説教要約 595
「サムソンの最期」 甲斐慎一郎 士師記、16章 この16章には、サムソンが20年間、イスラエルをさばいた後のことが記されています。 一、ガザの町の門扉と門柱を肩にかついでヘブロンの山へ運んだサムソン(1~3節) サムソンはガザで一人の遊女と寝ました。「彼がペリシテの堅固な城塞の一つであるガザへ行ったのは、主の霊によって励まされてではなく、自分の力であると思っているものを信じ、かつ誇って自分の欲望を満たそうとしたのです」(A・イーダーシャイム)。 ガザの人々は、サムソンを殺すには今が絶好の時であると思い、彼を取り囲んで待ち伏せました。ところがサムソンは、真夜中に起き上がると、町の門扉と門柱をかんぬきごと引き抜き、それを肩にかついで、遠いヘブロンに面する山の頂へ運んで行ったのです。 町の人々は、彼の怪力を目の当たりに見て、あっけにとられ、声も出ませんでした。「ペリシテ人の領主たちは、サムソンが自分の罪によってその力を失わない限り、とうてい力をもって彼に勝つことはできないことを悟ったのです」(A・イーダーシャイム)。 二、デリラの誘惑に負けて力を失い、ペリシテ人に捕えられたサムソン(4~22節) その後、サムソンはデリラという名の一人の女を愛しました。そのことを知ったペリシテ人の領主たちは、デリラのところに行って、彼女にサムソンの力の秘密を探り出すように命じ、その報酬として(恐らく5人で)銀5,500枚を与えることを約束しました。 デリラはサムソンをくどいて、彼の強い力がどこにあるのかを聞きました。サムソンは、彼女の質問を三回もはぐらかしていますが、三回目の答えは髪の毛のことに触れています。彼は、それが力の秘密を明かす一歩手前にあることに気づかなかったのでしょう。誘惑に負けない秘訣の一つは、できるだけ誘惑から遠ざかることです(箴言5章8節、6章27、28節)。 しかしサムソンは、自分を誘惑するデリラを遠ざけなかったために、ついに自分の心をみな彼女に明かしてしまいました。「サムソンが外側においてナジル人であることをやめる前に、彼はすでにその心中においてナジル人であることをやめていました」(A・イーダーシャイム)。髪の毛をそり落とされて力を失ったサムソンは、ペリシテ人に捕えられ、目をえぐり出されて、牢の中で臼をひかされ、ついに落ちるところまで落ちて行ったのです。 「サムソンの不幸は、神が彼によってなされたことを自分の功績であるとしていたことです。神は彼がその苦しみによって神がともにおられなければ、自分は数えるに足りない者であることを悟らせるために彼の力を滅ぼすことを許されたのです」(ドイツの注解)。 サムソンは、牢の中で臼をひきながら、主のためではなく自分の欲望のために力を用いていた誤りに気づいたのではないでしょうか。サムソンの頭の毛がまた伸び始めたのは、おそらく彼がこのことを悟って悔い改めたからでしょう。彼に再び力が与えられました。私たちも主のわざを成し遂げるために神からさまざまな能力と賜物が与えられています。 三、ダゴンの神殿を破壊して、大勢のペリシテ人とともに死んだサムソン(23~31節) ペリシテ人の領主たちは、自分たちの神ダゴンに盛大ないけにえをささげて楽しむために集まり、サムソンを見せものにしました。その時、サムソンは主に呼ばわり――屋上にも約3,000人の男女がいた――ダゴンの宮をささえている二本の中柱を渾身の力をふりしぼって引き、神殿を破壊してペリシテ人に復讐しました。このようにしてサムソンは、士師としてイスラエルをペリシテ人の手から救うために壮絶な死を遂げたのです。 このガザにおいて壊滅的な打撃を受けたペリシテ人は、数年後、エベン・エゼルにおいてサムエルの率いるイスラエル軍に敗北するのです(第一サムエル7章12、13節)。拙著「士師とサムエルの生涯」19「サムソンの最期」より転載