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2012.11.16
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カテゴリ:激動の20世紀史

ビール缶を枕に 

マクナマラ国防長官の主張した海上封鎖案は、エクスコム(最高執行評議会)の議論を一層激しいものにしました。

攻撃賛成派からすれば、封鎖はミサイル撤去に直接結びつかない上に、ソ連・キューバ側に、アメリカ軍の侵攻が間近であることを教えてやるようなものだったからです。
むしろ封鎖に怒ったソ連が、核ミサイルの先制使用に打って出る可能性も捨てきれないと考えました。

一方海上封鎖派からすれば、キューバを空爆すれば、同盟国を攻撃されたソ連が黙ってみているわけがありません。間近いなく世界大戦へと繋がってしまいます。
ですが封鎖という圧力をかけることで、交渉によりミサイル撤去が成功するかもしれません。そうすなれば一滴の血も流れることなく平和的な解決に繋がることになります。

どちらの主張も一理あるわけですが、両者の見解の違いは、ソ連がどういう意図でキューバに核ミサイルを配備したかという事に対する認識の違いであったのだと思います。

攻撃賛成派は、ソ連がアメリカへの核攻撃を辞さない、覇権主義への転換と見ていました。
対して海上封鎖派は、アメリカのキューバへの侵攻を阻止することを目的にしたもので(フルシチョフ書記長の回想が事実を語っているとすれば、ソ連の思惑はこちらでした)、ソ連も核戦争を望んでいないはずだという見解を持っていました。

第3回目のエクスコム以降、双方は激しい議論を交わし合い、まとまりがつかない状態になりました。

議論が紛糾する中、ジョン・F・ケネディ大統領は通常どおりの職務を淡々とこなしていました。

これは大統領がいつもどおりの仕事をしていないと、周囲に怪しまれて、キューバのことが気取られてしまう恐れがあったからです。

しかしエクスコムの詳細は、大統領補佐官ケネス・オドネル(映画『13ディズ』は、ケビン・コスナー演じるオドネルの視点で語られていますが、事実の彼は、ケネディ大統領の補佐とエクスコムの会議運営の裏方に徹して、映画のような活躍はしていません)を通じて頻繁な報告を受けており、会議の全容はほぼ把握していました。

10月17日の夜、ジャック(ケネディ大統領)はマクナマラ国防長官とマクスウェル・D・テイラー大将(統合参謀本部議長)、空軍参謀総長カーチス・ルメイ空軍大将らと会見し、軍事侵攻となった場合の、軍の対応能力について質疑を交わしています。

テイラーは​​、「第2艦隊(大西洋艦隊)主力は、数日中にメキシコ湾に集結予定です(元々演習のために集結中でした)。しかし陸軍は動員をはじめたばかりですので、数週間はかかります」​​と報告しました。

一方空軍のルメイは、「空軍はすぐにでも作戦行動可能です。空軍が行動を起こせば、陸軍も海軍も尻に火がつくでしょう。赤い野良犬が裏庭を徘徊しているのです。これを撃ち殺すのは正当な権利です」と、過激な即時空爆論を主張し、ジャックとマクナマラを辟易させています。

ここでまたまた脱線ですが、カーチス・ルメイ大将について触れたいと思います。

彼は有能で異彩を放つ人物です。功績をあげればルメイの力量が、世界最強と言うべきアメリカ空軍を作り上げたと言っても過言ではありません。

しかし彼は傲慢で才能(彼は努力家で苦学して秀才になったタイプです)をひけらかして他者を見下す悪癖があり、友人はほとんどいません。
ルメイが今の地位にあるのは文字通り自分の力量でしたが、それ故に自らの才能に頼むところが大きい、そういう人でした。

彼の名は日本人にとって複雑な響きを持ちます。

東京大空襲など日本の主要都市を焼き払い、数十万人の民間人を死に追いやったB29による空襲は、ルメイの主導でおこなわれたものです。

さらに余談ですが、国防長官のマクナマラは、当時米陸軍航空隊に属してルメイの部下でした。マクナマラは「勝つためには何をしても許されるのか」と日本への焦土作戦を反対して、ルメイと激しく対立しています。

ルメイにとって敵は徹底的に叩き潰せばよいだけでした。妥協や譲歩など、弱者の戯言に過ぎないという思想の持ち主でした(影でケネディ大統領のことを、「核ミサイルのボタンを押す勇気のない腰抜け」と呼んでいました。一方ロバート・ケネディはルメイを「赤い布を振ったら、見境無く突っ込んでくる狂牛」と評しています)

こういう性格ですから、敵だけでなく味方からも恐れられました。

さらに脱線しますが、ルメイは創成期の航空自衛隊の顧問となっています。当時の航空自衛隊のパイロットたちの多くは、大戦中B29と熾烈な戦いを繰り広げた者が多く、ルメイに険悪な感情を持つ者が多かったといいます。しかしその知識と合理的な指導には不承不承納得したといいます。

なにせ日本を焦土にした男ですから、弱点は知り抜いています。日本の防空システムを作り上げるのに適任だったのです。・・・凄い皮肉ですが。

航空自衛隊での功績から、勲一等旭日大綬章の受勲が決められますが、昭和天皇は親授を拒否し(勲一等旭日大綬章は天皇の親授が通例です。しかしルメイに関しては「無辜の国民を焼き払った者に、授与せねばならぬのか」と述べられたと言われています)、やむなく浦茂航空幕僚長が授与しました。

ルメイはキューバ危機の後も空軍参謀総長に地位にあり、ベトナム戦争では、「(北)ベトナムを石器時代に戻してやる」と北爆を推し進めたことでも知られています。

と、彼の話はここまでにして、話を戻したいと思います。

軍首脳部との話し合いも終わった翌18日、ジャックはソ連のアンドレイ・A・グロムイコ外務大臣とアナトリー・F・ドブルイニン駐米ソ連大使の2人と会見しています。

この会見はミサイルのこととは無関係で、前々から予定されていたものでした。

ソ連側はミサイルがアメリカ側に発見されていることをまだ知りません。アメリカ側も外交交渉の都合ミサイルのことは伏せて会見に臨んでおり、外交というものの半分が、駆け引き・欺し合いであることを伺わせます。

会見は、米ソ両国の関係、欧州情勢について、お互いの立場を意見し合うというもので淡々と進みました。

しかし会議の終了間際、ジャックはさりげなさを装いつつ、グロムイコ外相にこう言いました。

「外務大臣、我が国は貴国のキューバに対する軍事援助を憂慮しています」

「大統領閣下、我が国のキューバに対する援助は防衛のためのものです。我が国は今後ともアメリカとの友好的な関係を望んでいます」

「それではキューバに攻撃用の兵器、例えばミサイルは、配備されることはないと考えてよろしいのですね?」

ミサイルという単語に、一瞬グロムイコは驚いた顔をしたものの、すぐに微笑を浮かべてこう答えました。

「もちろんです大統領閣下」

その表情をジャックはじっと見つめながら、「それを聞き安心しました」と応じました。

一方、会見場の外では、国家安全保障担当大統領特別補佐官マクジョージ・バンディが記者の一人に捕まって、メキシコ湾でおこなわれるという軍の演習(もちろん演習を名目にした軍の動員だったわけですが)について、質問攻めにあっていました。

​「(軍の移動で)南部の鉄道網は大混乱だとか。空挺師団(パラシュート部隊のことです。空挺師団は敵地に夜間降下するのが一般的ですから、精神力も技量も優れていないと務まらず、軍の中でも必然的に精鋭部隊となります)まで動員とは穏やかじゃありませんね」​

​「僕は演習をするとしか聞いていないよ。詳しい話ならペンタゴン(国防総省)に聞いてくれ」​

バンディは逃げようとしましたが、相手は中々放してくれません。

「演習名はオートサックだそうですが、名前からすると本当はキューバに侵攻するんじゃないですか?」

記者の言葉に驚愕したものの、バンディは苦笑して誤魔化しました。

「過激な想像だね。・・・ところで君は、何故オートサックという演習名が、キューバへの侵攻だと思ったんだい?」

「何故って」今度は記者が苦笑して答えました。「カストロの綴りを逆さにしたものだからですよ」

バンディは今度こそ衝撃のあまり顔を引きつらせました。

しかし幸いにも、この時大統領とソ連外相の会談が終わり部屋から出てきたために、記者たちはそちらに飛んで行ってしまったため、彼の蒼白の顔を見咎められずにすみました。

その隙に自分の執務室に飛び込むと、バンディはペンと紙をつかんで「Castro」と綴りを書き、次いで逆さまに書いて、浮かび上がった言葉にうめき声を漏らしました。

「畜生、ペンタゴンの間抜け共め!」

​記者の言うとおり、オートサック(Ortsac)はカストロの綴りを正反対にしたものだったのです。​

徐々にアメリカ政府・軍の動きはマスコミに知られはじめ、隠し通せなくなってきました。方針をいよい決定しなくてはならない局面が近づいてきました。

・・・今回もあんまり進まなかったなぁ。






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Last updated  2021.09.25 14:17:31
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