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国際商品崩落、デシマル・サイクル終焉が鳴らす警鐘
編集委員 滝田洋一 原油、金ばかりでなく、商品全体を代表するCRB指数までも。真夏の国際商品市場が売りの火砕流に見舞われている。その背景としては、米利上げ観測とドル高に加えて、中国経済の失速懸念が見逃せない。日本にとっても利害得失の冷静な見極めが大切だ。 金が1トロイオンス1100ドルを割り込み、WTI原油は50ドルを切った。CRB指数は210を下回り、200が指呼の間となっている。リーマン・ショック後の2009年3月に付けた200.34の安値は目前である。当時のニューヨーク・ダウ30種平均の安値は6547ドル台だったから、商品市場の不振は際立っている。 市場エコノミストは背景としてまず、米連邦準備理事会(FRB)による9月利上げ観測の台頭を挙げる。ドル高が進んでいる結果、ドル建てで取引されている商品価格が押し下げられているともいう。 いずれも誤っていないが、ここへきての商品急落には売り本尊がいる。トレーダーたちが身構えるのは中国勢の売りだ。とくに日本が休日だった7月20日の金相場の急落は、中国のファンドの売りが引き金になったとの見方が多い。 ほかでもない。6月12日をピークに中国株バブルが崩壊したが、当局が相場維持のために市場に介入した結果、ファンドなどは保有する株式を売るに売れない。だから、株価の下落リスクを回避するために、金など商品市場で売りにでているというわけである。 もうひとつ。国際投資家たちがクモの子を散らすように、商品市場から退散している。大手の年金基金などは分散投資の一環として、上場投資信託(ETF)を通じて商品を購入してきた。 ところが商品市場の潮目は明らかに変わった。金利を生まない商品を、価格が下落局面に入るなかで、保有し続けるのは得策ではない。代表的な金ETFである「スパイダー(SPDR)ゴールド・シェア」の残高は7月23日現在で684トン台と、12年12月のピーク1353トン台の半分になっている。 2000年代に入って以降のスーパー・サイクルの終焉(えん)だ。中国を先導役にした新興国の台頭で、資源・食料の需要が増加し、商品相場も水準を切り上げる。こんな見方はリーマン・ショック後の調整を挟みつつ、ごく最近まで続いた。 CRB指数でみると11年4月の368.70が戻り高値だったのに、「夢よもう一度」の気持ちは後を引いていた。ところが昨年秋の原油急落は、商品市場を取り巻く環境が様変わりになったことを告げた。 需要面からみれば、新興国経済の減速に伴う実需の減退といってよい。10年単位の相場変動を「デシマル・サイクル」というが、商品は上げ相場が終わり、長い調整のトンネルに入ったようにみえる。 決定的なのは、中国の習近平政権が掲げた「新常態(ニュー・ノーマル)」路線が揺らぎ始めたことだ。新常態とは高成長から7%程度の中成長への軟着陸を意味する。だが、いったん弾みを失った経済は、予想外に早く鈍化してしまった。 画像の拡大 何とか経済を支えようと、当局主導で株高のアクセルを踏んだが、景気と企業業績が悪化するなかでの人為的バブルは二重遭難を招いた。6月半ば以降の株式バブルの崩壊である。 株安は新たな調整圧力となって、中国経済にのしかかってくる。そして、官民合わせて5兆元つまり100兆円規模の資金で必死に支えている中国株に代わって、商品相場が警鐘を鳴らし始めたといえる。 中国経済がこのまま失速すれば、世界全体に及ぼす負の影響は計り知れない。そんな見方が目立つなか、「資源価格が下がったおかげで、輸入に頼っているユーロ圏や日本の経済は恩恵の方が大きい」とみるエコノミストもいる。「原油など資源価格安で日本は今年、7兆円以上の輸入コスト軽減になり、経常黒字が拡大する点が見逃せない」というわけだ。 こだわりのない観察眼が、市場参加者に求められる局面である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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