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カテゴリ:プラモデル・艦艇
初撃を躱した神風ですが、ホークビルを追いかけるのに苦労していました。 老齢艦の神風が搭載しているソナーはとても旧式で、現在の艦のように360度全てを索敵できる性能はなく、探知できる範囲は30度位しかないのです。 おまけにソナーにドーム(雑音が入らないようにした覆い。あと投下した爆雷が爆発した時、ソナー本体を守る役割もあります。それがついていない神風は、爆雷を投下する際はソナーを引き上げて艦にしまわないといけません)がついていないため、15ノット以上の速度を出すと、雑音がでて探知できなくなるという、骨董品のような代物でした。 そのためグルグルと円を描くように航行しながら、ホークビルへ接近を試みるしかないのです(後ろに魚雷を撃つことが出来る米潜水艦を、直線的に追いかけて攻撃されないようにする意図もあります)。 こうして神風とホークビルは、互いに小刻みな変針を繰り返しながら、距離を詰めていきました。 おいかけっこは、優秀な聴音機を持つホークビルの方が有利でした。艦齢22年を超す神風と、竣工から1年半の最新鋭のホークビルでは、装備のスペックが段違いなのです。 再度チャンスをつかんだのは、ホークビルの方でした。 ホークビルの最初の雷撃から1時間20分後、両者の距離は約700mとなり、瞬間的に、神風がホークビルの真後ろの位置についてしまったのです。 「今だ! 7番、8番、9番、魚雷発射!」 ホークビル艦長F・ワース・スキャンランド少佐は、攻撃を命令しました。 約700メートルの距離から雷撃した場合、魚雷は約40秒で敵艦に命中します。いかに俊敏な駆逐艦とはいえ、回避不可能な間合いです。スキャンランドは勝利を確信しました。 「戦果を確認する。潜望鏡上げ!」 このスキャンランドの命令は、僅か数分後、ホークビルを一転して窮地に追い込むことになります。
見張り員の報告を聞くまでもなく、迫り来る魚雷は艦橋からよく見えました。艦橋にいたほとんどが、3本の魚雷が、並行に並んで迫ってくるのを発見したのです。 真ん中の魚雷が神風への命中コースをとっていました。回避しなければ真ん中の魚雷が命中し、回避しようと左右どちらに舵を取っても、左右の魚雷が命中することになります。絶体絶命でした。 水雷長の伊藤治義大尉も、迫り来る魚雷に息をのみ、艦長の春日均少佐の横顔を見ました。 しかし、伊藤の見る春日艦長は、普段と変わらない平然とした姿で、魚雷を凝視していました。 当の春日はというと、腹の中で観念し、「よし、敵潜と差し違えてやろうか」と思ったと回想しています。 その時、命中コースの真ん中の魚雷が波にたたかれ、神風から見て左側に微妙に進路を変えました。 それは見間違い、目の錯覚と言ってもいいぐらいの微々たる変化でしたが、春日には神風の運命を変える大きな変化と見えました。 「3度、面舵のところ!」 春日は右転舵を命じました。艦長の命で神風は右に僅かに艦首が動きました。360度の角度中の3度ですから、遠目では動いたのかもわからぬ位の微妙な針路変更です。 そして、魚雷は神風艦首の左真横、2メートルほどの所を通り過ぎていきました。 まさに紙一重のタイミングです。もし転舵していなかったら、魚雷は神風の艦首に直撃し、艦前部の1/3位を吹き飛ばされて、沈没は免れなかったことでしょう。常識ではあり得ないと言っていい程のきわどい回避でした。 ホッとしたのもつかの間、「潜望鏡、艦首500!」と見張り員の声が飛びました。 神風が潜望鏡の脇を通過していくと、潜望鏡は慌てたように引っ込みました。その傍らを49発の爆雷を、絨毯爆撃するように投下していきました。
スキャンランド艦長は、目の前で見た光景に思わず声を上げました。 僅か700ヤード(約630m。ホークビルと神風の距離の測定結果には、若干誤差があります)の距離からの攻撃を外すなど得ないのに、それが起きたのです。 「魚雷が一本も命中しなかったのを知った時、私は来るべき次の瞬間に、我々が生き残れるのは、幸運しかないと悟ったのです(スキャンランド艦長の言葉)」 ホークビルに発射可能な魚雷はなく(再装填するには、まず魚雷発射管の外側のハッチを閉めて、発射管内の海水を排水しないといけません。当時の潜水艦は華奢で、発射管内の海水を不用意に排水するたけで、バランスが崩れて艦首が浮いてしまうなどの問題が生じるので、一端が戦闘が始まると、再装填は無理でした)、迫り来る神風に反撃することも出来ません。 「急速潜航!」 潜望鏡を大あわてで引き下ろしながら、スキャンランドは命じました。 「敵艦、爆雷投下!」 聴音手が、慌ててヘッドホンをかなぐり捨てながら(音を増幅しながら聞いていますから、爆雷のような大きな音をヘッドホン越しに聞いたりしたら、鼓膜が破れるどころか、ショック死すらしかねません)、叫びました。 「爆雷防御!(爆雷で外壁が破れて浸水しても、一区画で食い止められるよう、各ハッチを閉めて、乗員は倒しないようしっかり捕まって体を固定しろと言う意味です)」 艦の周囲で次々の爆発し、ホークビルの乗員たちは、転倒しないよう歯を食いしばりましたが、艦の真下で爆発した一発は強烈で、多くの乗員が床にたたきつけられました。かろうじてそれに耐えたスキャンランドは、妙な感覚に気がつきました。 「トリム(潜水艦のバランス)どうなっている! 艦首に浮力がついているぞ!」 潜水艦が潜水する原理は、簡単に言えば海水を海水槽(「メインバラストタンク」と言います。その他に、艦の姿勢をコントロールする「トリムタンク」があります)に注水して、浮力を上回る沈む力を得て沈みます。海水をおもりにするのです(浮上する時は逆に、海水槽の海水を圧縮空気で排水し、浮力を得て海上に出ます)。 急速潜航中は、艦首方向が下(つまり沈む方)になっていないといけません。しかし、上向きになっていることにスキャンランドは気がついたのです。 もちろん、乗員が勝手に浮上の操作をしたわけでも、誤った操作をしたわけでもありません。 後の調査でわかった事は、ホークビルの真下で爆発した爆雷の圧力で、艦首のバルブが一時的に麻痺して、海水の注水が出来なくなったのです。そのため注水バランスが崩れ、艦首に浮力が発生してしまったのです。 浮力のついたホークビルは、乗員の操作を無視して、上昇を始めてしまったのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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