを、文章の流れなどを考慮し ながら、適当に項目別に取捨選択し、リライトするケ ース。次は、原稿はなくても、自分のこれまでの人生、 考えなどをテープなどに吹き込んでもらい、それを、 こちらが適当に脚色し、面白おかしくまとめる方法な ど、いろいろな方法がある。しかし、一番、厄介なの は、メモ程度の文章を、自分なりに名文だと勘違いし ている依頼人である。(つづく) むかし、ある知人から、ヨーガ教室を主宰している 先生に会って話を聞いてほしいと頼まれた。会って、 いろいろ雑談をしているうちに、ヨーガ歴何十年間か の集大成に、本を出したいとの夢があることが分かっ た。「今まで、どんなものを書いているんですか?」 と尋ねたところ、そのヨーガの先生は膨大な資料を持 ち出した。 ところがである。それは、原稿用紙に書かれたもの はほとんどなく、九◯%近くがメモ程度の走り書きの ものであった。それも、テーマもなしの、ただ雑然と 日常の出来事を五、六行に記したもので、お世辞にも 文章と言えるものではなかった。 「いくら何でも、これは無理」と思った私は、「も っとベテランの方にお願いしたほうがいいでしょう」 と、丁重に断った。しかし、相手は引き下がらない。 「どうしても、本を出したい。費用に糸目はつけませ ん。すべお任せしますから、よろしくお願いいたしま す」とまで言う。そこまで言われたら、こちらもプロ だ。「何とかしてみましょう」と、渋々ながら引き受 けた。 苦労に苦労を重ね、二カ月ほどの日時をかけ、やっ と出版にまでこぎつけたが、その間のストレスは、は かりしれないものがあった。 華々しい「出版記念パーティー」が開かれ、私にも 招待状が届いたが、私は到底、出席する気にはなれな かった。 悲しいけれど、ゴーストライターとは、そういうも のだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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