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テーマ:心にのこる出来事(94)
カテゴリ:旅の中の日常
京都近郊に住んでいると案外普段から寺巡りなどしないものだ。いつでも行けると思ってしまうからなのかも知れない。
それは、高校をでてフラフラしていた頃の話だった。 ふとした切っ掛けから、何回か京都案内をしたことがある。 行きつけの飲み屋でいつものように、知り合いが集まっていた。 その日は、その店で写真展を開いていたのだ。写真展と云っても個展のような大がかりなものでもなく、模造紙に沢山の写真を貼り付け、壁一面に張り巡らしただけの代物だったが、写真は生き生きとした表情をしていた。 知り合いが、ロンドンから帰ってきて、向こうで撮りためた写真を展示していたのだ。 写真も興味深いものだったが、彼の話もそれに輪をかけて面白かった。ロンドンで住んでいたフラットの隣人が、バンク少年で、深夜帰宅すると必ず雄叫びを上げながら、ジャックナイフでベッドのマットを切り裂く話。麻薬の売人に絡まれた話。イタリアで置き引きにあって無一文になり。警察に行って事情を説明し、無一文だと分かると豚箱に放り込まれ、ロンドンまで豚と一緒に護送された話。この話なんか、まるで映画の「ミッドナイト・エクスプレス」のようで、ドキドキしながら聞いていたのを思い出す。 異国の写真とエキサイティングな話で、ボクはまるで異次元空間に彷徨っているような感じがしていた。 そんな時、店の扉が開いて、誰かが挨拶をしながら入ってきた。 それと同時に出て行く人もいたので、しばらくドアが開いた状態が続いた。 その間、外にいた女の子2人が、まるでドアの空間に切り取られた一枚の写真のようにボクの目に飛び込んできた。 そして、ドアが閉まる瞬間に4つの目がボクの2つの視線にぶつかった。 「入ろうかどうしようか、迷ってるのかな?」 隣にいたやつにボクは言った。 「何が?」 「今、ドアが開いたときに外にいた子」 「じゃ、声かけてこいよ」 そう言われて、ボクは何故かためらいもせずドアを開けて店の外へ出た。 「お店探してるんですか?」 「いいえ、そう言うわけでは・・・」 「じゃ、一緒に飲みませんか?」 「・・・・・」 「今、写真展してて、いっぱい集まってるんですよ」 「いいんですか?」 「いいですって、みんな大歓迎するから」 2人は東京から来た旅行者だった。その日来たところで、明日と明後日は京都観光をすると言った。その日は金曜日だった、、と思う。 11時近くまで、みんなで飲んだ。桃井かおりのファーストアルバムが何度も何度も流れていた。初めてあったにもかかわらず、かなり盛り上がった。遅くなったので木屋町の旅館まで送ってあげた。 明くる日ボクは、朝霧が立ちこめる南禅寺の山門を見ながらベンチに腰掛けていた。昨夜彼女たちがココに来ると言っていたので、驚かそうと待ちかまえていた。8時から1時間ほど待った頃、2人は永観堂の方からやって来た。お参りをして振り返ったところを写真に納めた。その次の瞬間、2人の驚きと笑いの入り交じった顔が朝日に輝いて可愛かった。 「ホントに来るとは思わなかったよ」 「だめだった?」 「そんなことないけど、びっくりした、時間も言ってなかったのに」 「よくやるよって・・・(^^ゞ(笑)」 2人はボクより年上だし、もうしっかり働いているOLさんだ。 それ故かどうか分からないが、ボクの破天荒な行動が可笑しかったようだ。 2時間ドラマで有名な南禅寺の疎水を案内し、南禅寺名物「エブリバディおじさん」(通り過ぎる観光客にエブリバディ・エブリバディと声をかけて記念撮影の商売をしているおじさん)を紹介した。 それからどんな風に京都の町を案内したのかは、よく覚えていない。 とにかく一日中歩き回った。もちろんタクシーにも乗ったのだけれど、色々とかけずり回ったという感じだった。二条城で写真を撮っているので、二条城に行った記憶は多少残っている。京都の直ぐ近くに暮らしていて、こんなに京都の町を1日で見て回ったのは、初めてだった。 明くる日は、京都駅まで見送りに行った。旅先で出会った青年と観光をした旅行者の2人にとって、この旅は不思議な旅だったかも知れない。 それは、ボクにとっても同じで、たった2日だけしか一緒に過ごしていないのに、何だか昔からの友だちみたいな気持ちになっていた。 それからしばらくし、フラフラ生活に終止符を打って、大学に行ったボクは、夏休みにバイクで東京に行ったことがある。京都旅行に来た1人の実家が喫茶店をしていたので「友」と言う喫茶店を探して立ち寄った。 家族で歓迎してくれて、とても嬉しかった記憶がある。今みたいにネットもない時代なので、簡単にやり取りも出来ず、それ以来連絡も取っていないが、こうやって思い出してみると、なんだかとても懐かしく思えるのだ。 元気でやってるのだろうか? もう孫がいてもおかしくない年齢になっているんだな~と思う。今すれ違っても分からないかも知れない。それはそれでいいと思う。しかしそんな出逢いがあったことに感謝している。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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