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2011.06.22
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カテゴリ:映画・書籍

 くつろいでいる私

この映画は日本でもレンタルなどで見やすいフィンランド映画(制作は1990年)です。

私の中のお勧め度は星 ★★ です(最高は★5つ)。

え? 評価低くない? と思われる方もいらっしゃかると思いますが、正直一般向けの内容でないので、戦争映画が好き、フィンランドとソ連の冬戦争をもっと知ってみたいという方以外はお勧めできないのですよね・・・。

個人的に感想としてはお子様との視聴はNOです(軽くトラウマになりそうな凄惨な描写もあるので)。

ストーリーはひたすらカレリア地峡の塹壕でソ連軍と延々と戦い続けるもので、ラストも戦争終結で「勝った! 勝った!」と小躍りして喜ぶソ連兵たちを尻目に、疲れ切ってへたり込んだフィンランド兵たちが無表情に眺めて終わり、満足感より辛かったなの一言で終わりそうな感じです。・・・すみません。ネタバレしてしまいました(汗)。

とても紹介とは思えない言葉ばかり並べていますが、評価を低くしたのはあくまで一般視聴者向けか否かという点であって、個々の描写の鋭さ、あとハリウッド映画ではまずお目にかかれないソ連軍実物兵器を使った戦闘シーンの描写は迫力があります。

そしてこの映画のなんと言っても秀逸なのは、兵士たちの心理描写です。

映画に出て来るフィンランド兵たちは、予備役で招集された者達です。招集直後は娑婆っ気が抜けず、さながらお祭りに集まったような感じです。カレリア地峡に部隊が移動して陣地作りに精を出している時も緊張感が無く(まだ戦争が始まっていないため)、暇を見て近くの村の女性を口説きに行く者がいるなど本当に一般人と言う感じです。

一方で当時のフィンランドがいかに貧しかったかを思わせるのは、彼らが招集された時、軍服の生産と支給が追いつかず、軍の帽章と国旗を書いた腕章しか支給されないというシーンが出てきます。主人公の兄弟は民兵出身のため軍服着ていますが、それをみて「いいなぁ。俺も民兵になっときゃよかった」と羨ましがられる場面もあります。

そんな彼らですが、戦争が始まると状況が一変します。

文字通りの意味で大地を埋め尽くした大軍で突撃してくるソ連軍に、仲間の多くが斃れ、娑婆っ気が吹き飛んでいきます。

初陣は、眼前を埋め尽くしたソ連の大軍に、顔を恐怖で引きつらせ、手が震えて銃の操作もままならなず、悲鳴とも奇声ともとれる声を上げて戦うシーンとなります。

映像技術の工夫として面白いのは、戦闘シーンの多くにスローモーションが取り入れられている点です(実際極度に緊張した状態だと、周囲がスローに見えるという心理状態を経験された方もいらっしゃるかと思います。それを表した演出のようです)

そのためただでさえ手が震えて銃の操作が上手くいかない、倒しても倒してもいっこうに減らずに迫ってくるソ連兵の姿に、見ている側も焦燥感と恐怖が伝わってきます。主人公が使っているのはボルトアクション式のライフル(一発撃ったら、レバーを手で操作して薬莢を排出して次の弾を装填する仕組みです)ですが、「こんなんじゃソ連の大軍を食い止められない、殺される! 誰か弾が無くならない機関銃くれ!」と言いたい気持ちになります。

戦争が始まった後は、そういうシーンが延々と続きます。塹壕にひたすら立てこもって戦う彼らに、スオムッサルミの勝利も何も関係ありません。ただ毎日、希望も何もない苦しい戦いが延々と続いていきます。

そして最初は表情豊かだった兵士たちが、次第に無表情になっていきます。

始めは遠くの砲弾の音に怯えて顔を引きつらせていたのが、戦場慣れして平然とタバコをくもらせたりしています(もちろん近くに砲撃が来た時は、さっと身を伏せるという慣れた兵士の行動をとりますが)。戦闘が終わる度に、体中泥だらけ、顔は真っ黒で白色迷彩服はビリビリに破れた幽霊のような凄い姿で無表情に座っている。そんなシーンが多くなっていきます。

それは戦争で感覚が麻痺して人間性が無くなっていく過程なので、見ている側からすると痛々しい気分になります。彼らがわずかでも人間らしさをかいま見せるのは、最初に招集された仲間たちと、夜の休息の際見せる悪口の言い合いぐらいですかね。

その仲間たちも戦闘が進むにつれ次々と減っていき、人間らしさを見せる姿も少なくなっていきます。

戦争の恐ろしさ、それをリアルに描写しているのは凄いと思います。・・でも見ている側からすると苦しくて痛いだけですが・・・。

あと敵であるソ連軍の攻撃方法、人海戦術の凄まじさは圧巻です。フィンランド兵の手記でも、「森が歩いて迫ってくると思ったら、それは一面すべてソ連兵の大軍だった」という記載がありますが、それをリアルに再現しています。

知識として、人海戦術は犠牲が多く効率的でないと言われますが、味方が少数で敵の人海戦術を受ける側としては恐怖感でいっぱいとなります。朝鮮戦争の際、中国軍の人海戦術を受けて、米軍兵士に大量の発狂者が出たという話がありますが、映画で見ていても気が狂いそうになります(苦笑)。そしてソ連軍が単純にフィンランド軍の10倍近い犠牲を出した理由も納得できます。

また実物ソ連軍兵器、戦車などは、拙ブログの冬戦争のくだりを読んでいただいた方には想像つくかと思いますが、実際の冬戦争で、ソ連軍が遺棄し、フィンランド軍が回収して使っていたものです。

T26戦車、イ16戦闘機など、映画の撮影のため、博物館や軍の倉庫奥深くで眠っていたものを、かつてのソ連軍塗装に塗り直して赤い星をつけて登場させています。

とくにT26戦車は、1万2千輛も大量生産されたのに(戦前の戦車生産数世界一です)、独ソ戦初期には型落ちして早々に戦場から消えてしまい、大半がスクラップされてしまったため、余り見ることが出来ないレアな戦車になってしまっていてます。その幻の勇姿を見られる数少ない戦争映画です。

そんなこんなで、個々の描写は凄く見所があります。ただ重い。非常に鬱になります(苦笑)。

たぶん見た後にフィンランドの兵士たちのように疲れ切ってため息つきたくなりますが、冬戦争の辛さ、困難な戦争を戦い抜いたフィンランド兵に興味があるという方は、一度ご覧になってみては良いかもしれません。なおご覧頂いた後の個々の苦情は受付いたしませんのでご了承ください(笑)。


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Last updated  2012.03.30 20:48:38
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